精神世界-デンデラ ν-&光陰世界-ティンガル Ω-
リオンは自分よりも一回り小さい統治者を見下ろす。
彼女を見上げる体勢の悠衣は、臆せずに睨み返した。
リオンの心には、予想外の刺客という意味での動揺はあるものの、それ以上の気持ちは無い。
ここに来たのが誰であっても、今の自分は絶対に勝てるという自信があるからだ。
能力【身体昇華】は、緋嶺夜の読み通り対象の身体能力を自分に上乗せするもの。ただし、その倍率は1人につき-5%ずつ低下し、下限は5%で打ち止めとなる。
現在は、自分以外の8人の身体能力を上乗せしている状態。その中には、鬼の力を持った3人も含まれている。
1人でも強力な力を持っているのに、それを人数分重ねた場合の破壊力は想像を絶する。
故に、目の前にいるのが大魔王だろうが力で捩じ伏せる事が出来る。
そう、リオンは信じて疑わなかった。
─────
一方、悠衣は表に出す事は無かったものの、激しい憤りを感じていた。
理由は単純で、友達である永克覇王が傷つけられていく様を目の当たりにしていたからだ。
それでも、自分が無闇に飛び出していくのは得策では無いし、それ所か下手に動くと巻き添えを喰らいかねない。夜鴉としても、大魔王の戦力は温存しておきたい事くらいは悠衣も承知している為、気配を消しながら戦況を伺っていた。
その中で、分かった事は核のある程度の能力概要と、そのデメリット。
リオンは身体強化系統、それから何かもう1つ隠し持っていそうな雰囲気。
ルクスは不可視、或いは透明化の類で、最短10秒程のクールタイム。恐らくは、クールタイム変動式。
ルクスの周りには、他4人がいたが、聞き耳を立てると互いに名前を呼び合っていることが判明した。
それによると、オリーブ色の髪にサーモンピンクの瞳を持つ女性が[エレシア]、ミントグリーンの三つ編みとシャドウブルーの女子が[ルヴィン]、群青色の髪に、所々月白のメッシュが入った少年が[ノルディア]、黒いベールを被った推定男性が[グレイヴ]というらしい。
それぞれの能力は、ややサポート傾向が強いように見受けられる。
ルヴィンは持続回復、それと強化。グレイヴは一定時間の能力、身体能力制限辺りだろうか。ルクスとリオンの回避行動が攻撃よりもわずかに速い所を見るに、誰かが未来視を持っていてもおかしくない。五感向上能力も十分にあり得る範囲。
元より殴り合いでは勝ち目がない事は理解している。
だったら、能力の差で制圧するより道は無い。
そして、それを実行するだけのスペックならとうの昔に持っていた。
固有能力【具現創生】。
創造の一点に特化した、自身の持つ能力【式転化】の分離進化。
従来の、物体や事象を既存の別物に転換する能力の、一歩踏み込んだその先の力。
固有能力と能力が衝突した場合、能力が相手を上回ることは絶対的に不可能だ。例え、エルデや影星の無効化能力を以てしても。
表世界のために、そして友達のために、全ての力を使って叩き潰す。
後続は控えているのだし、雨飾や美麗もいる。
ここで消耗しきっても、すぐに立て直すことが出来るのだから、ここは目の前の敵にのみ集中するべき、というのが悠衣の下した結論だった。
「本気で行く。手加減は聞かないよ」
「ちょっと他の奴より強いからって、調子に乗らない方が良いと思うけど」
悠衣とリオンの視線が交錯する。
瞬間、背後で空気を切り裂く音に身を捩った。
視線を向ければ、空を切った短剣を握り締めたルクスが姿を現す。
否、姿を現したと言うよりも──
見えるようになった、だろうか。
高度な不可視能力、それがルクスの力だと断定する。
身体能力の面では、やや劣っている程度。回避不能なほど速い攻撃では無かったが、能力と併用されると少し厄介なものかもしれなかった。
だが、もう関係ない。
既に状態としては詰み。
後は、最後の仕上げに入るだけだ。
