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戦闘狂の異世界記録  作者: 茜音
異世界戦闘記-表裏一体-
51/76

霧世界-アソルト ▽-

「なんだ?」


 一瞬、メティスが自滅を図ったのかと思ったが、それ程の魔力を感じられない。

 能力は殆ど使っていないはず。魔力は有り余っているはずだし、仮に巻き添えにするつもりなら魔力なんて残しておく意味はないのだから、全てを消費して確実に仕留めきる確率を上げた方がいい。


 ならば、何故?


 思わず疑問の声がヘヴィーから漏れたと同時に、それは起きた。


 メティスの足元に、巨大な魔法陣が描かれる。線と線が繋がり、不明瞭な景色の中で、存在を主張するように強く光る。

 そこから、濃霧が立ち上り徐々に形作られていく。

 巨大な四つ足が現れ、次に胴体が構成される。太い首が、目口の無い顔が。


 それは、声を発すること無く動き出す。


「これっ……なんだよ!?」

「何故今の状態で出来る……」


 ヴァリネッタの波動(エネルギー)に当てられている今、能力を使う事は不可能。

 能力以外、例えば魔法ならば掻い潜れるかもしれないが、それにしては余りにも巨大。

 5mはありそうな霧の獣を召喚するようなものは聞いた事がない。基本的に能力や日常生活の補助程度でしかないのだから。


「凄いでしょ?これ、《禁術(きんじゅつ)》って言うんだって」


 嬉しそうに告げるメティスの声に、引っ掛かりを覚えて脳内で反芻する。

 「言うんだって」という事は、自らが考案したものではない。誰かから教えて貰ったという事だろうか。

 生きていてこれまで、一回も聞いた事が無いが、そんなものは実在するのだろうか?


「いや……今はそんな事を考えている場合では無いか」


 正体が何であれ、重要なのはその禁術とやらが発動してしまった事実。

 データを取りたい気持ちもあるが、まずは目の前の敵を倒さなくてはならない。


「ヘヴィー、行けるか?」

「問題ない」


 鎌が使えないのなら、頼らなければ良い話。

 波動(エネルギー)は有り余っている。元々、近接戦を行うつもりは無かった為に、最低限の技術しか持っていない。けれども、遠距離戦であれば自分の力を十分に発揮出来る。

 簡単な話、相手の間合いに入らなければ回避の必要は無い。遠距離攻撃は、全て相殺してしまえばダメージは0で済む。

 何の戦略性も無いが、結局の所、これが全てだ。

 如何にリスクを冒さず、一方的に攻撃を与えられるか。

 この問いと答えが、ヘヴィーの戦闘スタイルに直結している。


「私はいつも通り後方から仕掛ける」

「お前ほんと卑怯な戦い方するよな」

「卑怯ではない作戦だ」

「誰でも思いつくだろ」


 ヴァリネッタの視線を受け流し、左手に波動(エネルギー)を圧縮しながら考える。

 霧の獣は此方に歩み寄るが、動きはそこまで早くない。無詠唱で行う転移ならば、余裕を持って躱す事が可能な速度だ。

 もし、メティスと同じ能力を持っていたら厄介……否、それよりもこの間に不意打ちを仕掛けられたら面倒だが……


 当の本人は、床に膝を付けて座り込んでいる。

 禁術。字面から既に良くない力である事は明白だ。それなりの負荷が掛かるのだろう。念の為、警戒しておくに越した事は無いが、今の所は放っておいても問題無いはずだ。


「まずはこれでも受けてみろ」


 ヘヴィーは、左手に貯めた波動(エネルギー)を無造作に放つ。直撃し、足の一本が弾け飛ぶも直ぐにその箇所が霧に覆われた。

 かと思えば、瞬きの間に晴れ、失ったはずの下肢が再生する。


「再生……か。しかも中々速い」

「だな。速攻仕留める」

「そうする……か……」


 ヴァリネッタの声に、そちらを見て思わず絶句した。

 ナイフを握る指先の皮膚が裂け、赤い液体が滴っている。

 もう片方の手は、少しずつ砂のように零れ落ちていた。

 崩壊が始まったのだろう。今はまだ軽度だが、長期戦に縺れ込めば、ヴァリネッタは……


 ヘヴィーの視線に気が付いたのか、赤と青の瞳を敵に向けると波動(エネルギー)を叩き付けた。


「気にしなくていい。余計な事考えてる暇なんてねぇし」

「……そう、だな」


 与えられたダメージを物ともせず、霧を纏って再生を行った霧の怪物の足元。

 土が抉れたかと思えば、まるで意思を持つものの様に2人へと降り注ぐ。

 しかし、その攻撃はヴァリネッタが放つ波動(エネルギー)により届かない。

 ヘヴィーは、再度左手にエネルギーを溜め、撃ち出す。先程の粗雑なものではなく、明確に力を込めた一撃。『暴走』『肥大』『狂乱』を付与し、相手の体を内側から崩壊させる技。

