コーヒーブレイク
目の前のテーブルに、珈琲とパウンドケーキが運ばれてくる。
「今日焼いた。美味しいと思う。どうぞ」
「え、ああ……いただきます?」
「いただきます」
フォークでケーキを切って口に入れる。チョコの甘さとしっとりした食感。
珈琲は酸味があんまなくて、苦めな味。ケーキありでも私には厳しいから、ミルクと砂糖で中和してもらった。
「美味しいね」
「せやな」
ブラックのまま珈琲を啜る穂。
……何をしてんの私ら?
事の経緯は、ロビーで前髪やら服やらでバタついてる奴らを横目に、奥の部屋に案内された所から始まる。
前髪命の金髪は[威弧燈]、セルフファッションショーの赤インナーが[五雨月]って名前らしい。
裏世界に行くように言われたらしくて、その支度をしてたら夜鴉から何回も念波会話が飛んでくる。めんどくさいから魔力乱しで遮断。今に至る。
ちな案内人は[蘭葉蘭]って名前らしい。私らは客人だからー、って出された訳やけど。
いや、一応今って大規模戦闘中なんよな?何をしてんの??
「はい、クッキー」
「ありがとー」
「……」
しれっと穂は順応してるしどうなってんだ。私がおかしいみたいになるじゃねーか。
「ところで、永克覇王って3人だけなの?」
プレーンのクッキーを齧りながら、穂は蘭葉蘭に訊く。
折角やから、私も1枚手に取った。
バターがほんのりと香る。軽い口当たりで軽く崩れる。このクッキーも美味いな。
「違う。9人いる。でも、残りは今、いない」
「いない?……どこ行ったん?」
「3人と3人で分かれて、結界を壊しに行った」
「結界……?」
私と穂の声がハモる。夜鴉も紅葉も、そんな事一言も言ってなかったよな。
高火力が必要なら、私でもいいはずなのに。
「いくつかの裏世界の入口に、結界が貼られてるらしい。そこを落とすように、指示を受けた」
「ふーん」
って事は、今日で最大5個の世界を落とす気なんか。世界は13、一日5個だと仮定して最短3日か。
3日で片付くと思ってんのか、夜鴉は。
いや、思ってねーからやってんだな。大魔王は邪王に対抗する為に温存する、って言ってたし、多分夜鴉はあそこから動けねーだろーし。
「……あれ、蘭葉蘭は?」
なんでこいつはここにいるんだ?
「……私も、威弧燈と一緒に行く」
「へー」
一緒に行くんか、あいつらと。
……ん?
あいつらと一緒に?
「……マジ?」
「うん」
真剣な顔で頷く蘭葉蘭。
その手には、ケーキが乗ったフォーク。
「……お前そんなことしてる場合じゃねーよ!」
私と穂の声がまたハモった。
─────
夜鴉は、生徒会室でモニターを見上げる。
今日で裏世界を最低3つ、最高5つ制圧したいと考えて、指示を出したのだが、精神世界と光陰世界が貼り巡らせた結界を、未だ破壊出来ないでいる。
もしも、世界効果が関連するのであれば、情報は得られるが厄介な世界である、と認めるしかない。鬼族の集まりなのだし、他の魔王組織と比べて頭一つ抜けた火力を有している。それが3人で固まって尚、突破出来ないのであれば苦戦は必須。
そこまで考えて、映像を鋭い視線で射貫く彼の目の前に、半透明の体で目の前に立つ人影。
天萊の使役する亡霊だ。
彼女には、邪王の在処を突き止めるよう頼んでいた。これがここにいるということは……
『觜霊、羅刹、天萊』
3人に念波会話を繋げる。多少負担にはなるものの、それは仕方のないこと。
『邪王連中のアジトが分かった。確実に戦闘になる。後のことはいい、少しでも相手を削ってこい』
『承知』
『はーい』
『畏まりました』
三者三様の返答の後、目の前の亡霊が消える。自律式に切り替えて、案内させる為に回収したのだろうと勝手に推測を立てて、見送った。
戦闘はまだ、始まったばかり。




