戦闘狂と見知らぬ能力
いつの間にか身に覚えのない能力持ってた、みたいだ。
いや、身に覚えがないってのは語弊があるかもしれない。心当たりはある。多分、いや絶対、穂が死んだ裏世界だ。それ以外は思いつかない。
気づいた理由は単純で、能力目録には見覚えのない9個の新しい能力が追加されてたから。
裏世界で3人殺してたから、魔力増強にコスト全部振ったんやけど、そのついでに何となくページめくったらあった。
だから、今からこの知らねー能力をどっか適当な空き地で実験しようと思ってた。
魔力は雨飾から大量に貰ってきたし、多少無駄使いしても怒られんやろ。夜鴉も「今日はもういい」的な事言ってたし、空いた時間を有効活用、しようとしたんやけど。
「ん、なんだ?」
進行方向から爆発的な殺気を感じて足を止める。
どっかで戦闘でも起きてるんか?裏世界の奴らがこっちに来てる?でもなんで?
いや、そんなことは私が考えてもなんともならねーか。行けば能力の試し打ちついでに戦えるかもしれねーしな。
魔力残量は、まあ5分の4くらい。十分あるけど、【深淵の断罪】で持ってかれる量は意外とバカにならない。なんせ元の魔力消費の1.5倍、呆気なく使い果たされる可能性も大いにある。
足元の土を踏みながら進む。一歩一歩、近付く毎に漂う圧は強まる一方。広い空間に現れた、崩壊こそしているものの、僅かに形が残る見覚えのある白い建物を前にして、昨日の事を思い出した。
「これ、蘭葉蘭達の家──」
その瞬間、正面から弾丸程度の速さで瓦礫が飛来した。
咄嗟に横に避けると、それは勢いを落とすことなく後方へ飛んで、視界から消える。
「何が起きて……」
訝しみながらも近付いた、時。
聞き逃しそうな程小さく、ガラスが割れる様な音がした。
「あ……?」
何だこの音。
「……ッ!」
直後、黄色い何かが私目掛けて一直線に向かってくる。反射的にバズーカを翳せば、1秒もしない内に『それ』は衝突した。
風が吹き荒れる中、バズーカ越しに見てみれば、そこには金色の髪を揺らし、黒い角……角?を付けた威弧燈。
……にしてはなんか様子がおかしい。
「なー威弧燈、お前どうしたん?」
試しに話しかけてみても応答しない。
それ所か、突然向こうの力が増した。ザリ、と足が地面を擦って強制的に後退させられる。
マジか、私が力負けしてんのかよ。
まあ、それならそれで別にいい。
何考えてんのかは知らねーけど、折角やし少し付き合ってもらうか。
「どうせ正気じゃねーオチやろし」
5つの魔法陣が浮かび上がる。そこから、小型のナイフが1本ずつ、両肩の辺りを狙って一直線に飛んだ。
使ったのは【魔装展開】。魔法製の武器、らしい。何が違うのかはわかんねーけど、能力で出したものなら強いはず……
「……あ、ふーん」
だと思ってたのに、全部弾かれた。
地面に刺さったそれらは、その場に火を残したり、爆発したり、地面を凍らせたりして消える。
「いやそんな事言ってる場合じゃねーな……」
私より力が強くて半端な能力じゃ傷一つ付けられない相手。正面から殴り合うのは出来るだけ控えたい。
なら、これはどうだ?
「止まれ!」
言葉を使った【傀儡掌握】。元は声が聞こえない状態だと意味なかったっぽいけど、今の状態なら十分通せるはず、だ。
「……!…………」
一瞬動こうとした威弧燈は、命令のせいでその場に立ち止まった。一応これでなんとかなった──
「──え?」
油断した一瞬、私の手からバズーカが離れる。
「ッ…ぐ……!」
勢い良く背中から、何かに衝突した。
「何が起きて…………は?」
視界の影に釣られるように、顔を上げる。
そこには、威弧燈と同じ様に角を生やした蘭葉蘭と五雨月。
……しかもこれ、感じ間違えてなければ威弧燈と同じ雰囲気。
「マジでなんでこんなことに……」
後ろの木に手をついて体勢を立て直す。
まあでもさっきと同じように制御すれば良いだけ、で……?
「……は、へー……」
流石に予想外の出来事に、笑いと呆れが同時に押し寄せてきた。
だって。
「今の能力、効いたわけじゃねーのかよ……」
いつの間にか、【傀儡掌握】が無効化されて威弧燈が私のバズーカに手を伸ばしてたからだ。
壊そうとしてるっぽいけど、ヘヴィーが作ったやつやしそれは出来ない、はずだから最悪今はいい。隙を見て奪い返すか、戦闘終わりでも間に合いはするやろからな。
それよりやべーのは、現状力負けしてる奴+2人を1人で相手しなきゃならねー事か。
こんな時に穂がいてくれれば良いんやけど……まあここに勝手に来たのは私やし、それ位の処理は自分でしねーと流石にかっこ悪いか。
「それに殴り合うだけならいい能力持ってるし、な」
多分魔力は尋常じゃない程持ってかれるやろけど仕方ねーな。
下手に削り切れずに長期戦に持ち込まれる方が嫌やし。
蘭葉蘭からの拳を、出来るだけ3人から離れる方に移動して躱す。威弧燈は対極にいるし、この距離なら間に合う。
物理メインの奴には突破手段が無い、あの能力。
「【炎化】」
そう呟くと、瞬く間に私の全身の輪郭が曖昧になり、赤く燃える。
威弧燈が投げつけてきたバズーカも、五雨月の蹴りも、私の体をすり抜けた。
そして、もう1つ。
「【星達の不純物】」
どれだけ持ってかれるかは分からない。
もし足りなかったらそん時は大人しく死ぬしか無い。
小さく息を吸う。
残った魔力の半分が持ってかれた事を確認して──
「【改】」
──勝ちを確信した。




