当てはまらない言葉
無言で穂の隣に座る。上限解放、吐血、聞きたい事はあるけど私も疲れた。また今度聞いてみる事にするか。
そんな事を考えながら、空を見上げる。
「……なあ、星辰」
「どした?」
「あいつの能力、なんだった?」
「あー、それか。【時間遡行】って能力らしい。擬似未来予知なんやろな」
時間遡行。
時間を戻し、無かった事にする。相手は1度見た通りの行動をしてくるから、確定回避になる。ってところか。
「……天性、何だったんやろ」
「分からないな。まあ、もう死んだ奴の事なんか別にいいだろ」
そこで1度、会話は途切れる。ふと隣を見ると、穂の視線は、私とは反対に地面に向けられてた。
長いツインテールが、一陣の風に吹かれる。その様子を見詰めていると、顔が私の方を向いた。
上限解放の時は赤紫だった瞳は、私のよく知る漆黒。
視線は私に固定されて、少しも逸らされる気配が無い。
「なあ、星辰。俺がこれから言う事……笑わないでくれるか?」
「……分かった」
穂は両手を胸元で合わせて、息を吸った。
「俺は魔力を持ってないんだ」
「……それで?」
「え?」
思ってた反応と違ったのか、穂の目が丸くなる。
いや別に、魔力ないからって笑ったりしねーし見下す気も全くねーけど。
それ所か、現時点で私より強い穂に魔力無いって言われんの遠回しにバカにされてるだろ。私魔力あるけどお前より弱いって言われてる気がしてきた。
……全部被害妄想やけど。
脳内での被害妄想は一旦置いといて。
実際、穂は魔力あるなし関係なく強い訳だし、実力は相当。
紅葉とかは「強ければOK」タイプやと思うし、そんなん気にしないと思うんやけどな。
「魔力……ないんだぞ?みんな持ってるものが……」
「魔力ないと迫害されるわけじゃねーんやろ?」
「それはそうだけど……」
「それとも、みんな持ってるのに自分だけ持ってないからバカにされるとか思ってたんか?」
私の疑問にみのりはバツが悪そうに指を動かした。そう思ってたんやろな……なんで自己肯定感が低いというか、自分を信じきれてねーのかな。
「別に私はお前に魔力が無くても気にしねーよ、それヘヴィー達も気にしてないんやろ?」
「ま、まあそれは……」
「別に良くね?」
ずっと動かしてた指が止まった。言われるとは思ってなかったか、「でも」「だって」を行ったり来たり。壊れたラジオみてーになってっから1発入れた方がいいんやろか。
まー力じゃなくてもいい訳やしここは穏便に言葉で伝えるか。
「少なくともお前は私から見て強いと思うぜ。だから魔力なんてなくても気にしねーし、そもお前は私の友達やろ?そんな事で差別しねーから安心しろ」
にっこりと笑顔を浮かべて言ってやれば、穂は手を顔に持っていった。
「うぁぁぁぁぁ!!」
「な、え、なんで?」
かと思えば急に泣き出した。情緒迷走しすぎてちょっと怖い。何をどうすればいいか分かんねーよ。
私も私で置き場の無い手を空中でバタつかせた。目の前で泣いてる奴を慰める方法は知らねーぞ私。
「ありがどうぅ……ずっど、ごわがっだんだぁ……!!」
「泣き止んでから話せ!!」
「わがっだ…………」
バッグの中からタオル(乾いてるか?)を取り出して涙を拭き、ティッシュを取り出すと鼻をかんだ。
それを見てて思い出したけど私が放り出した荷物、無事なんやろか。
放り出された荷物の方にそっと視線を向けると、意外にもぐちゃぐちゃして無かった。まーうん、袋が踏まれたり擦れてたりはしてるっぽいから無事ではねーけど。
そうだ、もしかして【時間遡行】で直せる……
いや無理だわ、もうそれができる程の魔力が残ってねーわ。しゃーなし、明日にでも試してみるか。
「ふぅ……悪いな、ちょっと取り乱したわ」
「取り乱しすぎだが?」
少し赤くなった目元を擦り、穂はタオルをしまうと微笑みを浮かべて私の目を真っ直ぐ捉えた、
「改めて……ありがとな、星辰。俺、怖かったんだ。お前から足手纏いだと思われる事、そして距離を置かれる事が。お前は俺より強いから、こんな俺ともう仲良くしてくれないと、強い奴の方がお前は好きなんだと思ってた。……お前は、俺の事強いって言ってくれたよな。友達だとも。……嬉しかった。いや、過去形じゃない。嬉しいんだ、今も。だから……これからも、友達でいてくれ」
「あったりまえやん」
笑って一言返せば、それだけで安心した様に微笑みが満面の笑みに変わった。泣き止んでくれたし、分かってくれたみたいやな。
私は別に冷徹無慈悲な殺人鬼じゃない。
ちょっと強者と戦うのが好きな戦闘狂なだけだ。
友達をそう簡単に捨てる訳ないし、恩人には一生かけて恩を返したいと思ってるし、何が何でも守ってやるって決めてる。
ただ、それだけだ。
「さて……今度こそ夜遅いし帰るか」
「せやな。今何時だ?」
「今?……げ、19時過ぎてる…ヘヴィーには19時までに帰るって言ったのに……」
バッグから引っ張り出した時計を見て、顔を顰める穂。こいつって結構表情豊かやな、とか思いながら投げ捨てた荷物を持ち上げる。あれ袋ビリビリやな……まあいいか。
寮までの道を、今日あった事を話しながら歩いていればあっという間に街から街への移動が終わってた。
寮が近付いてくる事に名残惜しさを感じて、そう言えば言いたかった事があったと思い出した。
「そういやみのり」
「ん?」
「大切な人がいるか?って聞いたよな」
「あれそれ気にするなって言わなかった?」
「その話なんやけどさ」
「私の話聞いてる??」
街中だから女に戻った(見た目は元々女だった)みのりに、自分が思った事をそのままぶちまける。言わないと理解しねーのはよく分かった。
「私は大切な人はいる。けどそれは、私が守ってやらなきゃって思ってる様な奴だ」
「……えっと?」
よく分からない、と言いたげなみのりの視線に、わざと1拍おいてから言った。
「背中を任せたいと思ったのはお前だけって事」
「え」
1文字発して表情がフリーズしたまま、足だけはご丁寧且つ機械的に動かして私の隣を歩く。
クレーターは無事に直されたらしく、綺麗な道に戻った。良かった良かった、責任追及とか弁償とか求められなくて。まあ求められても対応する気は少しも無かったけど。
「えっと、それは、つまり?」
「次までになんかいい感じの言葉見つけてくるわ。大切っちゃ大切やけど、なんかちょっと違うんよな」
「え、あ、うん…………」
ちょっと哀愁漂うみのりが何となく可哀想になった。両手は荷物とバズーカで塞がってるから慰められねーな。
「あ、待って紅葉さんじゃん」
「あいつなんか私に用か?」
初めて来た時とはちょい違うけど、学園の門に立ってるそいつを見て、みのりは踵を返した。
「また今度ね、影星!何かあったらヘヴィーの家に来て!」
捨て台詞のように言い残して、全力疾走で引き返してった。嘘だろ、温度差どうなってんだよ。やっぱあいつの情緒怖……
「……失礼じゃない?」
「いや、お前は何してんだよそこで……」
「キミに話したい事があって……」
遠くなるみのりに、紅葉は溜息を吐いて校舎の方へ足を向ける。
「着いてきて。……話そうか」
「……OK」
口数が多いとは言えないこいつに、前と同じ教室へ通された。




