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戦闘狂の異世界記録  作者: 茜音
異世界探索記-日常-
17/76

一日の終わり

 何食わぬ顔でしれっと映画館の裏手に来た私達は、息を整えながら次行く場所の話し合いをしてる。


「で、どこ行きたい」

「せやな……カラオケとかどうだ?」

「マジ?別にいいけど」

「じゃ、連れてってくれ」

「お、おう……」


 不自然だと思われないようにそっと表通りに出て、カラオケ店を探す。

 何人かチラチラ見てきてる気が……いやこれはあれか。私が有名になりたくてなった訳じゃない有名人だからか。

 うん、どこも嬉しくねーな。


 私に向けられる視線に気付いてるのか、みのりは私の手を引いて少し駆け足になる。

 もっと多くの人に見られてっけどいいんかそれで。お前は。


「確かこっち側にカラオケがあったはずだから……」


 下り坂でも勢いを緩めずに走って、途中の道を左に曲がる。

 途中で何人かとぶつかりそうになるのを避けながら直線を走る。

 そして、右側の『KARAOKE』って書いてある建物に駆け込んだ。


「いらっしゃいませ」

「えっと…2時間?でいい?」


 メニュー表を見ながら聞いてくれるみのり。カラオケに行ったことなんてほとんどねーから2人でどれくらいがいいのかとか全くわかんねー。


「3時間以上でしたらフリータイムの方がお安くなっております」

「だって。どうする?」


 一応1時間〜5時間までは1時間区切りで料金が上がってる感じ、らしい。

 んで3時間以上なら、フリータイムの方がドリンクもあって安いよ、みたいな感じか。


「んじゃ2時間で」

「2時間の……ドリンクバーでお願いします」

「畏まりました。お部屋2階の205号室でございます。30分毎に自動で延長されまして、時間10分前になったらお部屋にお電話差し上げますので。ドリンクは2階のロビーのものをご利用ください」


 12時28分〜14時28分と部屋番が書かれた紙が挟まれた伝票を受け取って2階に上がる。

 ちょこちょこ部屋から音やら声やらが聞こえる。まあまあ繁盛してんな。


 ロビーで私はオレンジジュース、みのりはぶどうジュースを注いで207に入る。そこそこ広い部屋だった。

 マイク2本とタッチパネルを机の上に出して、ついでに採点機能も。

 知ってる曲で検索してみると意外と知ってる曲が多かった。


 折角だから点数勝負してみたら、みのりはかなり歌が上手かった。多分歌い手になれたと思う。90点台で曲によって勝ったり負けたり。総合したらちょっと負けたか?楽しかったからいいけど。


 カラオケを出て(みのりが払った)次に行ったのは服屋。この世界にいるなら服は沢山あっても困らねーしな。

 色々詰め込んだけど買った服としては、黒のブラウスとか、白のチュニックとか、水色のキュロットパンツとか、紺色のタイトスカートとか。めちゃくちゃ種類が豊富だったし動きやすそうな服も沢山あった。とりあえずそういうものは全部買ってもらった。1時間以上は居た。

 合計多分結構高い。靴やらバッグやらはまた今度1人で来るわ。今は特別必要じゃねーし。

 これも全部みのりが払った。こいつどっから金出してんだってくらい奢ってもらいっぱなしで申し訳なさしかない。

 まあ遠慮はしてねーけど。


 店を出て、ついでに近くの本屋に適当に寄った。特に欲しい本とか興味が惹かれる本とかはなかったな。

 そもそも読めねーし。これを機にこの世界の言語勉強すんのもありかもとは思った。思ったけどまあ多分なんとかなるやろ。何とかならなかったらそん時に学べばいい。

 みのりは1冊買ってた。後で題名聞いたら『行くならここがいい!オススメスポット15選』とかいう雑誌を買ったらしい。出掛けるの好きなんかな。


 本屋を出て、夜にするには少し早い時間やけど、みのりが連れてきたいとこがあるって言うからそこに行った。

 シックな雰囲気のレストランの個室に通されて、机の上にはスプーン、ナイフ、フォーク、あと読めないメニュー表。フルコースらしい。私ら2人とも未成年やからお酒飲めないはずやけど、この世界には法が無い。からちょっと飲んでみたかったけどみのりに邪魔された。

