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戦闘狂の異世界記録  作者: 茜音
異世界戦闘記-表裏一体-
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鬼族の暴走

「はい、治療おしまい!ゆっくり休んでね!」

「助かる。……悠衣もすまない、無様な戦いを見せてしまった上に後始末までさせてしまって」

「いいのいいの、無事で何より!」


 悠衣により、保健室に運ばれた緋嶺夜(ひみや)黎焔炎(れいえん)柊薔薇(しゅばら)はもれなくソファの上で、美麗からの治療を受けていた。

 あの後、魔力の圧で気絶したルクスの精神世界から、3鬼を転移魔法で保健室まで連れ出した。心夢(ここね)の方も、無事にワープホールが再出現し、中から弥月黄(みつき)狛香綺(はくがき)も出てきた様で、後は空璃沙(ありさ)を待つのみという状況。


 その平和な保健室の扉が、横に開かれた。


「……雨飾」


 そこに立っていたのは、生徒会室にいたはずの夜鴉。


「どうしたの?」

「俺は行かなきゃいけねぇ所が出来た」

「はい?」


 意図が掴めず聞き返した雨飾と同じく、悠衣と美麗も首を傾げた。


「だって君、戦場には出ないでしょ?そう…紅葉と決めたんだよね?」

「そうだ」

「じゃあどこに行く気なの?」


 至極真っ当な疑問に、夜鴉は一言。


永克覇王(えいこくはおう)の所」


 その名前により、3鬼が一気に騒めく。


「何があった?」

「教えろ!襲撃か!?」

「あいつらは無事か?どうなんだ」


 緋嶺夜の焦りと疑問に満ちた声、柊薔薇の怒声、黎焔炎の冷静ながらも不安を含んだ声色。

 三者三様の反応を正面から受け止めて、放たれた言葉。


威弧燈(いこどう)蘭葉蘭(らんはら)五雨月(さみだづき)の3人が原因不明の暴走状態に陥った」

「あいつらが……!?」


 柊薔薇の声に、緋嶺夜が立ち上がる。


「早く行くぞ」

「待て」


 しかし、数歩も行かない内に夜鴉に静止された。


「何故止める」

「勝てると思うのか?」

「……それは」

「うん……あたしも厳しいかなーって思う。鬼の力、使いすぎてたみたいだし……」


 

 鬼の力──それは、普段押さえつけている鬼族の純粋で狂暴な力を解放するもの。またの名を、〖鬼神(きしん)意志(いし)〗。

 自分の身体能力を100%で使用可能な代わり、大きく分けて二つデメリットが存在する。

 一つは、肉体関係にしか反映されない事。魔力の向上や能力の強化などは対象外。

 そして二つ目が、身体と精神に大きく負荷がかかる事。本質が肉体強化であり、その後の反動が人間体の身体に残ってしまう為に乱用は危険を極める。当然、リオンと拳を交えた時の様に損傷が激しいと、状態の継続は困難になる。

 また、その状態を長く続けていると、鬼族としての戦闘欲や破壊欲などの暴力的な思考が増し、理性を失ってしまうのだ。


 現在の3鬼は、肉体的な治癒こそ為されているが、精神面は完全ではない。


 故に、リスクが高い。


 では、残りの3鬼……弥月黄、狛香綺、空璃沙ならばどうか。


 結論から言うと、勝利の望みは薄い。

 正面からぶつかり合って、勝率は5割を少し下回るだろう。

 それは単純に、威弧燈の身体能力が他の鬼よりも高いという点が挙げられる他、体術戦には不向きな心夢が共に付き添っている事が原因だ。

 1人とはいえ格上相手に3VS3、そして心夢の事も考えると立ち回りには多少制限がかかる。

 暴走状態の相手に精神能力が効くとも思えない。要するに、彼女は御役御免の状態。


「つまり夜鴉は、身体能力があの3人より高い誰かが行くべきだって思ってるってことだよね?」

「……そうだな」

「他に居ないのか?能力特化の奴とか……」

「……サーガとナイティア(ストーカー)はもう送り出した。研究所の連中は──」


 そこまで言いかけた時、またも扉が音を立てた。


「やあ」

「いつ来たの?」

「今」


 室内へ足を踏み入れた紅葉は、物珍しげに面子を見渡す。


「繁盛しているんだね」

「繁盛してない方がいいんだけどね」

「お店じゃないんだから言い方」


 美麗と雨飾の返しを横目に、夜鴉は紅葉に向き合った。


「ちょうど良かった。今から」

「話は一応聞こえてたから2回はいいよ。それよりその件だけど、キミが気にする所じゃない」

「あ……?」


 不思議そうな夜鴉に、彼女は扉にもたれかかって呟く。


「さっき観測者から報告が入ってね。どうやら向かっている人がいるらしい」


 しかも、意図せず得た能力の試運転に行くんだってさ。



 呆れた様に溜息を吐いた大魔王は、それ以上は何も言わなかった。



 同時刻。


 一人の人間が、白く聳える建物へ歩みを進めていた。

 利き手と思わしき右手には、黒い筒状の武器。

 ミルクティー色の髪は長く、風に靡いている。

 目的地に据えた場所から、今も尚計り知れない殺気が漂っている事を確認して、楽しげに好戦的な笑みを浮かべた。

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