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青藍の勇者  作者: 無眠
第1部 2人の勇者
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第1話 夢も希望もない世界に、救世主は降り立つ

「チロル遅いよー!早くしないと置いていくよー?」


 2つに結んだ髪をなびかせ、9歳の少女アンナは兄のチロルに呼びかける。


「アンナ待ってー、そんなに走ったら転んじゃうよ?」


 チロルは息を切らしながらアンナの後を追う。


 2人が訪れたのは近所で有名な宝石屋。アンナとチロルは母親に誕生日プレゼントを買うために毎日貯金をしていた。

お店に入ると多種多様の宝石に目を光らせる。


「すごーい!ピカピカだー!」


 アンナは目を輝かせる。


「どんな色だったらお母さん喜ぶかな?」


チロルは頭を抱える。とりあえず高価なものをあげたいからという理由で来たはいいものの、どんな色の宝石がいいかはわからなかった。


「前日に聞いておけば良かったな」


悩むチロルにアンナはルビーのネックレスを指さしてこう言った。


「これならいいんじゃない?この赤色の宝石!」


 キラキラと光る宝石にチロルは目を輝かせる。


「よし!これにしよう!」


 高額のネックレスを買い、2人は店を出る。


「すこし高かったね」


「この日のためにお手伝い3ヶ月頑張った甲斐があったね〜〜」


2人は上機嫌で店を後にした。


「このネックレス、ママ喜ぶかな?」


  アンナは少し不安げな表情をする。


「大丈夫だよ。こんなに綺麗なネックレスなんだし、きっと喜んでくれるよ」


  チロルはそうやって勇気づける。


  そうして町を歩いている時、ブロンドの女性がチロルの横を通り過ぎる。


  その姿を目で追うチロルにアンナはジト目でたずねる。


「......チロルってああいう女の人が好きなの?」


「いや、そんなことないけど......」


「嘘ばっかり〜」


「そういうアンナはどういう男の人がタイプなの?」


チロルが聞き返すとアンナはバッグから紙を取り出し得意げに見せる。


「この人ー!」


  その紙に貼られてる写真の人物は黒髪に短髪の水色の瞳をした中性的な顔立ちをしていた。

だが問題はそこではなかった。


「アンナそれ指名手配犯だよ」


「そうなの!?」


「ほら、ここに書かれてる」


  チロルが指さした文字をアンナはまじまじと見つめる。


「ほんとうだー!」


「よりによってなんで指名手配犯が好きなの...」


  チロルは呆れながらアンナに質問する。


「うーん、顔!」


「顔!?」


「そう!顔!特に瞳が綺麗で好き!」


「ほんとうに面食いだね......」


「でも悪い人だからもし見かけたら捕まえちゃおうかな〜!」


「結局捕まえちゃうんだね......」


チロルは奔放なアンナに困惑する。昔からこういう風に振り回されているが不思議と悪い気はしないのがチロルの本音だ。


「だーかーらー!金払えって言ってんだよ!」


突如怒号が聞こえる。アンナとチロルは思わず耳を押さえる。


「この声、果物屋の店主さんの声だよね?」


「なにかあったのかな?」


  2人は声がした方を向く。そこには近所の果物屋さんの店主と言い合いをしている黒いフードの男の姿があった。


  アンナとチロルはその会話の内容に聞き耳を立てる。


「あんたが助けたガキどっかに逃げちまったじゃねえか!責任取って金払えって言ってんだよ!」


  店主は声を荒らげながらそう言った。どうやらお腹を空かせた子供がいて、リンゴをねだっていたが身長が理由でとることが出来ず、フードの男が代わりにとってあげたらリンゴを持って逃げていったらしい


