上限解放
一人、また一人と、脳を強烈な光で焼き貫かれていく。
能力の扱いにも慣れたものだ、と戦いながらひっそりと思った。
雨宮 みのり──雨宮 穂は、元々ただの人間である。
前世で誰かと殴り合いの喧嘩をした事等ないし、能力なども存在しない世界だった。
ラノベなどでしか見ない能力という概念。
転生直後は、自身にもチート能力が備わるものだと思っていたのだが、どうも現実は違うらしかった。
与えられた能力、【神様のいたずら】は全ステータスの飛躍的向上と自動回復。
弱いというつもりはない。事実、この能力のおかげで、穂はこの半年間、死に直面するような事態は免れている。助手兼ボディガードという立場上、しかもヘヴィーは戦闘向きの能力ではない点も考慮すれば、必然的に戦闘を担うのは穂。数多の実戦経験もあるが、前世よりも圧倒的に強い理由はこの能力のおかげである。と、断言出来る。
しかし、だ。
この能力はあくまで『自己強化』でしかない。
結局のところ、数的有利を取れる様な能力ではないし、応用が利く訳でもない。武器は己の肉体のみ。
更に厄介なのが、穂は魔力を持たない人間である、という事。
へヴィーに拾われ、その日の内に能力を鑑定し、結果を知った穂は……正確には、ヴァリネッタもだが、衝撃を受けた。
魔力が無い、という事実に。
恐らくは能力の性質上、仕方のない事だ。
何故ならば、この能力の代償は『性別転換』である為だ。
意識的に能力を発動するかしないかは自由だが、制限が制限の為魔力という概念が付随しなかったのだろう。
そして、魔力を持たない彼の能力発動の源。
それは、体内で生成される生命エネルギー……略称、波動。
魔力の様でまた違うその力を用いているのは、1部のとある力を持つ者のみだ。
そんな彼が、つい昨日、影星と別れてから新たな能力に目覚めた。
その名も、【神様の奇跡】という。
概要は、光を操る能力。どういう訳か、代償は存在していなかった。
今まで通り、波動を使用し扱う能力。
けれど、この能力は足りない攻撃手段を補えるという点で、凄く有用だと気が付いた。
加えて、どうやら能力使役の才能はあったようで、2時間も練習すれば狙ったように光を飛ばす事も、光子から武器や壁を作る事も、光そのものを生み出す事も可能になった。
そして、今。
「そこか」
「なんだこい──」
指先から光速で放たれた熱線が心臓を貫く。
戦況は、圧倒的に穂が優位だった。
影星よりも多い、7人という数を相手しているにも関わらず、一切の抵抗を許さず射殺していく。
その流れが変わったのは、最後の1人になってからだった。
到底躱せる速度では無い筈なのに、何故か当たらない。まるで、こちらの次の行動から光の軌道まで、分かっている様な動きを行うのだ。
さっきまではこの行動は取ってこなかったはずなのだが、何故?
と、一瞬思考が横に逸れた瞬間。
「ッ……!」
すぐ横を、何かが飛んでいった。
それは後ろで爆発を起こした。
だが、今の攻撃は彼を狙ったものでは無い。
では、一体誰を…………
「危ねーな!」
「な……大丈夫か!?」
「相殺したから問題ねーぜ、それより手伝った方がいいか?」
先の攻撃から逃れた影星が隣に並んだ。
気配を消し、隠密を行っていた影星を狙った攻撃の様だ。
穂の意識が相手の能力に傾いていたタイミングと同様、影星の意識が別の何かに取られた絶妙な時を狙って攻撃を仕掛けに行ったのだろう。
何故、影星を狙ったのかは不明だが。
「頼む。あいつの能力、間違いなく強い。それに身体能力も高い。ただ突破口はある。だから時間稼ぎ頼んだぜ」
「……よく分かんねーけどお前に任せるわ。能力も出来るだけ推測してみる」
言うが早いか、身を低く屈め相手の懐へ一息で飛び込む。
その様子を見て、穂は静かに目を閉じた。
禁忌の力。それを今から発動させる。
その為には、力をコントロールするだけの時間が必要になる。
その間、彼は一歩も動く事が出来ない。
影星に万が一があった時、助ける事が出来ない。
「……死ぬなよ……」
力と力が衝突する。
影星は、何度か火炎による誘導や、イリュージョンによる不意打ち等を試みているが、全て読み切られてしまっている。
確かに相手の身体能力は高い。特に、速度は【星達の不純物】のバフモードを常に起動していなければ着いていけない程だ。
1度デバフモードに切り替えてみたが、その時に限りターゲットを穂に切り替えて遠距離攻撃を放っている。
だが、相手も影星の耐久力と火力を上回るだけの力は持ち合わせていない様だった。
結果、正面から相手は速度で、影星は力で、それぞれ殴り合う状況だった。
そんな中、影星は一つの確信を抱いていた。
「お前……『転移者』やろ?身体能力の高さ的に補正乗ってるやろ」
「……お前もか」
「そうだぜ。まあ……
誰かの下につかねーと殺しに手染められない雑魚とは死んでも仲良くしたいとは思わねーけど」
その言葉に、相手は僅かに不快感を見せた。
すぐ様竜巻を打ち出すも、分かっていたかの様に躱される。
反応速度に感嘆する一方、攻撃の手は緩めずに足を前に突き出した。
「チッ」
躱されそうになるも間一髪、ナイフが右足を深く切った。
それを見ながら何事かと呟いて──
「……どうなってる?」
──心底驚愕した表情を浮かべた。
そんな彼に投げられる声。
「やっとか。でもこれで、もうお前の能力は通用しない」
その人物は、平常時は黒い瞳を、赤紫色に光らせて、その言葉を放った。
「その力……は」
「おい穂……なんだそれ」
2人の問いに、穂は少し首を傾げて一言。
「上限解放。……聞いた事ないか?」
その言葉は、2人にとって初耳だった。
無理もない。
何故ならば、これは古い歴史の中で伝承として語り継がれている力だからだ。
上限解放。
それは、限られた者にしか扱えず、限界を超えた有り得ない力を得る事の出来る切り札。
代償を必要とするこの力は、コントロールも非常に難しく、例え発現しても力に飲まれ命を落とす者の方が圧倒的に多い。
勿論、滅多にその力が与えられる事もない。
斯く言う穂も、上限解放に至るまでの時間はかかる。言わば、発展途上の段階。
しかし、今はその力で事足りる。
この力を使えば、能力に干渉出来る事も理解した上での最適行動。
それが、彼の弾き出した答だった。
「星辰、そいつの能力やるよ。殺れ」
「はは……お前、私より弱いとか言ってたのにすげーな」
地面を踏み締め、接近する。
呆気に取られていた相手も動き出すが、いくら速くても近すぎた。
背面に全力で蹴りを叩き込む。
吹き飛んだ相手は建物すらも超えて消えた。
それを見届けて、穂の瞳が黒に戻った。
「げほっ……」
その瞬間、穂はその場に膝を着き、血を吐き出す。
まだ使用回数も少なく、目覚めたのは4ヶ月前。
慣れない力の行使に加え、波動の乱費は流石に身体に堪えた。
「穂!?」
「安心しろ。……これくらいならすぐ治る」
駆け寄った影星を安堵させるように、もう一度咳き込んで地面に座り直した。