 アルター・マジック (ファーストスペル) 〖Enemy Kill〗。


 それが回避行動を取るよりも速く、エネルギー弾が胴体に直撃し──



「……何だと?」


 それ以上の事は起こらなかった。

 エネルギー分のダメージは負ったのだろう、貫かれ穴が開いていた。

 だが、それ止まり。


 本質は、今のヴァリネッタのようにエネルギーに耐え切れなくなった体を崩壊させるもの。

 それには「エネルギーを持っている対象」という前提が付き纏う。

 つまり、あれはエネルギーを持っていない事を意味する事になるのだが。


「そんな事は、有り得るのか?」


 疑問ではある。けれど、その疑問を砕く事が出来る理由を、知ってしまった。

 恐らく、禁術はヘヴィー達の知るものと一線を画している。何があっても不思議ではない。


 穴を塞ぎ、一歩ずつ確実に近づいてくるものに、ヘヴィーは思考する。

 打つ手がない、わけではない。

 ヴァリネッタのエネルギーを浴びても尚、破壊出来ない再生速度。

 ならば、再生する暇すら与えない程の超火力を、一瞬で叩き込めばいい。


「ヴァリネッタ、今から私の持つ波動(エネルギー)を全て使ってあれを何とかする。その間、時間稼ぎを頼んだ」

「分かった。どれくらいだ?」

「2分程だ。……大丈夫か?」

「ああ。任せろ」


 ナイフを構え、破壊のエネルギーを体外に放出したヴァリネッタは、何の躊躇いもなく一直線に特攻を仕掛ける。


 それを見届けたヘヴィーは、両手に自身の全エネルギーの圧縮を開始する。

 瞬間火力のみを追い求め、範囲は一点に絞り込む。そうしないと、(コア)であるメティスが巻き込まれてしまうからだ。

 今回付与するのは『消滅』『吸収』『分析』の三種。消滅は文字通り、火力の要。残り二つは、あわよくば禁術についてのデータを取る事を目的としたものだった。

 両手の中の波動(エネルギー)は、淡く強い光を輝かせる。現在、ヴァリネッタの影響を強く受けたこの環境なら、エネルギーを吸収して使用出来る。


 やがて、消費と回復の割合が前者に傾いた。

 その瞬間、ヘヴィーは溜め込んだ力を解き放つ。


 アルター・マジック (セカンドスペル) 〖Destroy End〗


 両手から離れたエネルギーの塊は、ヴァリネッタに意識を向けていた霧の獣の頭部へと吸い込まれた。

 形が一瞬揺れ動いたかと思えば、四肢が頽れ、霧となり消える。


 一撃必殺級の威力を秘めた攻撃により、再生を許さず討伐を遂行した事に安堵し、パートナーに声をかける。


「ヴァリネッタ、大丈夫か?」

「ああ、なんとかな」

「……その見た目でか?」


 ヴァリネッタは頷き、一応無事な方の手で、外した仮面を付け直す。溢れ出ていた力は内側に抑え込まれ、崩壊が進むことは無いだろう。

 それでも、右腕は出血が酷く、左腕は肘から下が消えていた。

 斯く言うヘヴィーも、捻挫を起こした右手に追い打ちをかけたせいで、激しい痛みを訴えている。

 どちらにせよ、これでは戦闘の続行は困難だろう。そう思いながら世界内を見渡すと、地面に転がっているメティスを見つけた。

 近付いてみるも、立ち上がる素振りを見せない。


「気絶……なのか?」


 念の為、少しだけ揺さぶってみたが目を覚ます気配はない。

 世界が崩壊していないことからも、死んでいる訳ではないようだ。禁術というものを行使したのだから、第三者が思ったほど負担は大きかったという事なのだろう。

 残念ながら、吸収も分析も行えなかったが、目的は達成した。


「戻るぞ、ヴァリネッタ」

「ああ。……この体、どうする?」

「……保健室に、行くしかない」


 苦々しい表情でヴァリネッタの問いに答えると、ワープホールを潜り抜けて表世界へと帰還を果たす。

 背後で、入り口が溶けて消えた。入る前は充満していた霧も、今は晴れている。


「世界効果の影響か……?」


 立地と裏世界が同じ様な雰囲気だったのは、そういう関係があるのかもしれない。

 どちらにせよ、異常の芽を摘み取る事には成功したのだし、これ以上深く考えても何も分からないだろう。


 霧世界-アソルト (ナブラ)-は、過去の英雄達により攻略された。


 残る裏世界は、11個。

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