贋作世界-アレオス Δ-
すっきり目が覚める。
もう外は明るくなってるし、もしかしたら結構寝た感じか?
昨日の夜、雨飾にぶっ壊された扉は綺麗に修復されてる。つーか、雨飾が直してった。どういう理論かは分かんねーけど、あれは多分能力の類で。
『おはよう影星』
紅葉から念波会話が飛んでくる。今日はとりあえず夜鴉のとこに行って〜とかか?
『鋭いね。夜鴉の所に行って。昨日と同じ場所にいるよ』
『了解』
顔を洗って歯を磨き、寝巻き代わりの適当な服からいつもの服に着替える。ここに来る時に履いてきた白い靴じゃなくて、ヘヴィーに貰った黒い靴を足に通して寮部屋を出た。
学校まで向かう道中は、誰とも会わなかった。穂とか来てそうなのにいねーのか……
校内に入って、昨日紅葉が言ってたように3階の生徒会室を地図で確認してから上がる。転移魔法陣とかは無くて、普通に廊下に立ってたから有難かった。
「夜鴉ー、来たぜ」
「おはよ影星」
「ん、いたんか」
夜鴉に会いに来たと思ったら、穂も室内にいた。私より少し早めに着いたんやな、だから見なかっただけか。
「で、次私らはどこまで行けばいいん?」
昨日の時点から3つ消えて9個になったモニターを見上げて、夜鴉は呟く。
「今から転移させる……俺にも良く見えねぇ……」
「やったぜ」
送ってくれるらしい。
足元に魔法陣が展開されて、次の瞬間切り替わった視界の前には巨大な山が聳え立っている。
砂利小道が敷かれ、横には鬱蒼と木々が生い茂ってなんとなく暗い雰囲気を漂わせてる。
「ここは……」
『……聞こえるか?』
周りを眺めてると、夜鴉から念波会話が飛んできた。
『ああ、聞こえてるぜ』
『山の途中の洞窟の中にある。……頼んだ』
『OK』
穂を連れて、山の麓まで転移で飛ぶ。富士山生で見た事ねーけど、それよりは高そうな感じはする。写真での知識しかねーけど。
とりまワープホールまで行きたいんやけど、問題はどこら辺にあるかだな……
まず「途中」って言ってたから山頂と麓、一合目は有り得ない。二~九やけど、なんかもう少し絞れたりしねーかな……
『なあ夜鴉、もうちょいわかんねーか?」
『もう少し……洞窟の場所はそんな高くない……様に見える』
『具体的には?』
『地上が若干見えない程度……?』
ってなると、大体山のデカさ加味して四~九……もうちょい手掛かり欲しいな。
『雲はどれくらい近い感じだ?』
『……そこまで近くねぇな』
んーと、山の辺りで見られる雲は2000mくらいで富士山だと四~か。高そうとはいえ微々たる差やろし、四、五辺り見に行くか。
『OK、それじゃ今から行くわ』
一言だけ言って念波会話を切断する。
「行くぞ穂」
「よくわかんねえけどわかった」
穂の手を掴んで、目測四合目の辺りまで転移する。
途端に肌を冷たい空気が刺す。地面には霜が降りて真っ白になっていた。
さっきはそうじゃなかったのに、この場所だけやけに寒い。
「風邪超えて凍りそう」
「まだ大丈夫やろ」
タンパク質が凍るのは-196℃程度。それに人間は体温があるからすぐに凍る訳でもねーし、霜が降りても氷が無いなら0℃下回ってねーからまだなんとかなるはず。
……けど、山には霜って普通は降りないはずなんだよな。もしかして、異世界だと常識が違うんか?
