森奥の書庫
恐々としながら本を戻す。そか、魔力量も上がってるんか、今の私……え、いつか内側から弾け飛んだりとかしねーよな?その死に方はマジ望んでない。意図してない自滅はダサすぎる。
カプセルを指で突っつきながら、ヴァリネッタは私に訊く。
「で、1000秒かかるんだったよな」
「そそ、──あ、待ってそうだ」
忘れてた。いやだって思ったより火力とか諸々がえぐかったから、ついそっちに気が向いたのはしゃーなくね?
「洗浄魔法?と転移魔法?ってやつ教えてくれ」
「はあ……?」
最初、何を言われてるのか分からないと言いたげな表情は、理解したのか、左右異なる赤と青の瞳を見開いた。
「は!?いやいやいやいや無理無理無理無理」
「え、なんで無理なん?」
「教えるのムズイからだよ!魔法関係は!」
なるほど。
魔力の放出とか、コントロールとかで何とかなる感じじゃねーのか。
うーん……?
「とりあえず何でムズイのか教えろ、話はそれからだ」
「お前教えてもらう立場なのに態度デカ」
「あ?」
「怖……説明するから落ち着け」
ヴァリネッタは、私を落ち着かせると(別にキレてはなかったけどな)、魔法関係がムズイ理由を話してくれた。
魔法を使うには今使っている言葉ではなく、『魔導語』ってのが必要になる。始めはゆっくり詠唱、慣れてきたら早口でやっても効果はある。
一応慣れたら無詠唱でもいけるけど、結構難しい。出来る奴はそこまで多くないけど、ヴァリネッタは出来る。当然、大魔王連中は言わずもがな。
魔法は種類が多彩で、電気を付けたり消したりするようなものとか、服を畳んだりするようなものもある。そして、特に大切なのは、多彩だからこその言い間違いや噛み。
ちゃんと言えないと、魔法が発動しなかったり、違うものが発動したりする。
異世界に転移してきた私は、この世界の文字も読めないから、それより難しい『魔導語』は読めないだろうし、異世界の奴らには発音可能かも分からない。
だから、教える方も難しい。
魔力も消費するし。
ってことらしい。
「つまり魔導語が分かればいいんやな?」
「お前読めないだろ」
「いやいや転移魔法とかめちゃくちゃ便利やん?習得しない理由がないやろ」
「そうか…………お前に何を言っても無駄って分かったのは収穫だな…………」
遠い目で呟くヴァリネッタ。失礼な事言われてる気がするんやけど。私は自分が強くなる為なら努力は惜しまねーぜ、どんだけ無茶な事でもな。
「まあ、図書館にでも行けば何かしら手がかりはあるかもな……応援はしとくわ」
「OK、図書館な、図書館……」
ん、最近その言葉聞いた気が……
「あ」
「どうした」
天萊と約束してたんだったわ。
これ、まだ結構時間かかるよな。
あんま待たせたくねーな……そだ。
「今度ここに来るまで、その生体記録板とチップ預けといていいか?」
「まあ……別に……悪くはねぇけど……?お前がいいなら……?」
「じゃあ頼むわ」
ほぼ脳死状態で、適当な返事をしてるヴァリネッタに、生体記録板とチップを押し付けて家を出る。
あーあ、こういう時転移出来たら便利なのになー、教えてくれてもいいのになー。
徒歩で寮まで歩く。学園の方で薄らと、青と紫の光が飛んでるのが見えて思わず呆れた。まーだやってんのかあいつら?でもおかげで迷わずに済むな。
504号室の寮の扉を叩くと、すぐに扉が開いて中から白い滑らかな髪と、赤い眼が出てきた。
「お早かったですね」
「時間かかりそうやったから途中で帰ってきただけだぜ、それより案内頼んだ」
「はい。もちろん!」
天萊は嬉しそうに笑って、部屋を出てきた。鍵も持ってて、鍵に同じ鳳凰の模様が刻まれてるもの。
あーこいつもちゃんと大魔王なんやなあ、ってしみじみと実感する。いつかあんな感じの模擬戦じゃなくて、ちゃんとした殺し合いとかしてみたいな。
「鍵は持っていますよね?」
「ああ」
ポケットから鍵を取り出して見せる。目に見える権利を振り翳せるもの──まだ使った事は1回も無いけどな。
