創世歴史
この本、つーかこの世界の文字読めないんやから、図書館来た意味あんのか?
「あっ……」
天萊は、しまった、と言いたげな顔をする。
歴史書なんて大概分厚いし、この本も例外じゃない。全部翻訳、なんてのやってたら何日かかる事か。重要なとこだけ教えてもらうとかじゃねーと、閉館までずっと居座る事になるけど。
「えっと……翻訳魔法はありますが……難しい、と思います」
「それヴァリネッタにも言われたんよな」
「うーん……ではそうですね……私が翻訳するしかないのでしょうか?ですが、そこまで得意ではないのですよね」
パラパラと歴史書を捲って、2人共溜息。甘えてないで、文字勉強するべきかもな。
「……よし」
天萊が、小さく呟く。気合い入れ?でもなんで?って疑問は、次の天萊の言葉で氷解した。
「私がこの本に基づいて、歴史を説明します。言葉は通じますし」
「え……そんな事出来るん?」
「はい。歴史のテストの点はあまり良くありませんが、これがあるならなんとかなると思います」
自信ありげに、本を抱えて何度も頷く。その赤い目には、限りなく自信と余裕が宿ってはいるが……
「…………一応聞くけど、最高点は」
「48点です」
「それ、50点か?」
「いえ、100点です」
……私と天萊の間に沈黙が流れる。
向こうが何で黙ってるかは知らねーけど、私が何も言わないのは不安だからって分かってくれ。
でも現状頼れんのはこいつだけなんよな……
しゃーない、私が読めないからこうなってるんやし、甘んじて受けるか。
「…………限りなく不安やけど、まあ任せたわ」
「はい、お任せください」
2人でソファに横並びになって腰掛ける。テーブルの上で、私には読めない歴史書のページを行ったり来たりしながら説明してくれた。
結論から言うと、かなり分かりにくかった。マジで。途中から何話されてんのか分かんなかった。
内容的は、世界が出来てから大魔王が揃うまで。ちな書かれた年代的に、美麗はいなかったし、元大魔王?が出てきたりしてた。後は、私が気になってた上限解放、それと初めて聞く単語の〈波動奏者〉。
この2つの事も、それとなく教えてもらったけど、思ったより詳しい事は書いて無かった。
説明を纏めるとこんな感じになる。
[創世者]が外殻(所謂宇宙を指すらしい?)を創造した。
その何万年後かに、〘真成世界〙を創造。その際、創世者の目的の為〘真成世界〙の中身をそのまま移した所、〘虚妄世界〙が創造された(目的に関しては一切不明)。
〘真成世界〙は、違う次元に在る。次元壁で、今は完全に無い世界となっている(今の状態じゃ、世界に認められてても行き来出来ない)。
〘虚妄世界〙は、同じ次元に在る為、{外界ゲート}を開いていれば、外界との交流が可能。理由は、虚妄世界が、外界と同じ次元に存在するから。
その過程で、光と闇を司る存在が、計12人誕生した。それが、後の魔王組織〈玲瓏の理想郷〉と、〈暗影の祝園〉になる。
次に、創世者は、[観測者]、[時空覇者]、[知覚者]、[絶息者]という自身の特徴を取り入れた、同格の存在を生み出した。
以降、五柱で世界を管理していく事になる。
〘虚妄世界〙が作られて数年後、異端な存在が天界に現れ、瞬く間に荒らした。まだ、能力が上手く制御出来ていなかった事に気付いた創世者は、そいつの能力制御の補助を行う代わりに、〘虚妄世界〙の管理権限を与え、"世界の意思"として代表者になる事を求めた(これが紅葉。人を認める、ってのもこの仕事に入ってるっぽい)。
その後、天界から降りた"世界の意思"は、魔界で迫害されていた、『神の力を宿した悪魔』と共に大魔王となった(これが雨飾らしい)。
結成後、"世界の意思"の能力制御に限界が訪れ暴走状態に陥り、世界は崩壊の一途を辿る。
種族、性別関係なく、等しく破滅が迫っていた。
その暴走に立ち向かったのが、3人の人間。
