制圧
バチバチと眩い光が弾ける。なんとか受け流しには成功しており、致命的なダメージこそ免れているものの、グロウの額からは汗が滴り落ちている。
それに対し、攻撃した本人である穂は涼し気な表情で、一方的に弱点である光を放っている。
疑う余地もなく穂の圧勝だった。
「はあ……はあ……」
そもそも、相性自体が最悪。どう足掻いても、逆転勝利の目などどこにも無い。
息を切らせながら、答えを模索する。けれど、いくら考えた所で最適な答えが出る訳が無く。
時々、闇の塊──魔人形に対しても、牽制のように攻撃を浴びせる。グロウは死んでは困るが、こっちにはそんな気遣いなどする必要は無いとばかりに一切の容赦が取り払われた電撃。
能力を使いたいが、現状ではそれも厳しい。
3つある内の1つ、【存在停止】。影星の動きを封じたのも、この能力。
存在するありとあらゆるものを止める効果があり、例えばそれは心拍や時間なども例外では無い。この能力ならば、殺す事も不可能では無い。
条件が、揃っていれば。
仮に相手が生物の場合、目を見た時間に比例し、能力効果は強くなる。最大で10秒、見る事が出来れば、命を刈り取る事が出来る。
だが、言ってしまえば、デメリットとしてこの能力は即死を取れないということ。影星には、途中から目を逸らされていた為、初めてグロウの容姿を確認した時と、グロウから視線を合わせに行った計2回、合計7秒程の時間しか見る事が出来ず、穂に邪魔をされた。
そしてもう1つ。
一定の光度を上回った場合、能力が使用不可となり、今までの蓄積した時間はリセットされる。
波動の僅かな光でも、だ。
残り2つの能力は、【瘴毒汚染】と【知覚支配】。【瘴毒汚染】は、液体を毒へと変えることが出来る。但し、触れていれば。【知覚支配】は、視る事が可能な媒体であれば、視界を乗っ取る事が出来る。然しそれは、相手に抵抗されなければの話。
触れることは無理だとしても、視界をジャックすることくらいなら、と試す暇もない。
その時、この裏世界が表世界のどこに位置しているかを思い出した。
もし、ここで自分が死ねば、世界維持が出来なくなり対応している一区画──つまりは、拠点としている学園を巻き込んで、崩壊させることが出来る。
その道しか、勝機はない。
自滅のために、残った魔力を練り上げる。
「な、お前何する気で!」
「あら、お分かりでしょう?」
「ぐっ……間に合え!」
放った電撃は、穂でも感じられる高密度の魔力の歪みにより、本体へ届く前に搔き消された。
最大火力で光を放射すれば分からないが、阻止しようとして殺してしまっては本末転倒だと思ったのだろう。
やるなら、今しかない。
その時。
「うぐ……!」
凝縮された魔力が易々と突き破られ、グロウの体が吹き飛ばされる。
立ち上がり、なんとか視線を向けた先には、赤茶色の流れる様な長い髪。
「待たせたか?」
「いや、全く?」
「そかそか、んじゃ、そいつどうする?」
「殺せないんだろ?」
「そ、相性あんまよくねーよな」
体に鈍痛が走るが、そんなことは気にならない程の感情が心を蝕む。
震えが止まらない。
自爆の為に要する全魔力は、人間一人の脚力で貫けるものではない。
一点に集めるほどより強固になっていく。それは、魔力を貯め続けて強力な魔法を繰り出す事と本質は同じ。
そして、今回は町1つ程度であれば容易に壊滅させられるほどの魔力を込めた。
そんなものはないとばかりに、一蹴されてしまった。
少なくとも、自分が知り得る人間ではない。
仮にこれに言葉を当てはめるのであれば。
人間の様な、ナニカである。
視界が暗く閉ざされ、手足の感覚がなくなっていく。
少しだけ見えた景色には、魔人形を光で消滅させる穂の姿。
もう一つの足音を僅かに聞き取って、意識は暗転した。




