表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦闘狂の異世界記録  作者: 茜音
異世界戦闘記-表裏一体-
62/76

深淵の断罪

 床に血塊を吐きながら、その人物はふらりと美麗達の前に姿を現す。

 突然の来室者は、方や満身創痍、方やその相手に担がれている図に、美麗は即座に丸椅子から立ち上がった。


「緊急なんやけど…こいつを寝かせてやってくれねーか?」

「緊急なのは君の身体だよ!?まままま待ってね治すから…クレセントはみのりちゃんを寝かせて!」

「はーい!!」

 

 クレセントダイバー・ディバストは、美麗に言われた通りに穂を預かり、大きなベッドに降ろす。

 

「だいじょーぶ?寝た方がいいよ、何か音楽かけてあげようか?」

「大丈夫……ありがとう……」

 

 二人の会話を聞きながら、美麗は影星を近くの椅子に座らせた。


「雨飾、魔力供給」

「君に言われなくても分かってるよ」


 影星の手首を掴み、そこから魔力を流す雨飾。


 魔力不足から成るこの様な怪我は、魔力供給を行わなければ如何なる回復を受け付けない。魔力が有る状態が正常であり、魔力が残っていない状態は異常を指す。魔力が残っていなければ、まずは魔力の『マイナス』を正常な『ゼロ』へ戻す必要が出てくる。

 魔力が『ゼロ』で、初めて正常な状態となり治療を受け取れるからだ。


 魔力がある程度溜まり、少し傷が塞がったところで、雨飾は手を離した。


「充分に魔力は渡したよ、治して」

「うん」

 

 美麗の能力、【回復蘇生】はサポートに長けた能力だ。どの程度の怪我も一瞬にして治す事が出来る。勿論、蘇生も。その代わり、魔力のない物体には使えないのだが。

 そうやって治療している折に、菊花(きっか)からの交信を受けた。


『御多忙のところ、失礼致します』

『どうしたの?』


 何故かは本人も不明ながらも、創世者に気に入られている美麗だが、普段菊花からの交信は緊急時以外無い。

 その神が、今この場で何か。


『先程、表世界が7割程崩壊しました。現在は正常に修復されています。また、贋作世界-アレオス Δ-も崩壊、それに伴い1区画が崩落しました』

『……それで』

「何やってるの。もう終わったよ?」

「いっっっ!?」


 菊花との交信に専念していた美麗は、影星の治療が完了していた事に気が付かず、雨飾のロケットランチャーで頭を殴られる。


「お前ふざけんなよマジで!!!」

「もう戻っていいんか?」

「ちょちょちょちょちょっと待って」

 

 保健室から出ていこうとする影星を呼び止めると、存外素直に振り向く。

 

「休まなくて平気?」

 