─────
「な、何!?」
突如として、世界が揺れた。
一拍後に、目の前の存在から放たれる莫大な魔力を感じ取って、顔を顰めた。
同じ世界に2人も核がいること自体、イレギュラーな事態。そのせいで、世界効果が消失してしまっている。
精神世界の効果は認識の揺らぎ、つまり見えないものが見える、見えるものが見えない、味方を敵と誤認させる、などの力を持つ。そこに不可視を加えることで、見えるようになったルクスが実は味方だった、攻撃の瞬間に見えなくなった、という風に錯乱を行うことが出来る。
ルクスから聞いたメリットを全て無視してでもリオンがここに来た理由は、自分の世界──光陰世界に人が入ってきたらすぐに別の世界に移ることでイレギュラーをわざと発生させ、世界内に閉じ込める事が目的だった。
だから、わざわざ2つの世界のワープホール前に結界を施した。
誰かが入ってくる予兆を一早く察知する為に。ついでに、もしも脱出に失敗した場合に少しでも戦いやすくなるように、体力や魔力の消耗を期待して、エレシアとノルディアの魔力を殆ど費やして構築した強固な代物にする、二重の保険をかけて。
考えが完全に間違っていたとは思わない。事実、自分の世界に閉じ込め干渉を許さないという動きは成功したし、6対3で瀕死の状態にまで追い詰める事が出来たのだから。
甘かったのは、目の前の敵に集中するがあまりそれ以外を疎かにさせてしまったリオンの命令内容だろう。
エレシアの【未来透視】は、指定した人物の未来予測である。そのため、他に意識を向けさせる考えがリオンの中にはなかったというのも原因かもしれない。
「何を……何をしたの!?」
「ただ少し、この世界にルールを創っただけだよ。もうこれでアンタ達にはどうしようもない、大人しくワープホールを閉じなさい!」
「くっ……ちょっと便利な能力があるからって!」
残されたもう一つの能力、【影縫呪縛】を起動させようとして、能力どころか、魔力すら流れていない事に気が付く。
「な、んで……」
リオンの最後の疑問にも答えられず、身体が、意識が、膨大な魔力によって圧し潰される。
気が付いた時には、自分達の世界に戻ってきていた様だった。
様だった、と言うのは自分が仰向けに寝転がっているからで、特にこれといった要素を拾えなかったからだ。
体を起こそうとして、身体に走る痛み。
見れば、蔦が関節を貫いて地面に縫い付けている。
「あ、起きた」
顔を覗き込んでいた桑の実の目を持った少女は、リオンが目覚めた事を確認して顔を上げた。
「……誰?」
「およ?自分の名前も分からない感じ?」
「いや私は君の名前を聞いてるんだけど」
「あれま、それは大変失敬失敬」
服をパタパタと叩いて、編み込みを直しながら続ける。
「私は空璃沙。この世界に閉じ込められた哀れな魔王」
「閉じ込め…………っ!」
リオンは、今になって漸く思い出す。
自分は、いや自分達は、精神世界から光陰世界に戻されたのだ。
強制送還、即ち敗北。
「あ~あ、負けちゃったか……」
「うん、まあ、これに懲りて大人しくしてくれるならいいかな」
空璃沙は立ち上がり、伸びをすると背を向けて歩き始める。
「あ」
途中で気が付いたように指を鳴らすと、刺さっていた蔦が跡形もなく砕け落ちた。
「もう起きたし帰るねーん。今度は敵としてじゃなくて、味方として戦えたら嬉しいよ」
足音が遠ざかる中、リオンは両腕で身体を支え、起き上がる。
近くに横たわるエレシアとノルディアを見つけて、生死を確認する。
大魔王も冷徹無慈悲ではなく、殺す意思までは無かった、様だ。
「……よかった……」
安堵の呟きと共に、再び身体が横倒しになる。
そうして静かに意識が落ちれば、表世界への道が音もなく断たれた。
お久しぶりです!!!
今日からまた週1投稿を始めます!!!
…あんま書き溜めてないんですけどね。




