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戦闘狂の異世界記録  作者: 茜音
異世界探索記-日常-
8/68

大図書室

 何周目かの談話室。さっきから同じ場所ばっかぐるぐるしてる気がするんやけど。この学園どうかしてんな。迷路じゃねーんだよ、壁ぶっ壊した方が早いんじゃねーのかこれ。


「どこだよ図書室……」


 そう。私は図書室を探して迷子になった。


 経緯は今から20分位前に遡る。


 紅葉が居なくなっても、暫く突っ立ってた。何が何だか私にもよくわかんねーんよ。

 なんだって?記憶を戻す?そんな事出来る訳ねーだろ。現に今、私の記憶は戻ってない。


 けどもう、あいつは行っちまったし、ここにいてもする事ねーし。


 そうだ。情報収集しよう。


 さて、この世界の事を知るにはどうするか?


 簡単な話だ。図書館に行く。図書館に行って、調べる。図書室でも可。なんだってここは学園、あるに決まってる。


 そう思って、まずは壁に書いてあるマップを探した。

 マップの代わりに、何階に何があるかってのが書いてあった。モールとかにある、案内板みてーな感じで。


 んで、それを見るに図書室は1階で2階分下。

 だから私は、階段で1階まで降りた。

 そんで、図書室を探し始めたんやけど、階段のすぐ前に談話室があったんよ。道は右、左、談話室の後ろ、の3つ。談話室の後ろは、校庭?に繋がる扉と保健室。

 右の方は、調理室とか化学室とか、なんかそんな感じのがあった。調理室と化学室を同じ廊下の正面に置くな。何かあったらどうすんだ。

 で、そのまま進むと右に曲がり道があって、そこを曲がったところの廊下の真ん中には職員室。ちな中は誰もいなかった。

 更に右に曲がれる、ってより右しか行く方が無かったから曲がると、音楽室やら物理室やら生物室があった。化学室だけハブみたいになってるし分かりにくいから変えた方がいいと思うぞ、これ。

 で、もう1回右に曲がれるから曲がったら、カウンセリングルームと面談室1〜3があった。正直カウンセリングのプライベートなくね?

 そんで直進したら談話室に着いた。


 分かってくれたと思うけど、1階にあるはずの図書室がない。


 最初は見落としかと思ったんよ。けどやっぱり何周しても図書室は無い。左回りに回っても無い。

 移設されたけど書き換え忘れたとか?って可能性は考えたけど、1階の廊下に書いてる案内板にもちゃんと図書室って書いてあるんよな……まさか全部書き換え忘れたとかないやろし……



 こんな感じで迷った。つーか現在進行形で迷ってる。

 校外の図書館探しに行く方がいいかもしれねーな。


「ん、あいつって確か……?」

「恐らくそうだろうな」


 不意に後ろから話し声が聞こえて、私はそっちの方を振り向く。

 1人は、緑髪に襟足が長くて白色、瞳はサファイアブルーで、紺色のパーカーに黒T、黒のバギーパンツと白のスリッパ。

 もう1人は、黒から灰色のグラデで背中より少し長い位で、瞳はガーネット色。黒Tに白衣に、白いスキニーパンツ、黒のローファー。グラデ髪の方が少し背が高い。


 ……誰?つか学校の中でスリッパとローファーってなんか汚くね?後性別は?予想で言うとどっちも男。髪の長さと見た目にはもう騙されねーからな。


「お前が影星で合ってるか?」


 緑髪の方が気さくに話しかけてくる。知らねーやつに名前知られてるし。


「そうやけど。お前らは?」

「あ、悪い。言うの忘れたな」


 緑髪は、グラデ髪の手を抑えながら言う。


「俺は[サーガ・ファイス]。魔王組織の1つ、〈玲瓏の理想郷(グロリアス)〉のリーダーと、ここで教師やってる。気軽にサーガって呼んでくれ。んで……おいお前?」


 緑髪──サーガは、グラデ髪の顔を覗き込む。私もちょっと見て、思わず口が開いた。

 聞き取れない。聞き取れねーけどなんか言ってんのは口の動きで分かる。しかも結構早口で。


「いい加減にしろ!!」


 サーガが脛辺りを蹴ると、戻ってきたのかピタリと口が閉じた。

 それからゆっくりと私の方を向く。


「[ナイティア・ノクト・ブラッドノヴァ]。魔王組織、〈暗影の祝園(アビスヴァイス)〉のリーダーをやりながら、教師をやっている。サーガの夫だ」


 夫?

