絶望的な能力差
「……ない」
心夢がワープホールが出現した場所に駆けつけた時、裏世界への入口が無かった。
なだらかな丘に、カラフルな花が咲き乱れる、至って普通の風景。
驚く程に日常と変わりない景色を一瞥して、悠衣へ念波会話を飛ばした。
『そっちはどうなの?』
『あるよ』
直ぐに受けとった親友は、端的に答えを返した。恐らく行くのだろうが、本当に大丈夫だろうか。
悠衣が弱いとは言わないが、己と同じく体術には向いていない。
永克覇王が近接特化だから、心夢と悠衣を向かわせたのだろうが……
『とりあえず、ちょっと見てダメそうだったら心夢も呼ぶね?』
『私じゃなくてもうちょっと使える奴にしなさいよ』
『うー』
ぶっつりと切られた念波会話に、溜息をついてその場に座った。
自分の能力は精神系に大きく偏っている。100%の攻撃性能を持たない分、広範囲に影響を及ぼす事は可能ではあるものの。
「味方を盾にして能力を使うのも……ねえ」
そこまで非人道的な事は行いたくない。というか、統治者としてどうなのか。
自分が行く事のないようにと、誰にでもなく願った。
─────
緋嶺夜は、地面に片膝をついて息を整える。
少し周りを見れば、他の2人も倒れ込んでいた。
戦闘前に顕現していた角は、維持を行えるだけの体力が切れ、消失してしまっている。
「まさか自分が……って思ってる?ダメだよ、都合よくいかないんだから」
嘲笑いながら、リオンが放った言葉に唇を噛んだ。
実際、ここまで一方的なものは、数百年前の元大魔王との戦闘以来。
一度敗北を味わった身であるはずなのに、いつの間にか鬼の力があるから、と楽観視と慢心を抱えてきた結果がこの様だ。
腕や足は折れ、足元には自らが流した赤い液体が滴っている。
「それにしても運が良かったな〜、君達が来てくれるなんて」
上機嫌に笑う彼女の言葉に、思考を巡らせる。
運が良かった、とは何を意味しているのか。
戦闘前は身体能力で劣っているとは思っていなかったが、始まってみれば恐らく自分の7倍近く上回っているであろう事を実感した。
力はあると自負していただけに、その事実は混乱の元となったが、寧ろこれは手掛かりとなり得るかもしれない。
これだけの力を持っているならば、裏世界間を移動する必要性を大して感じない。もしかしたら、リオンがルクスを助けたかった可能性もあるが……
裏世界同士交流があったとしても、表世界の住民がそれを知る術は無い。
結局の所、考えるだけ無駄なのだと諦めかけ、そしてふと、引っかかった。
今この場にいるのは、自分を含め3鬼、精神世界の3人、そして光陰世界の3人。そこから、能力の主体であるリオンを除き8人。
もし、もしも。
リオンの能力が、特定の条件によって変化する場合。
その条件が、人数依存である線はあるのではないだろうか?
例えば、人数により能力に不都合がある場合。
例えば、人数が多い程、強化倍率が低下する場合。
例えば……
特定の存在の身体能力を上乗せする場合。
そう考えれば、世界を移りたい理由も、有り得ないほど高い身体能力にも説明がつく。
全ては、自己強化の為、人数を増やしたかったのだろう。ついでに、受け入れる側は戦力の増加を見込めるという利害の一致から。
そこまで考えて、得られたのは1つ。
この状況は最早どうしようもなく、手立てがないということ。
他の2鬼を見捨てれば、自分だけは逃げられるかもしれない。
けれど、そこまで薄情に生きてきたつもりもない。
この結果になったのは、自分達の見通しが甘かっただけだ。
運命は運命として、素直に受け入れる他無い。
「じゃあ、もういいかな」
リオンが一歩ずつ近付いてくる。
足掻くつもりは一切ない。
唯一気になるのは、6鬼の仲間達だけ。
せめて、無事を願って目を閉じる。
影が落ち、視界が暗くなり、
そして。
すぐ近くで、ピシリと何かに罅が入るような音がして、不思議に思い目を開ける。
「……何……?」
「ちょっと、誰が邪魔してるの?」
眼前には、亀裂の入った透明な障壁。
背後から、足音と強い魔力を感じて、愚かだと分かっていても音の出所を振り返った。
「今度はあたしが相手してあげる。6人同時にかかってきなよ」
金色の髪をドーナツ状に結った少女、悠衣は瞳に熱を宿しながら言い放った。
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。今年の目標は3章まで完結させることです。
…既に不安でしかない




