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戦闘狂の異世界記録  作者: 茜音
異世界探索記-日常-
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永久発狂

 階段を2階分上がって、人通りのない廊下を歩く。

 締められていた横開きのドアを、鍵で解錠して私を招き入れた。


「入って。お茶でも飲みながら話そうじゃないか」


 部屋の一角に、丸いテーブルに掛けられた白いテーブルクロス、ティーカップ×2にティーポットが置いてあった。


「…なんで?」

「ここがそういう部屋だからだよ。ほら、早く」


 ドアの近くで立ち止まる私を気に止めず、椅子に座ると、私にも向かい側に座るように促す。

 ライフルを床に置いて、渋々腰を下ろしたことを確認して、指を鳴らした。

 勝手にポットが浮かび上がり、カップの中に紅茶を注ぐ。


「言わなくても知っているかもしれないけれど、一応言っておこうか。ボクは紅葉。不死鳥大魔王(フェニックスロード)のリーダー、そして"世界の意志"だ」

「世界の……意志?」


 大魔王リーダーは聞いてたけど、世界の意志ってなんだ?ヘヴィーも知らない何かがあるんか…?


「まあ、そんなに難しい事じゃない。ボクの意志が世界全体の意志として処理される。ボクの言葉は絶対、って意味」

「独裁王政でもやってるんか?」


 とんでもない権限に、思わず思った事が口から飛び出す。傲慢ここに極まれり、ってか?

 そんな事も気にせず、紅葉はカップを持ち上げると、私に視線を向けた。


「キミさ、隠しているかもしれないけれど」


 濃い赤茶色の液体が揺れる。紅茶に映る私の顔は、自分が思ったよりも強ばっていた。はっ、と笑みを浮かべてみるも、いまいち上手くいってない。


「この世界の方が過ごしやすいんじゃない。()()()()()()()を患っているキミなら、ね」


 そう言って、カップを傾ける紅葉。私も無言でカップを手に取った。

 波打った液体に映る私は、さっきよりも緊張した顔をしている。


 私が抱えるとある事情……それは、二度と治らない精神病──『殺人癖』と『破壊衝動』を6歳で患ったことだ。

 だから私は殺しに躊躇いがないどころか好きだし、そのせいで戦闘も好きになった。だから今更、治せるって言われても治してもらいたいとも思わねーし、そもそも私はこれを受け入れた。そのせいで、深く根付きすぎて治んねーよ。

 それに、あんだけ殺しといて完全に治ったって言ったら事件に関わった奴ら納得しねーだろ。少しは苦しんで欲しいって思うもんやろしな。

 ……それに、私が死んでもいいと思ってんのは、私が本来死んで然るべき人間だから、やな。


 ま、自分のやりたいように信念は変えるつもりねーけど、そう思うのも私の本心やからな。


「後ボクから言う事は…そうだな。天性(ギフト)ももう少しだろうし、そのタイミングで能力も発現するだろうね。不安ならここにいればいいし、そうじゃないならもう少し付き合ってもらって終わりにしようか」


 空のカップをソーサーに戻し、紅葉は息を吐いた。

 私は、まだ一口も飲んでない紅茶をそっと戻す。なんか怪しくて普通に飲めねーわ。


「この世界と、キミがいた世界では魔力の性質が違うんだ。だから、今キミは知らない間に元の世界の魔力を、こっちの世界に適応させている最中。換金みたいな感じだね。…でも、キミ結構、魔力量多いんだよ」


 すっ、とカップを指さし、紅葉は続ける。


「多ければ多いほど、時間もかかるし負担も大きい。なのに、キミは平然としている。……タフなんだね、キミ。でも飲んだ方がいい。魔力変換を手助けする効果のある紅茶だから」

「…そうなんか」


 もう一度、指をひっかけて持ち上げる。香りに異常は多分なし。見た目も普通の紅茶っぽい。信じて大丈夫なんかこれ。毒とか入ってねーよな?

 でもなー、入ってるか入ってないかの確認なんて出来ねーし、こういう系は割と疎い自信がある。違和感感じたら速攻吐き出せばいいか。


「疑うなら教えるけれど、それはヘヴィーが作ったものなんだ。だから安心するといい」

「へーあいつか…」


 あいつか。少なくとも紅葉なんかより100倍は信用出来るな。じゃー飲むか……

 カップを傾けて1口。少し甘めの味わいに、ほんのり抜ける花の香り。嫌いじゃねーけど、私もーちょいすっきりする方が好きなんよな。ちょっと甘いわ。


「美味しい?」

「美味しいけど甘い」

「そう」


 毒は入ってない事を確認して、とりあえず全部飲み干す。その間、紅葉は何も言わずに待っていた。

 同じく空になったカップを戻すと、ポットと2つのカップは勝手に消えた。


「影星」


 消えたティーセットを見送って、紅葉は口を開く。まだ何か話したい事があるらしい。正直帰るほどの用事ねーけどあいつらに連絡しないのはさすがにまずい。


「キミ、元の世界に戻りたい?」

「……まー恩人とかいるからな」


 恩人……つまり、私に名前をくれた黒乃のことだ。扱いが雑に見られるかもしんねーけど、私はあれでもあいつには感謝してる。だからその分の恩は、絶対何倍にもして返すって決めてる。だから帰れねーのは少し困る。


「元の世界に戻ったら、キミは好きなように過ごせなくなるよ」

「……好きなように……ねえ」


 好きなように、ってのは人を殺して、とかそういう意味やろけど、別に元の世界でも殺せる。ただ、その後が結構……いや、めちゃくちゃめんどくさいってだけ。


「この世界はね、ボクら大魔王が法なんだ。そして、ボクらは殺戮行為を取り締まっていない。理由は2つで、1つは雨飾が虐殺をしてるから。彼曰く、正義の執行らしい」

「は?殺す事が正義になるんか?」

「救いらしいよ。あれはボクにもよく分からないから。2つ目が、弱者は蹴落とされて当然、という考え。だから、君がいくら殺そうが罪には問われない。誰かに執拗く追い回されることもない。……どう?悪くないと思うけれど」

「……それは……」


 私には恩人もいて、友達もいて。だから戻らないと、帰らないと。


 黒乃と無色(あいつら)を、護らないと。



 分かってる、そんなん分かってるわ。


 でも、いくら分かってたって、本能には逆らえない。

 まだ14だ。自分のやりたい事より他人を優先する程、私は大人じゃない。

 勉強しなきゃならねーのに、ゲームしてーなー、ってなるのと同じ。楽しいことの方が、いいじゃん?

 遊びたいってのは、子供として……いや、人間として、娯楽を優先するのは当たり前、やろ?


 だから、


「……そうやな。この世界の方がいいかもしれねーわ」


 頷いたのは、仕方ねーんだ。

粗筋の『とある事情』とは、殺人癖と破壊衝動の事でした。人殺すのも動く物壊すのも動かない物壊すのも大好きです。イカレ主人公でごめんなさい。

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