撤退と犠牲
気配を辿って駆け寄り、体を手繰り寄せる。
触れた指先が、あまりの冷たさに熱を失い僅かな痛みを訴えた。しかし、そんな事は気にも留めず、抱きかかえて立ち上がる。
伝わる体温によって、觜霊の身体も徐々に冷えていく。今は未だ、辛うじて高速循環により温めているが、それもいつまで保つか分からない。
早い所、もう一人の方も──
「ッ……」
「あれ?頑丈なのです」
気配が迫っている事を感じ、反射で刀を構える。直後、骨まで響く様な衝撃に顔を顰めながら力任せに押し返した。
攻撃自体は受けきれた様だが、刀を握る手に力が入らなくなりつつある。一重に環境のせいだろう。
「待ってくださいなのです!」
声と共に繰り出された攻撃を、気配で拾い躱す。
待てと言われて待てるような状況ではない。
素早く二人目の元へと向かい、冷えた体を背負う。
目的の第一段階である回収は果たした。後は、護りながらこの世界から抜けるだけ。
方向感覚が間違っていなければ、今いる位置の斜め後ろ程から来たはずだ。剣士として、長く生きている自分の感覚を信じるしかない。
「逃げるのです?大魔王が?」
「すまぬが今は挑発に乗っている場合では無くてな」
正面からの攻撃を紙一重で掻い潜る。
そして、自らの拵に手をかけた。
硬質の物がぶつかり合う様な音を背後に聞きながら、武器を捨てた事によって僅かに上昇した速度で駆ける。
自ら武器を手放した事に驚いたのだろうか。
微々たるものとは言え、一瞬の不意を突いて逃走するだけの手助けにはなった様だった。
「な、ちょ……!」
即座に追いかけてくる足音がするが、流石に觜霊の方が速かった。
迷わずにワープホールの元まで一直線に走り、外へ飛び出す。
視界が開け、氷で出来た美しい街並みが広がる。
ほっと息を吐いた瞬間、ワープホールから冷気を纏った蔦が2本、飛び出してきた。
咄嗟に振り返り、掌から魔力を放つと驚いたように引っ込んでいく。
それ以上の追撃は、不可能のようだ。
安堵の息と共に、血を吐き出す。
高速循環中の魔力の流れを、無理に断ったからのようだが、今は気にしている場合ではない。
すぐさま2人の容態を確認すべく、地面に降ろす。
「お主ら、ぶ……」
無事かと聞こうとして、言葉に詰まる。
サーガは腹部、ナイティアは胸部を貫かれた跡があった。傷口は、体内の水分が出たのか凍っている。
更に、両名とも指先の皮膚が赤くなってしまっている。
軽度とはいえ凍傷が起こっているのだ。
体も冷たいが、幸いなことに、もしくは魔王故か一命は取り留めているようで、今度こそ觜霊は胸をなでおろした。
とはいえ、時間が無い。
再度2人を担ぎなおすと、魔力の流れを少しずつ落ち着かせながら学園へと転移した。
もしかして:初の犠牲者