「今はお金がないんだよ。明日払うから今日は見逃してほしいな?」


  そう頼み込む男に店主は引き下がらず金を要求する。


「この時代に金持ってねえやつなんていねえんだよ!払えねえならお前さんの持ってるその服で払ってもらおうか!」


「え、服?」と戸惑っている男に対してアンナが割り込む。


「ねーねーどーしたのー?」


  店主はアンナを見て先ほどとは違う柔らかい口調で説明する。


「ああアンナか、いやな、こいつが助けたガキが俺のリンゴを盗んだんだよ。こいつのせいで盗まれたんだから責任もって金払えって言ってんのに聞きやがらねえんだ...」


 アンナは男の方を向く。フード越しに見えたその表情は少し怯えていた。


「りんご盗んだその子が悪いんだしいいんじゃない?」


「でもなぁ、一応商売だから...」


  そう言って髪のない頭を搔く店主にチロルが口を開く。


「なら僕が払うよ。まだお金余ってるし、そのリンゴそんなに高くないでしょ?」


「そーそー!だから今日はその人と盗んだ男の子も見逃してあげてね?」


  2人の説得に店主はため息をついて応じる。


「わかったよ、今日だけだからな!」


  お金を払ったあと、2人はフードの男を連れていく。


「ありがとう、服で払えって言われた時はすごくドキドキしちゃった」


  市場を離れ、人気のない一本道を歩いている時フードの男は2人にお礼を言う。その声は男か女かわからない中性的な声だった。


「いえいえ!困ってる人がいたら助けるのは当たり前だもん!」


「なんで見ず知らずの僕にそこまでしてくれるの?」


  フードの男はアンナに問いを投げかける。


「ママが言ってくれたの!困ってる人を見かけたら助けてあげなさいって!そしたらその行いは自分に返ってくるからって!それにお兄さんも男の子助けようとしてたし、そんな人が災難な目にあうのは放っておけないからね!」


  アンナは笑顔で言葉を返す。


「お兄さんは何してる人?」


  チロルの質問に男はフードを深く被って返答する。


「......旅人だよ。」


  その声はどこか元気がなさそうだった。


「今日は大変だったね、良かったらアンナ達がおうちまで送ってあげるよ?」


「いやいいよ、優しいね。こんなに優しい人がいるだけでもこの国は良かったって思えるよ。」


  男(女?)の言葉にアンナの表情が曇る。


「本当にそうなのかな......?」


「どうしたの?」


  アンナが石の上に座り込む。男は浮かない表情のアンナを不思議そうに見つめる。


「僕まだこの国に来て間もなくて何も知らないんだ。だからどんな国か教えて欲しいな」


アンナはゆっくり口を開く。


「この国はね、毎日魔獣や魔女に荒らされてるんだよ。この国の王様も、魔女に手が出せなくて毎日大勢の人が死んじゃって、おうちがない子だっている。希望なんてないんだよ」