 そう聞けば、「へーきへーき」と軽く返され、部屋を離れた。恐らくは、夜鴉に報告でもするのだろう。


「で、何してたの?」

「ちょっと黙ってろお前」

「……そう」


 かつてない真剣さを孕ませた美麗の言い方に、彼も何かを察した様で、カーテンの奥へと姿を消した。


『崩壊した理由は?』

『裏世界での人物の暴走が原因です。その人物こそ、影星です』


 そう言われて、美麗は少し考え込む。

 思考も判断もさほど得意では無いが、とにかくまずは、それによって起きた被害を確認しなくては。


『それで?』

『それにより、(コア)が死亡、裏世界が崩壊しました。そして、贋作世界-アレオス Δ-のアルティ、リネット、エルデの能力が、恐らくは影星に奪われているだろうと』

『能力内容は?』


 美麗は尋ねる。内容が分かれば、対処が可能かもしれない。紅葉ならばもう持っているだろうが、情報が多いに越したことはない。


『影星の能力【深淵の断罪】は、殺した相手の能力を自分のものにし、かつ奪った能力のデメリットは併合されません。それを踏まえてお伝え致します』


 エルデの能力は以下の3つ。


 ・無影絶封(ネメア):外的な攻撃を全て無効化する。他人と共有可能。

  デメリット:状態異常、概念系は無効化不可。

 ・魔装展開(アスラ):魔法製の武器を召喚する。他人と共有可能。

  デメリット:一度に召喚可能なのは5つまで。

 ・吸喰零禍(エティア):対象を吸収し、自分の魔力に変換する。他人と共有可能。

  デメリット:能力、命の吸収は不可。


『この中で一番強力なのって【吸喰零禍(エティア)】かな?』

『【魔装展開(アスラ)】も侮り難くはありますが、恐らくは……』

『後は無効化か……厄介な能力が取られた感じだね』


 次に、リネットの能力。


 ・無限召喚(スキュラ):望んだものを召喚する。

  デメリット:生物は召喚不可。

 ・鏡映返転(ナーガ):攻撃を対象者に反射する。分散させることも可能。

  デメリット:近距離攻撃は反射不可。

 ・虚言改変(ノルン):自分の中の認識を事実として定着させる。

  デメリット:認識を上書きすると、上書き以前のもの、およびそれに関連するものが根底から削除される。


『一つ一つが割と強いな……』

『ですが、出来る事は紅葉の劣化では?』

『慢心は本当に危険だと思う……』


 最後にアルティの能力。


 ・傀儡掌握(アラクネ):言葉を媒介として命令し、意のままに操る。

  デメリット:声が聞こえないと操れない。

 ・無概崩壊(アポフィス):指定した概念を無くす。

  デメリット:規模が広がるほど、自分も巻き込まれる可能性が高くなる。

 ・写映変錬(アトラス):能力を自身に適した形に改変する。

  デメリット:一度改変したものは元に戻せない。


『以上3つになります。ですが、影星は波動奏者(エナジーコントロール)として目覚めています。その際に得た神技(アビリティ)は〈模倣〉……コピーです』


 神技(アビリティ)は、極めれば能力に負けず劣らずの効果を発揮出来る。今はまだ、能力や固有能力(アンデッドスキル)のコピーは出来ないだろうが、いずれそうなってしまったら、更に厄介なことになるだろう。


『それから』


 続く菊花の言葉に、美麗の思考は停滞した。


『これは戦闘を観測していた朱杏からですが……


 自我暴走状態は、少なくとも、能力は通用しないものと思われます』


─────


「来たぜ夜鴉」

「……影星か」


 生徒会室の扉が大きく開け放たれ、無遠慮に入ってきた人物に、夜鴉は僅かな沈黙を経て答える。


「なあ、次はどこ行けばいいん?」

「……今日はもういい」

「え、つまんね……しゃーねーから帰るわ」


 落胆したように部屋を去ろうとする影星を呼び止める。


「待て」

「んあ?」

「……忘れ物だ」


 そう言って投げたバズーカを受け取った影星は、目をパチリと瞬かせた。


「あ、そういや忘れてた……なんでお前が持ってるん?」

「観測者に渡されただけだ」

「ふーん。さんきゅ」


 それを持ち、今度こそ生徒会室を後にした。

 足音と気配が遠ざかったことを確認してから、まずは邪王の方へ向かわせていた羅刹、觜霊、天萊の3人へ念波会話(テレパシー)を飛ばす。


『どうなった?』


 夜鴉の質問に、困惑気味に答えたのは羅刹。


『それが……途中までは戦ってたんだけど、急に撤退したかと思ったら、その後すぐに世界が壊れちゃって……慌てて避難したけど、念波会話(テレパシー)は繋がらなかったし、転移も出来なかったからどうしようかと思ってたところだったんだ』


 飛ばしてくれて助かったよ、という安堵が籠った羅刹の念に、夜鴉は引っかかりを覚えた。


『撤退してすぐに壊れた?壊れて撤退した、じゃねえのか……?』

『いや、撤退して壊れたんだよね』


 まるで、崩壊することを予期していたようなタイミング。

 それを行うには、未来視か勘か、あるいは……


 監視していた、か?


 だが、観測者の目から逃れられるとは考えにくいが……


『えっと、追った方が良いかな?』


 その問いかけに、意識を戻された夜鴉は、次に行うべきことを考える。


 気にかかるのは永克覇王の残りの6人──精神世界と光陰世界が未だに落とせていない。

 あまりにも、時間がかかりすぎている。結界は何とか破壊したようだが、その後の音沙汰が何もないのだ。

 1日程経っているというのに、未攻略。流石に妙だ。


『お前達は戻ってこい。深追いは無し、休め』

『了解!』


 それはそれとして。


 残る裏世界は、新たに今日壊された贋作世界を除き9。そろそろ、新しい裏世界を何とかしておきたいところだ。


『サーガ』


 よって、取るべき行動は1つ。

 魔王組織の1つ、玲瓏の理想郷(グロリアス)のリーダー、サーガ・ファイスへと念波会話(テレパシー)を接続する。


「俺まで使われるのか、無いと思ってたんだけどな」


 微風と共に背後に現れた気配。転移魔法でここまで飛んできたようだ。

 更に、サーガを呼べば、もう1人、おまけ(ストーカー)が着いてくる。


「お前とナイティアで……裏世界を制圧してこい」

「う~わ嫌だけど仕方ねぇか」


 申し訳ないが、今回ばかりは我慢してもらう他ない。どうせ、いつもナイティアは付き纏っているのだから、他の誰かと向かわせようもないのだが。

 夜鴉には関係ないため、些末事は当人間で解決してもらうまで。


 我関せず、一切の責任をとるつもりはない。


『悠衣、心夢(ここね)


 今度は、2人の大魔王に連絡する。


『手分けして、永克覇王が向かった世界を調べろ』

『もう邪王はいいの?』

『いい』

『はーい』


 追えない……訳ではないだろうが、影星の事も考えると、どうも懸念点が増えすぎる。とりあえず今は、最大の問題である裏世界との戦闘をなんとかする事が優先だろうから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