 夫って、嫁と夫の夫か?夫婦の夫か?

 ってことは、サーガは女だったんか。


「バカ誤解生んでんじゃねぇ!」

「何がだ」

「俺とお前は付き合ってない!結婚もしてない!お前がストーキングしてるだけ!!」

「見守りだ」

「ぜんっっっぜん違う!!!!!」


 あ、一方的なストーキングなんやな。

 サーガの否定がガチすぎる。


「大体俺とお前は男だろうが!!」

「だから何だ。俺達は性別が変えられるんだし、問題では無い。どんなお前も好きだ」

「ヤバいこいつ話通じない無理」


 なんかちょっと可哀想になってきた。まさかストーキングされてる奴とストーキングしてる奴に会うとは。しかも教師で。

 この学園、なんで無事なんやろ。すげー……


「なあちょっといいか?」


 ほんとは話したくない。主にナイティアと。こいつヤバい。結構ヤバめの奴は見てきたと思ってたけど、それを超えてきた。

 けど私も私で困ってる。頼りにしたくねーけどするしかない。


 パッとサーガは顔を輝かせる。辟易してたんかな、可哀想。


「図書室行きたいんやけど無いんよ。どう行くん?」


 すると、サーガはナイティアの手を離し、談話室まで歩いて行く。大人しく私とナイティアは着いてった。こいつと一緒にいたくねー……


「こっちのここの足元にな……」


 円卓の後ろの更に奥、本棚が2つ設置されてて、丁度真ん中が空いてる。談話室の中までは確認してなかったな……


「これだ」


 指差す先には魔法陣……?

 ……いや、


「分かるかこんなん!!」


 思わず叫んだ。


「やっぱ分かりにくいよな?みんな言うんだよ」


 言いながら、苦笑を浮かべるサーガ。誰がやったんこの仕組み……


「それに乗れば、図書室まで転移出来る。帰りも同じだ」

「ん、さんきゅ」


 感謝の意を込めてサーガに手を振れば、笑顔で振り返してくれた。尚無反応なナイティア。

 多分あいつの頭はサーガオンリー。よし。もう知らね。


 魔法陣の上に乗ると、体が淡く光る。

 ふわりと身体が浮いたような感覚。


 そして、周りの景色が一変した。


 本棚と本棚と本棚。目に映るのは、本と本棚位しかない。そして無駄にデカい。司書もいない。使い方も分かんねーし。


 とりあえず、歴史やらなんやらは難そうやから後回し。私が知りてーのは、能力についてとか、天性(ギフト)についてとか、特殊な力系の話だ。歴史はその後でいい。まずは生きねーと話にならねーからな。


 とはいえ、この膨大な本の中から探すのは時間かかりすぎるな……虱潰しは日が暮れる所か日跨ぎそう。

 図書室には……つか図書館には検索出来る端末がある、はず。つか頼むあってくれ。無かったら私泣く泣く手動で探さねーとならねーから。マジ頼む。今だけは邪神に縋りたい。

 入口辺りをキョロキョロと見回す。

 無い。


 惨敗。詰み。


 なんて悲観的な言葉が過ぎる。


 その時。


「あれ、君って……」


 おい、誰だ。聞いた事ない。聞いたことない声だけど私の事知ってる。そういやあいつらになんで知ってんのか聞き忘れた。

 いや今はいい。


「やっぱり!影星くんって君だよね?」


 茶髪ロングに茶色の瞳にワンピース。


「僕は羅刹(らせつ)!〈不死鳥大魔王(フェニックスロード)〉の」

「ちょっと待て。お前はなんで私の事知ってるん?」


 名乗りを邪魔してるようで悪いけど、お前の名前より気になる事だ。目立ちたがり屋でもねーんだぞ私は。


「え?うーん……そうだなー、戦ってたのを沢山の人が見ていて…それで『あの二人と遣り合ったなんて凄い!名前はなんて言うんだろう!』みたいな感じで広まったのを聞いたんだ!それで、赤茶色の髪の毛と着物っぽい服と赤色の目、っていう特徴も出回ってるからそれで」

