約束
床に倒れて動かなくなったグロウに近付く。死んでない?よな?
少し待っても、崩壊しそうな感じは無かったから、とりあえずは大丈夫そうか。
「星辰」
「ん?」
穂の方を向くと、闇の人形がサラサラと消えてなくなった所だった。
「消えたんだけど大丈夫だと思うか?」
「んー……まあ問題ないっしょ。とりあえず出ようぜ」
なんで消えたのかはわかんねーけど、あれも世界効果の1種ならこいつに勝った、とかそんな感じでいい、と思う。多分。
……ところで、どうやって出るんだ?
じっと暗闇に目を凝らすと、薄らと遠くの方で何かが光り輝いてる。
おーん……あれワープホールか?そういやあっちから来たような気は……
考えててもしゃーねーな。
「こっち行こうぜ穂」
「ん、んー……あれか?」
暫定ワープホールを指差す穂。結構距離あんのにこいつもよく見えるな。
「多分あれだと思うわ」
2人で暗闇の中を歩く。その道中、気になった事を聞いてみる事にした。
「私遠くで見てたんやけど、もしかして穂新しい技でも学んだか?」
「んあ?ああ、そうそう」
やっぱな。
あの巨人闇人、略して巨人倒した後、私が穂を見つける事が出来た理由。それが見た事ない光だった。
1か月前に話してた〖光子爆火〗じゃなさそうだったし、何かしらの理由で隠してたか新しい技を編み出したかの2択。だからとりあえず新しい技かどうか聞いてみたけど、ビンゴだった。
「〖付術〗っていうやつで、自分で1から作ったんだ。他にも色々試行錯誤して完成させたし。魔力無いから魔法じゃないけど、結構何でも出来るんだ」
曰く、夜鴉に稽古してもらった。私が会えなかったのはそのせい。んでついでに新しい能力やらなんやらが得られないか試したけど収穫無し。
そこで思い付いたのが、波動奏者の神技の<適応>で、受けた攻撃に適応して、その事象に波動を使って変換する、やつらしい。よくそんなこと出来るよな、って思って聞いたら、普通じゃ変換できないって返された。
そもそも適応ってのは、影響やらなんやらを自分の体に保存してるから、少しの間そこにいれば慣れ、次に同じことが起きても保存したものを引き出すことで結果的に<適応>してることになる。だから、神技を介してじゃないと出来ない、んだってさ。
説明受けて、分かったこととかわかんねーこととかはあるけど、一つ言いたい。
「お前、そんなことよくやろうと思ったな」
「まあ……」
そもそも私だったら思いつかんけど。
「あ、そういや星辰、神技で思い出したことが──」
穂が何かを話そうと口を開いた時、急に体が尋常じゃない力で引き摺られた。
暫定ワープホールから発生してるらしく、靴が地面を擦る。
そのまま引き続けられて、光源に体が半分吸い込まれる。
「何がどうなって……!?」
「落ち着け穂、多分大丈夫だろ」
「根拠ねぇんだわそれ!」
私の服を掴んで少しでも抗おうとする穂。けど、引力は近付けば近付く程強くなってる。
抵抗虚しく、私たちの体は光に包まれた。
足裏が、硬い地面を捉える。
目の前には学園。少しだけ、影の向きが変わってるのを見ると、まあまあ長い時間裏世界の方にいたんやろか。
「おかえり影星。それと……」
紅葉が出迎えて、私と穂を見る。視線に一瞬ビビったのか、穂は一歩後ろに下がった。
「たまたま一緒に会ったんよ、所で終わったか?」
「たま、たま?……まあいいか。終わったよ、あれを見て」
紅葉の手が私たちの背後を指す。ワープホールの出入り口は、音もなく縮小していき溶けて消えた。
「お疲れ。次からは、夜鴉の所に行ってくれ。……それと、キミは一回ヘヴィー達に」
「その必要はない」
何か続きを言おうとした紅葉の声に被せる様に、2人分の足音とよく通る声が聞こえた。
声の方を見ると、ヘヴィーの家から学園までの大通りを歩いてくる2人の姿。
「ヘヴィー、ヴァリネッタ」
「貴様が戦いたいと言うのであれば私は止めない。さあ、どうする?」
紅葉から3歩離れた辺りで立ち止まるヘヴィー。後ろでは、ヴァリネッタが何も言わずに直立した。仮にも権限はヘヴィーの方が上って事か。
「俺は……」
穂はヘヴィーと紅葉を交互に見る。
そして、私の手を握って、強い意志を込めた目でヘヴィーを見た。
「星辰と一緒に戦いたい」
その言葉を聞いたヘヴィーは、僅かに頷く。
「貴様の好きな様に行動する事を許可する。呉々も死ぬな」
「ああ、わかってる。約束だ」
「当然だ。反故にすることは許さん」
ヘヴィーと穂の視線が交わる。
そして、身を翻した。
「では、私達は裏世界の攻略に向かう。行くぞヴァリネッタ」
「了解」
立ち去るヘヴィーと、後に続くヴァリネッタ。
後ろ姿を見送って、穂は私の手を放す。
「キミも、戦うのか」
一連の流れを黙って見ていた紅葉は、穂に訊く。
「はい」
一言だけ返した穂を一瞥した後、それ以上言う事は無いと思ったのか、学園の方に視線を向けた。
「夜鴉は生徒会室にいる。3階だ。指示は彼からもらって。……健闘を祈るよ」
風が吹いて、髪が流れる。
「任せとけよ、だって私だしな」
声には、隠しきれない喜色が滲んでいた。