従来の生物とは違い、魔力だけでなく波動も自在に操る事が可能。その力を使って足止めを行ったが、手も足も出ない状況だった。
そんな中、一人の人間が『上限解放』を行い、残りの2人が逃げる為の時間稼ぎを行った。
結果的に、上限解放を行った人間は、その反動で命を落とし、2人は諦めずに尚も応戦したが、瀕死となった。
観測者は、その人間達を、立ち向かった英雄として『守護者』という称号を与えた。
その内、『幸福の守護者』と『戒律の守護者』は、力の大半と寿命を引き換えに死の淵から蘇ったが、『運命の守護者』は蘇る事が無かった(幸福と戒律はヘヴィーとヴァリネッタの事。運命の守護者は名前不明)。
その暴走を抑え込んだのは、『神の力を宿した悪魔』で、神の力と悪魔の力の両方を、最大まで引き出す覚醒により、何とか抑え込める状態にまで持っていった。
そして、絶妙なタイミングで創世者が再度能力制御の補助を行い、3人で調整し漸く収まった。これが、「紅色悪夢」と呼ばれるものになる。この時に創生者が能力にデメリットってのを追加した。
騒動が収まった後、残った鬼族が8人集まって出来た魔王組織が〈永克覇王〉。同時期に、〈玲瓏の理想郷〉と、〈暗影の祝園〉も魔王組織となった。
その数十年後、地下深くを拠点としていた4人の精霊達により、魔王組織〈地紋層〉誕生。ここを最後に、新たな魔王組織は誕生していない。
それからは、悠衣、觜霊、夜鴉、珀空、天萊、羅刹の順で大魔王となり、〈不死鳥大魔王〉が結成され、世界の統治を任されている。
最初に2人体制の大魔王が出来たのは、今から13万年近く昔の話らしい。ヘヴィー達は相当長く生きてるらしいな。
んで、元大魔王?が珀空って奴。なんかやって追放されたらしい。ちな觜霊は会った事ないけど、現役大魔王。
ってのが、分かった事。
驚く事に、これ恐らく実話なんよ。ってのも……
「これ、書いたの誰なん?」
「著者は[イージス・アリア]、〈玲瓏の理想郷〉の一員で、歴史を担当している教師ですね」
紅葉が生まれる前にいた存在が書いてるんよな。
「よく分かったわ、ありがとな」
「いえ、こちらこそ、勉強になりました」
……こいつほんとに大丈夫なんか?
いや、それより少し気になる事が。
ワンチャンそいつに会いに行けば、上限解放についてなんか分かるかもしれない。
「なあ天萊、そいつに会いに行ってもいいか?」
「構いませんよ、ご案内いたしましょうか?」
「頼むわ」
「畏まりました。では、こちらへ」
本を戻して、私達は図書館を出て学園まで向かう。
道中、ダメもとで魔法を教えてくれって頼んでみた。
そしたら、「この後時間が余っていたら」って言ってくれた。
学園内二階の渡り廊下を行って、研究棟に移動する。自動ドアの近くの壁のインターホンを鳴らすと、ドアが開くようになってる。まあ、マンションとかにあるやつやな。
天萊に連れられて208室に移動して、ドアをノックするとすぐに扉が開いて、藍鼠のポニーテールに、浅葱色の瞳を持った男(多分)に出迎えられた。
「ああ……どうも。どうぞ……」
「失礼しますね」
テーブルを挟んで、向かい側に座る。私は天萊の隣で、天萊の前にアリアが座ってる状態。
「はい……僕はアリア……何が知りたいのでしょうか……」
「えっとそれが……何が気になるんですか、影星?」
そう訊かれて、思い出すのは紅葉の冷たい声。
もしかしたら、この話は聞かない方がいいのかもしれない。
話してくれないかもしれない。
それでも、穂が使ってたあの力の正体が、どうしても知りたい。
過去の英雄のように、死を伴う様な力であるなら、尚更。
「……上限解放、ってなんだ?」
その言葉を聞いたアリアの目が、一瞬だけ揺れる。
が、それはすぐに変わった。
何か、昔を思い出す様に。
「……分かりません」
軈て、吐き出されたのはその一言。
けど、私達が何か言うよりも早く、アリアは続けた。
「けれど、一つ分かるのは……
あの力は、禁忌の力であること、です」