「分かった。羅刹な、よろしく。性別は?」

「男!」


 なるほど。よく分かった。あそこで戦闘したから、大勢に見られて有名になったと。全く嬉しくねーな。


 ……あれ、私あいつらに名前言ったか?確か、「人に名前を聞く時は自分から」「そんなテンプレ求めてねーよ」ってやり取りの後戦闘に入ったはず。ヘヴィーから聞くまで私はあいつらの名前知らなかったし、それは向こうも同じ、だった、はず。

 唯一あるとすれば紅葉か。名乗ってねーのに知ってたなら可能性は十分。

 多分そういうことだろ。


「それで、君はどうしたの?」

「いや、本探してるんよ。でもこん中から目的のやつ探すの大変やし、なんかいい探し方ねーかなって」


 すると羅刹は、片手で私の手を引いて、もう片方の手で近くの本棚に触れた。

 特に何も起こらない。


「どんな感じの本が欲しいかを考えながら本棚に触ると、その本があれば手元まで飛んでくるんだ。無かったら無いよ」

「へー、なるほど。ちなお前が欲しいのは?」

「今はね、ナイティア先生からの課題の為に、化学関係の参考書が欲しくて……」


 あいつ化学教えてんのか。教えられるんかあいつ。


 羅刹は私の手を引きながら、本棚を次々と触っていった。分かりやすくジャンルとかも書いてねーのはなんで?って聞いたら、「寄せ集めだから」らしい。整理しとけや。

 10何個か回って、漸く当たりを引いたらしい。

 本棚から、一冊の本が出てきて、羅刹の元にやってくる。……本にこんな言葉使うこと普通はねーな。


「お、あった」

「返す時は?」


 長期間借りる予定は無い。ここでちゃっちゃと流し読むだけだ。でも一応知っといた方がいい。知識は持っといた方が得やからな。


「中央にボックスがあって、その中に入れると勝手に元あった場所に送られるんだ」

「へー便利やな。けどそれが出来るなら整理とかも出来るんじゃねーか?」

「そのボックス、作ったのヘヴィーさんらしいんだよね」

「あいつすげーな」


 なら尚更整理出来る機械作って欲しいけど、ヘヴィーにはヘヴィーの事情があるんやろ。多分。


「じゃあ、僕はこれで。捜し物見つかるといいね!」

「さんきゅ、頑張れよ」


 羅刹がニッコニコで手を振って、魔法陣で消えたのを見届けてから私も本を探し始める。


 欲しいものを考えながら……まずは「能力について」か。


 能力について……能力について……


 頭上からバサッと音が聞こえる。一発で見つけちまった。ラッキー。

 そこまで分厚くない本を落とさないように受け止めて、近くの椅子に腰かける。さて、気になるやつだけ読んでくか。


 えーっと……魔力について、は別にいいか。能力について……一応適当に流し見するか。


 パラパラと適当に何となく読む。まあ、『魔力を使えば能力が使えるよ!』みてーなこと。なんか知ってた。

 目次に戻って、更に気になる項目を探す。


 すると、固有能力(アンデッドスキル)について、なんて項目があった。なんだそれ気になる。


 ページ数を確認して、捲ってみる。


=====

固有能力(アンデッドスキル)


 固有能力(アンデッドスキル)とは、能力の効果の1部のみを、分離させ、進化させたもの。分離した効果は、元の能力から引き剥がされる。進化条件は、未だに分かっていない。強力な効果である事が多いが、その分魔力の消費量も増える。