「それを見せると、本を借りる事も可能ですので。では、参りましょうか」
私に鍵を仕舞うように促すと、階段を降りて行く。後に着いて行くと、寮の裏手側に続くタイルの道があった。周りは木が生い茂ってる中で、丁寧に舗装されて、道の脇には野花なんかが咲いてる、一言で纏めると「いい雰囲気の道」って感じだ。
ちょっといいホテルかなんかの裏庭にありそうだな、とか思ってると、向こうから、人影が2つ近付いて来る。
「あら?」
天萊が声を上げる。
気付いたのか、2人共本の表紙から顔を上げた。
「あれ、天萊?」
「どうしたのよ、アンタが図書館なんて珍しいわね」
1人は金髪のドーナツヘア。同じく金色の目に、白いチュニックワンピース。
もう1人は、白と黒のツートーンヘアのセミロング。翠色の瞳に、シャツワンピースを纏ってる。
恐らくどっちも女。
「いえ、影星を連れて行く所です。紹介しますね、私の仲間の大魔王、悠衣と心夢です」
「私が影星だ、よろしくな」
金髪の方が悠衣、白黒の方が心夢って言うらしい。こいつらも大魔王なんか、力は私より全然弱そうに見えるのに。
「う~~~ん、影星って、もしかして最近有名な?」
「ええ、そうです」
「あの影星ね……まあ、そこそこやるみたいだし、知り合いになってあげてもいいわよ」
「なってあげてもいい……?お前、大魔王だからって」
「では、失礼致します」
拳を握り締めた時、天萊に私の腕を引かれた。暗に「仲間に手を出すな」と言われている様だ。流石に殴りはしねーよ、紅葉に何言われるかわかんねーから。
ただなんか、天萊もそうやけど、他の大魔王からはヤバさをそこまで感じないんよな。これは紅葉が特別ヤバいってことでいいんか?それとも、他の奴は完全に隠してるんか?
「着きましたよ。ここが図書館です」
ぼんやりと考えながら、半ば引き摺られる様にして辿り着いたのは、煉瓦作りでステンドグラスが所々に嵌められた建物。しかもこれ、高さ的に二階建てだ。形こそ長方形だが、左右の手前の壁は階段状に高くなって、先に行くにつれて煉瓦の色が濃くなってる。
……いや違う、これステンドグラスじゃねーな。
模様と色が描かれたガラスが、自ら発光してる?
「入りましょうか、どうぞこちらへ」
さっき考えてた事がどうでも良くなる程外観は綺麗だったけど、内装はもっと綺麗だった。
まず、二階に行く為の階段やらエスカレーターやらが必要ない。転移魔法陣で事足りるのは、学園内の大図書室が証明してるから、か?
照明は発光するガラスの他、上から3cmくらい伸びてる支えにランタンがかけられてて、暗くはないけど明るくもない、リラックスに向いてる明るさ、くらい。
勿論ソファもテーブルもあって、テーブルの中心では、人が通った時の微風に火が揺られながら、蝋を舐めて机上を照らす。
本棚は綺麗に整列していて、ちゃんとジャンル分けもされてる。
「なあ……こういう建物系って、誰が作ってるん?」
思わず訊く位には、私史上最も好みの建物だった。
天萊は微笑みを浮かべながら答える。
「建物や発展などにとても口煩い魔王組織がいるのですよ。外界から、積極的に文化を取り入れ、美しさを追求する、変わった組織、〈永克覇王〉という、古い所が」
「へー、そんな奴らがいるんか」
魔王って組織によってやってること結構違うんやな。
「ここを管理しているのは、〈玲瓏の理想郷〉と〈暗影の祝園〉という、二つの魔王組織です。サーガとナイティアの所……と言えば、分かりますか?」
「あいつらか、分かるぜ」
一応ここ、学園の敷地、みたいな管理になるんやろか。あの二人がまさか全教科教えてるわけじゃねーし、ナイティアは化学教えてるって羅刹が言ってたな。
「歴史関係は……これですね。はい」
天萊は、数多の本棚から一冊の本を抜き出した。
勿論、この世界の言葉で書いてある。
うん。
「読めねーよ!!」
図書館なのに、思わず叫んだ。マジ役立たねえ図書館。
文字が読めないのって大変なんやな……




