闇世界-アグレス э-
みのりは一人、ヘヴィーの家にて待機という名目で、留守番を任せられていた。
戦力にならないから、という意味で待機を命じられた訳では無い。ただ、参加しないなら家にいろと命じられた為だ。本当は力になりたかったのだが、場数の不足に足を取られ、参加しない事にした。
──予定だった。少なくとも、昨日影星と話すまでは。
空を眺めていると、ふと、1つのワープホールが開いているのが見えた。裏世界の1つへと繋がっている物だ。どこに繋がっているのか、分からない。だが、ここに入ってもいいものか。
正体不明の存在に直面した時、恐怖の対象として、触らぬ神に祟りなしを貫徹するか、若しくは、恐怖を和らげようと正体を暴くか。それは、人それぞれだろう。そして、みのりは後者だった。
家から出、念の為に預かっていた鍵をかけると、躊躇いなくワープホールの先の世界へと足を踏み入れた。
そこが、3度目の共闘の地になるとも知らずに。
─────
闇に包まれた世界。灯りとかはねーけど、視界が塞がれる程暗くは無い。ここが、私が送り込まれた場所、っぽい、な。周りなんもねーけど、とりあえず進んでみようと足を踏み出した時。
「……なんだ?」
目の前で、闇が蠢いた。それらは、人型を形作り動き始める。瞬く間に、10以上の人型が作られた。そいつらは、私に一直線に向かってくる。
地面を蹴って上空に避け、【人体強化モジュール】の飛行効果で、滞空しながらバズーカで魔力を撒き散らせば、先から撃ち出される光を受けて人形は砕ける。
しかし、一度砕けても即座に再生する。だけじゃなくて、闇の中から新しい奴が次々湧いて出る。
「キリがねーな……」
これじゃ、こいつらを殲滅する前に私の魔力が尽きて終わるな……
しゃーねーか。
バズーカを縮小化して手の中に隠し、能力を解除して上から蹴りを放つ。
足元にいた闇は、攻撃を食らってノックバックはした。
……ただ。
「硬い……」
得た感覚は、私が今まで感じた事のない硬度。
……こんなこと、確か前もあったような……
「考えてる暇ねーか」
自分より多い敵の前、しかも攻撃手段が限られてるってのに考え事は流石に無謀。
今はとにかく、目の前の奴を倒す事を考えねーと。
─────
それから何分、何十分経ったか。
「はぁ……はぁ……多すぎだろ……」
別に物理で倒せない訳じゃなかった。ただ頑丈なだけで、諦めずに蹴り続ければ、闇に溶ける様にして消えていく。
ただ、その代わり新しく産まれてくるし、相手だって私に対して攻撃してくるしで、人数不利と相性不利の戦闘で、体力は嫌でも削れる。
合間合間の僅かな隙に息を整えるのが精一杯で、周りを確認する事も出来なかった。
けど、今は戦うだけじゃ駄目だ。なんか、何でもいいから違和感を、この状況をひっくり返せるような情報を、探さないとならない。
視界内にはない。けど、この量はどう考えてもおかしい。世界効果って言われればそれまでやけど、それだけでこんな無限に湧いてくる訳ない。
もっと奥なら何かあるかもしれない。けど、その為には目の前のこいつらを何とかしなきゃいけない。
バズーカで強引に道を作り、奥の方を見に行くか。
……でもそれじゃ、追い詰められた時のリスクが高い、よな。
そう考えてると、ヒールっぽい足音が近付いてくる。音の方に目を向けると、碧眼に金髪のウェーブ掛かったロングヘアを靡かせた女が歩いてきていた。髪留めにリボンがついていて、その中央の留め具には、光もないのに青色の宝石、っぽいものが光ってる。
なるほど、あれがクリスタル。ならあいつが、この世界の核。
いつの間にか、人型の闇は動きを止めてる。
叩くなら、今しかない。
そう思ってんのに、体が動かない。
あの悪夢の時の、金縛りにあった、みたいだ。
「初めまして」
そいつは、私の目の前で足を止めると、髪を揺らしながら頭を下げる。
次に顔を上げた時、お手本のような優雅な微笑みが刻まれてた。
「闇世界-アグレス э-へようこそ。わたくし、この世界の核の[グロウ・シュヴェヴァリテ]と申します」
「あ、そ。中々丁寧に言ってくれるな」
なんとか体を動かせないか試しても、固まった様にビクともしない。
じりじりと焦りが募ってくる。悟らせない様に、いつも通りに虚勢張って笑ってみる。
「ふふ……御名前は?」
「は、言う訳ねーじゃん」
「あら、残念です」
動きを止めていた闇が、私に向かって一歩ずつ、近付いてくる。
いよいよ本格的にやばいとは思っても、動けない。
「まあ、知っても知らなくても、わたくしには関係ありませんけれど、ね」
冷たい目で見下ろされる。
攻撃を防ぐ方法なら、一応考えてはある。が、正直保証は無い。そもそもこれが相手の能力なら、攻撃を何とか出来ても、この状況は変えらんねーし。
……リスクなくしてなんとやら、ってやつか。
覚悟を決めて発動しようとした、その時。
「きゃっ!?」
「お前……!?」
突然、グロウの体が後方に吹き飛ばされる。
そのおかげか、体に自由は戻ったけど、別の意味で動けなかった。
目の前には。
「なあ星辰……俺は……
お前の隣に立てるくらい強くなってるか?」
「……お前の方が強いと思ってるけどな、私」
「まだ言うのかそれ?……待たせたな、相棒」
「ああ……待ってたぜ、相棒」
綺麗な韓紅の髪を2つに結び、どこかの制服と見間違える服を纏ったそいつが──
──穂が、立っていた。




