開戦
その日、世界全体を淡い光が包んだ。
表世界に、裏世界へと続くワープホールが13、その姿を現す。
禍々しくも神々しく、入口が光っているそれは、然し奥が見えない。
学園の近くにも1つ、顕在したのを確認して、紅葉は学園の外へと移動した。
この1ヶ月間、表世界はただ何もしなかった訳では無い。いくら格下だからとは言え、油断は禁物。世界を乗っ取ろうとしているだけでなく、自分達の敵──邪王連中が裏世界に加担しているのだ。
先ずは、世界の住民を安全圏へと隔離。その空間の管理は魔王組織の1つ、『地紋層』へ一任した。主に、その空間内で待機してもらい、住民の保護と世話を行ってもらう。そして、学園を残った戦闘要員の拠点とし、司令塔には、夜鴉を据えた。
何かしらの動きがあれば、彼も最前線に立つ。彼の火力は能力や武器がなくても強力という点で、非常に優位かつ魔力を消費せずに立ち回れるからだ。
支援には3人。怪我を治す為に美麗、魔力を供給する為に雨飾、耐性、無効を付与する為にクレセントダイバー・ディバスト。
同じく、前線向きではあるが、美麗の回復能力が優秀である事、雨飾の魔力が無限であり、他者への魔力付与も簡単である事、そしてクレセントダイバーの耐性等である程度の戦闘補助が可能である事。常時サポートも必要だという考えを込めて、今は前線へ向かわせるべきでは無いという結論を下した。
幸福の守護者であるヘヴィー・プラネットホームと、戒律の守護者であるヴァリネッタ・クロスディールも、今回の戦闘には参加するという事で、家でも研究所でもなく、同じく学園内に待機している。
みのりは、自身の好きな様にさせているが、現状参加意志の表明はしていない。
「はよ、紅葉」
「おはよう影星」
ちょうど寮部屋から出てきた影星に返事を返す。この時間、一番駆けとして送り出す為に呼んだ。
「今更だけれど、キミはいいの?」
「何が?」
「……危ないと思うけど」
「へーきへーき、私が行きたいって言ったんやし」
普段よりも楽しそうな笑みを浮かべ、専用のシャドウ・バズーカを右手に携えている。洋服は、いつも着ている、黒い襟の着物とハイ・ローウエディングドレスが融合した、銀朱色の服。
靴は、ヘヴィーから貰った黒いブーツではなく、敢えて昔履いていた白いものだった。
「キミ、なんで靴替えてきたの?」
「やっぱ最初は正装で行きてーからな。私がここに来た時の格好ってこれだし」
よく分からないが、影星には謎のこだわりがある様だ。変わった人間、と思わなくもないが、何かあるのだろう。……思い入れか何かが。きっと。
「で、話があるんやっけ?」
「そう。君には覚えておいて欲しい事がある」
ワープホールに目を向ければ、影星も同じ様に見上げた。
このホールは、〈闇世界-アグレス э-〉に繋がっている。
「各裏世界には『核』がいる。その人を殺すと、裏世界が崩れるんだ。裏世界は表世界と対応しているから、向こうが崩壊するとこっちもそうなる。ボクらは、今この学園を拠点にしているから、核だけは殺さないで。世界維持の為に、魔力を蓄積させるクリスタルを何かしらで持っているから。死んだら供給が終わり、クリスタルに保管された魔力が尽き次第、崩壊する、って[創造者]が言っていた」
「ふーん、なるほど」
「それからもう一つ。どうやら、裏世界には〈世界効果〉というものがあるらしい。気を付けて」
心得た様に頷いて、影星はワープホールへ近付く。
圧倒的な引力で、奥に少しずつ引き込まれていく中、振り向いた。
「気を付ける事はそれだけか?」
「ああ。……いってらっしゃい」
「OK任せろ」
ひらりと手を振って、影星は躊躇わずに中へと飛び込んでいく。
この侵入が、開戦を知らせるサインとなった。