=====


 ……能力ねーと話にならねーなこれ。

 これ以上は、目次を見てもめぼしい物は特に無かった。


 気を取り直して次は天性(ギフト)だ。


 とりあえず、能力の本が入ってた本棚に触れてみる。

 特に変化無し。寄せ集めなら流石にねーか。手当たり次第探すしか……

 両手を使って一度に2個ずつ探していく。なんかあれ。何でもいいからなんかあれ。

 そんな切実な願いが届いたのか、20何個目かで紙が落ちてきた。本ですらねーじゃねーか。でも仕方ねーのかもな、2ヶ月位前……ミ=ゴやイス人が来た辺りと同時期らしいし。能力は前からあったやろけど、直近だから情報はねーよな。

 けど紙1枚やしすぐ読めそう。


=====

天性(ギフト)についての調査結果』


[観測者]朱杏(すあん)によると、天性(ギフト)はその人物と相性のいいものになる様だ。

また、無差別に天性(ギフト)を与えた事により、一定数自身が強くなったと錯覚する愚か者がいた模様。力量を見極めず、対した実力も無い転移者が死んだ例もあり。選定の為、一人以上、天性(ギフト)を与えるに値するかの試験を、転移直後に極秘で受けさせる事を推奨する。

進化は現在迄に未確認。変質も未だ見ていない。

天性(ギフト)の効果は、天性(ギフト)でのみ相殺可能。その際、一時的に失われるが、約半日後に再度使用可能。

通常、常時発動状態となっている。


調査者 ヘヴィー・プラネットホーム

=====


「これあいつが書いてたんか…」


 思わず声が漏れる。

 確かに「解体と実験と思考を繰り返した」とか言ってたな。まさかこんなところにあるとは……


 それにやっぱあいつら、試験用だったんか。殺気が無かったのもそういう理由なんやな。


 後気になる事……は別にねーか。


 本と紙を持って、真ん中のボックスまで向かう。ちょこちょこ勉強してる奴いるし、やっぱ図書室にはみんな勉強しに来るんやな。めんどいし見つからねーようにしよ。


 出来るだけ気配と足音を消して、真ん中のボックスに向かう。辺りに誰もいない事を確認してから、そっとボックスの中に戻した。

 幸いボックスは無音。っつーか、この世界の奴ら風に言うなら、魔力の残滓を辿って云々……みたいになるんかな?そこら辺はヘヴィーに聞かねーとなんとも。


 こそこそと魔法陣の元まで戻り乗り込む。行きと同じように、光に包まれて少しの浮遊感と共に、気付いたら談話室に戻ってきた。

 この世界なんでもありやな。


 さて、じゃ寮に行くかと思った所で。

 なんか……なんだろ。上手く言えねーけど、こう……近い感覚だと頭痛がする。痛いって感じじゃないんやけど、ちょっと変な感じ。

 嫌な予感を感じた私は、そっから猛ダッシュで外に飛び出した。談話室の後ろから校庭に出て、校庭突っ走って寮の前に行く。

 511、なら5階か。

 立ち止まって下から階を数える。

 1、2、3、4…5階って1番上か。

 見上げるとまあまあ高い。


 けど、今の私なら行ける。

 素の身体能力は高い方。その上、今は100倍の補正がかかってる。

 5階まで跳び上がるのもありだ。


 力を込める。

 助走無しの跳躍。


 思いっきり地面を蹴って──跳んだ。


 爆風と砂埃が宙を舞う。

 高さは十分。けど距離がちょっと足りてねーか……


 しゃーない。


 寮に近付けるように、体を横にして虚空を蹴る。

 思ったより何十倍も速く水平移動して、そのまま壁に衝突……しそうになった。

 両手を壁に着く。衝撃で腕が痛かったり、壁にヒビが入ったりしたけど壊れずに済んだ。

 柵は勢いのせいでその部分がご臨終したけど。

 建物にそこそこの被害が出たとは言え、崩壊してないんやから許してほしい。


 廊下を早歩きして511まで向かう。

 鍵穴に鍵を差して解錠。部屋の中に飛び込んで、一応鍵をかけた。


 部屋にはベッドと机しか無かった。部屋は綺麗やけど、今はそんなこと気にしてる暇無い。


 壁に凭れかかって一息。


 そのタイミングで、脳内に文章が流れ込んできた。


 ───魔力変換の終了……confirmed(確認済み)


 ───天性(ギフト)と能力の授与……start(開始)

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