「で、ここら辺なのか?」
「ああ、多分な」
割と緩やかな坂を登りながら、隣で寒い寒いと呪詛を吐く穂。
「お前は?寒くないのか?」
「ん、まあ寒いっちゃ寒いけど、私寒さに強いタイプやからそんな気にしてねーな」
「お前暖房独り占めしてる??」
「何言ってんだ???」
暖房独り占めってなんだ、んなことする訳ねーやろ。
手を擦り合わせながら道を歩く穂を呆れ半分の気持ちで眺めて……
「ん、何だこの音」
「え、音?」
前の方から、何かが転がってくるような音が聞こえた。
「ああ、なんか……」
言いかけた時、曲がり角を転がってきた大岩を視界に捉えた。
かなりの速度で私らに迫ってくる。
「うわやばくね!?」
「あー、この音か」
私の後ろに隠れた穂に少しだけ視線を向けて、すぐに目の前の球体に戻す。
ぐっと右手を握り、速度を上げて転がり落ちてくるそれに向かって拳を突き出した。
岩が大破して、それから、
「……え」
穂の小さい声が聞こえてくる。
私も、思わず目を閉じた。
直後、煌びやかな光に包まれて、意識が遠ざかって行った。
─────
意識が戻った時、影星と穂は、2人が転移した先と同じ、奥に山が見える砂利道だった。
「……どこだ、ここ」
影星が1歩足を進めた途端、穂が光に覆われる。
「うわ……!?」
「穂!?」
溢れ出る光に、影星は片腕で視界を遮りながら声をかける。
「……大丈夫だ、気にしないでくれ」
「……穂、お前……」
光が収まって、恐る恐る目を開けた先には、長く2つ結びにされた髪も、女性的特徴も無い体。
会ってすぐ、能力を証明する為に行った解除後……生前の穂の姿だった。
これが意味することはただ1つ。
「能力消されたか……」
「そうだな。星辰、天性の方は大丈夫か?」
「ああ、そっちはな。ただ……」
影星が続きを言いかけた時、豪風が吹き荒れる。
思わずその場で目を閉じた。
「いらっしゃい」
その声に、薄目を開けるといつの間にか目の前に3人の人物が立っていた。
中心には、ローブを羽織り、黒いロングブーツを履いた、橙色の瞳を持つ人物。見え隠れする右手には、瞳と同色の宝石が埋め込まれた指輪を付けている。
右に控えるのは、同じくローブを羽織り、白いロングブーツを履いた人物。桃色の瞳は、警戒するように影星達を睨みつけていた。
その2人から、半歩下がった所にいるのもまた、ローブと茶色いロングブーツを着用していた。浅緑色を宿した瞳は、どこか遠くを眺めている。
「僕はアルティ。こっちはリネット、それで、後ろにいるのがエルデ」
アルティと名乗った核は、手早く紹介を終わらせると、1つお辞儀をした。
「君達が例のあれだね?人間らしくない異世界人……と、その相棒の魔界研究所の助手」
「おい人間らしくないってどういうことだ」
その言葉に、アルティは少しだけ笑って、澄ました表情へと戻す。
「まあ、お話は終わりだ。
君達にはここで死んでもらう。でも悪く思わないで」
アルティは双剣、リネットは大鎌、エルデは弓を召喚し装備すると、鉾を2人に向ける。
「気を付けろよ穂。人数不利やし、どんな能力かもわかんねーからな」
「ああ…そうだな」
会話を交わす2人の間に、束となった槍が飛来する。
それを左右に避けて躱すも、分断されてしまったようで、影星の前にはエルデのみが立っている。
素早く能力を確認して、影星は内心で溜め息を吐いた。
もしかしてとは思ったのだが、どうやら世界効果は『バフの消失』のようだ。天性が消されなかったのは、相殺という条件下になかっただけ。
「確実に一人ずつ潰そうってか?」
右手に携えたバズーカを、ノータイムで拡大させて魔力砲を放つ。避ける素振りも無く、それはエルデに吸い込まれていった──
──のだが。
「おいおい、効かねーのかお前には?」
苦笑交じりで影星は指摘をする。
言葉通り、エルデは少しもダメージを負っている様子が無かった。
【無影絶封】、【魔装展開】、【吸喰零禍】。
エルデの持つ能力の効果の全ては、アルティとリネットにも共有される。先程の召喚された武器も、エルデの能力の【魔装展開】によるものであり、【無影絶封】は外的な攻撃を全て無効化する。
そして、【吸喰零禍】は……
「ッ……?あ、れ……」
突如、足元がふらりと彷徨い、膝をつく。
何か必要なものが、突然抜き取られたような感覚。
エルデによって、一瞬の間に魔力を抜き取られてしまった事が理由だった。
僅かな時間で魔力を一定の割合以上喪失した場合、身体被害を受けて、命に関わる可能性すらある。
まだ、影星が強靭だからこの程度で耐えられているだけ。
だが、これだけで終わるほど甘くない。
召喚された魔法製のナイフが、四肢の関節と肩、足の付け根を貫く。
「ぅ……ぁぁ……」
掠れた声で呻く影星を見て、機能不全に至った事を確認すると、ふう、と息を吐いた。
後は、ナイフから魔力を流して爆散させるだけ。吸い取ったばかりだから、相殺出来る程魔力を生成出来ないだろう。
とっとと片付けをして加勢へ向かおうとした時、彼は地面へと倒れた穂を見た。
周囲には、大量の槍が浮いている。もう、止めへ入るようだ。
そう思いながら、影星をチラリと見下ろす。
この状態なら、動けないだろう。
少しくらい、処刑シーンを見ても問題ないはずだ。
この時、エルデは完全に油断しきっていた。もう動けないものだと、勝手に思い込んでしまっていた。
それが、後に悲劇へと繋がる。