  アンナは静かにそう言った。チロルも浮かない表情をする。


「優しい人が傷ついて、悪い人だけが得がして、そんな世界は間違ってるよ!アンナのパパやママだって......!!」


「アンナ、そこまでにしとこ?」


  チロルがアンナの言葉を遮る。


「すみません。初対面の人にこんな話をしてしまって」


「大丈夫だよ」


  チロルは頭を下げる。


  きっとこの国の子供たち全員がこういった考え方をしているのだろう。もはやそれが当たり前になっている。男は自らの失言を悔いた。


「希望がないなんて嘘だよ。僕がそれを証明してみせる」


  独り言のようにつぶやくと、フードの男はその場から去ってしまう。


「怒らせちゃったかな」


  後ろ姿を見てアンナは呟く。


「そんなに悩まなくて大丈夫だよ。さあ帰ろ?遅くなったら魔獣が来ちゃうから。」


  チロルはアンナを励まして手を繋ぎ再び家路につく。


  しばらく2人で歩いていると、地面に倒れている男を見かけた。


「み、水......」


ボロボロのコートとニット帽を着て、地面を這いずり水を求める姿はとても苦しそうだった。


  見捨てようと思った。

  でもアンナの性格と、かつての思い出がそうはさせてくれなかった。


「(ママならこういう時、ちゃんと助けてくれるから......)」


  倒れている男にアンナは手を差し伸べる。


「大丈夫ですか?」


  男には反応がない。


  アンナは男の手を取る。


  すると急に男がアンナにぶつかってきたのだ。アンナは後ろに倒れてしまう。男はすぐに走ってどこかに行ってしまった。


「アンナ大丈夫?」


  チロルがアンナを起き上がらせる。


「あれ......?」


  立ち上がったアンナはすぐにある違和感に気づいた。財布とネックレスがない。


「ない......」


  チロルは何があったのか察した。すぐに取り返そうと後ろを向いたが、男の姿はもうなかった。


「どうしよう......ママの大事なプレゼントなのに......」


  アンナは目に涙を浮かべる。自分が鈍感だからこんなことになったのだ。

 自分がお人好しで、楽観的だから、何も考えてない馬鹿だからこんなことになったのだ。


「ごめん、ごめん、ごめん......」


  悲しみで顔が歪む。


「大丈夫だよ。アンナは悪くないよ。プレゼントはまた買い直そ?」


  チロルはアンナを抱きしめてそう言ってくれた。


  気がついたら空は茜色に染まっていた。

  空だけはいつも綺麗だけど、この世界は汚くおぞましい。そう思った。


  2人は会話もせずに道を歩く。ふと空を見上げる。


  小さな星のようなものが飛んでいた。流れ星かなと思ったが、願いを込めたって実現はしないだろう。


  でもぼんやりと見上げていた。その星は、いや隕石は、こっちに向かってくるのがわかった。


「アンナ、あれって......」


  チロルはすぐに危険を察知して、アンナの手を引く、2人は隕石から逃れようと走って逃げる。


「(なんで突然隕石が......?)」


  その答えは見つからない。突然の不幸なんていつも体験したはずだが、未だにそれに慣れることは無い。


  隕石の形までわかるようになった。それほど近い距離まで迫ってきてた。小石に躓いて転んでしまった。

  チロルが慌ててアンナに覆い被さる。


「(希望がないなんて嘘だよ)」あの時のあの人の発言が脳裏に浮かぶ。


「(アンナ、困ってる人を見かけたら必ず助けてあげなさい。他人のために行動することは、いつか自分に返ってくるから。人にやさしく、たくましい子になりなさい)」


  亡き母の言葉が脳裏によぎる。


「嘘つき......」


  その言葉をアンナは否定する。


「(やっぱり希望なんてないじゃん ママの誕生日も祝えなくて、ネックレスもとられて、2人とも隕石に押しつぶされて死ぬ。優しさで救われたことなんて1回もなかったじゃん......)」


  救いを求めたって誰も助けてくれないだろう。

  秒数が長く感じ、心臓の鼓動が加速する。9年の思い出が脳裏に流れ続ける中、2人は目を閉じて終わりを待つ。




 ────


  しかし隕石はアンナ達を押しつぶすことはなかった。


  2人は恐る恐る目を開ける。

  あの大きかった隕石は粉々に砕けていた。


  そして2人の前に立っていたのはさっき助けたフードの男だった。


  手には刀を持っていた。後ろ姿は先ほどの弱々しい姿とは違い勇ましさを感じた。


「善行は必ず自分に返ってくる。優しい人が馬鹿を見る世界なんてありえない。僕がこの絶望の世界を終わりにする!!」


  振り返らずにそう言った。いや、言ってくれたのだ。


  アンナは言葉が出なかった。あの時の自分の行動は無駄じゃなかったと初めて思えたのだ。今この人を形容するとするならばきっとこうだろう。


  まさしく、勇者そのもの。


「あ、ありがとう!アンナのことを助けてくれて!」


  チロルはお礼を言った。


  フードの男は懐からあるものを取り出した。


「これって君たちのものだよね?さっきニット帽の男が持ってたから取り返したよ」


  それはアンナとチロルが母親へのプレゼントとして買った、ルビーのネックレス。


「え、アンナたちのために取り返してくれたの?」


「うん、だって君たちも僕を助けてくれたからね。恩返しだよ」


  アンナはそのネックレスを大事そうににぎりしめる。本当に良かった。自分の優しさは無駄じゃなかった。


  風がなびき男のフードが脱げる。2人は初めてその素顔をちゃんと見れた。黒髪でショートヘア、耳にピアスをつけていた中性的な雰囲気を持つその顔立ちに2人は見覚えがあった。


「ミント......」


  アンナは男(おんな?)の名前を呟く。ミントと呼ばれた指名手配犯はフードを深く被り直すとアンナ達に背を向ける。


「それじゃ」


  ミントはそのまま立ち去ろうとするが、そのままふらついて倒れてしまう。


「え!?」


  2人は思わず驚く、そしてミントに駆け寄る。


「お腹すいた...」


  そう言い残して、ミントは気を失った。


「どうする、チロル。」


「うーん、指名手配犯なんだけど、僕たちを助けてくれたし......」


「一旦連れて帰る?」


「そうしよう」


  2人でミントを起こすと、肩を貸して連れていく。


  優しい人が得をしない時代なのかもしれない。

  悪い人ばかりが楽をする時代かもしれない。

  でもあの時ミントを助けたおかげで自分たちも助かった。初めて自分の善行が報われたのだ。


「(でもどうしよう、指名手配されてる人だなんて......まあいいか!家に連れ帰って色々白状してもらおーっと!)」


  茜色の空を背に、アンナはそう決心した。






挿絵(By みてみん)


青藍の勇者の主人公ミントです


知り合いの方が描いてくれました。以後お見知り置きを

ミント

職業 指名手配犯

年齢 不明

身長 151センチ

体重 32キロ

性別 男の子らしい

好きな物 りんご

嫌いなもの 曲がったこと 節足動物 貼り紙

容姿 黒いショートヘアー 水色の瞳 白いブラウス 黒いマント 黒いロングスカート 腰には日本刀を携えている

性格 優しく素直 少し子供っぽい




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