 しゃーなしで私はアイスティー、みのりはノンアルカクテル。グラスを持って乾杯の真似事をしてみた。

 アミューズから始まって、オードブル、スープ、魚、肉、最後にデザート。私あんまり食べるタイプじゃないから少なくて助かったわ。

 魚と肉は知らない生物だった。魔物らしい。一応食用に養殖されたものだから食べても害はないとか……まあ美味しかったけどな。魔物って食えるんか、が正直な感想だったし。


「……なあ、星辰」


 食事が一段落してデザートのソルベを食べていると、不意にみのりから……いや、私を星辰って呼ぶ時は穂でいいのか。


「なんだ?」

「……付き合ってくれて、ありがとな」


 唐突にそんな事を言う穂に、一瞬脳内が宇宙に飛んだ。

 なんで私が感謝されてるん?こんなに色々奢ってくれてエスコートしてくれたのは穂やろ。


「礼を言うのは私の方だ、楽しかったぜ」

「……そうか。良かった」


 ふ、と穂は息を吐き出す。

 漆黒の瞳が私を正面から射抜く。


「お前、元の世界に大切な人とか……いるか?」


 真剣な声色。

 多分、こいつはまだ、前世を引き摺ってる。


 けど、私とこいつには決定的な違いがある。


 もう戻れない穂と、戻る事が出来る私。


 私の事が羨ましいんだと思った。


「……俺はいなかった」


 気のせいかと思った。

 けど、感じ間違えた訳じゃなかった。


 さっきまでの雰囲気はなく、代わりに纏ってるのは……悲しみ。


「いや、家族はもちろん大切だった。親には感謝してるし、友達もいた。……でも、特別な存在ってのは、居なかった」

「お前の考える大切な人と特別な人は、何が違うん?」


 穂はパチ、と驚いたように瞬きを1つ。それから、ゆっくりと深呼吸をしてから口を開いた。


「大切な人は、一緒にいる事が当たり前の人の事。特別な人は、隣にいたいと思う人の事。自分が守ってやりたい人の事」

「……それで?」

「俺は……」


 そこまで言って、穂は口を閉じる。

 かと思えば、次の瞬間には微笑を浮かべた。


「悪いな、変な話して。……事前に代金は払ってある。行こうぜ」

「……話の続きは?」

「何でもない、気にしないでくれ」


 何故か話を中断される。それ以上はどんだけ言っても、続きを話しそうには無かった。大人しく店の外に出る。

 大分時間が経ってたのか、辺りは薄暗い。


「結構遅いかもな……寮まで送る」

「覚えてねーからそうしてくれると助かるわ」


 買った服とバズーカを持ち歩いて道を歩く。

 ピカピカのネオンが輝く街を出ようとした時。


「……なーなー穂ー」

「なんだ?」


 見てしまった。


 この街に最高に不釣り合いな建物を。


「あの建物、なんだ?」


 それは、街を少し出た所にあった。


 四角い建物を覆うように柵が建てられて、入口は取っ手のない扉。カードリーダーっぽいものがあるから、専用のカードで入るんやろか?


「……あそこは有名な暴力団のアジトだ。強奪強盗は当たり前、ヤバい物を人に売り付けて金稼ぎしたりしてる。能力者も多いらしい。……今日、お前狙われてたぞ」

「は?狙われて…………おいカラオケ行く前の視線って」

「そういう事」


 最初は私が有名人になったからだと思ってた。けど、それなら穂が急に私の手を引いて走り出す理由が無い。

 嬉しくはねーけど、だからって逃げる程嫌って訳じゃない。むしろ私に喧嘩ふっかけてくる奴がいればいいな、くらいの気持ちはあった。もう1回言う、嬉しくはねーけど。


 既にマークされてたか。噂が広まりすぎるのも困るな。


「……なら、ちょっと叩き潰すか」

「正気か?」

「いやだって狙われてたって事は自分より弱いと思われてるって事やろ?


 舐められっぱなしでいられるわけねーじゃん」

「それは俺も思った。……けど、遅くねえか、それ」


 よく探ってみれば、街の方からいくつもの気配がこっちに来る。

 

「……あー、バレたっぽいな」

「囲まれてるよな、これ」


 目の前のドアが開いて、中から人が出てきた。

 チラッと後ろを見てみれば徐々に集まってきてる。

 10人以上は間違いなくいる。この数1人で相手すんのは流石にキツイな。


「……穂、お前戦えるか?」

「まあ……お前よりは弱いかもな」

「OK。……分かってるとは思うけど、逃げるのは無理。ついでに言うとこいつらを野放しにするのはやめた方がいいのは分かるよな?」

「だから戦えってか。ったく……荷物どうすんだよ」

「後で何とかする」


 荷物を素早く敷地外に放り投げて、バズーカを構える。

 穂も隣で戦闘態勢を取った。戦闘意思があるなら頼もしい事この上ない。


 味方は1人。

 敵は両手でも足りない。


「背中は任せたぜ、穂」

「ああ……任せろ」


 私が正面に放った火炎が建物にぶつかる。


 その音を合図に、抗争が始まった。

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