人間の魔物化
映画は意外と悪くなかった。ツッコミどころは多かったけど。作画は良かったし歌も良かった。人間関係も、幼馴染の為に必死になった主人公がクラスの奴らから距離置かれたのに友人になった奴とか、クラブで歌とダンスが上手くて疎まれてた奴が幼馴染の親友で、そいつを庇って友達になったりとか、最後に植物状態だった幼馴染が奇跡的に目覚めてその後4人(主人公、幼馴染、友人、幼馴染の親友)でアイドルユニットを結成したとか、そんな感じのハッピーエンドだ。まあ名前は覚えてないけど。
映画終わり、みのりは少し泣いてた。なんで?涙脆いな。
ハンカチで顔を抑えながら、涙声で「幸せになって…!!」って言ってた。怖いわ。
「どうだった?いい話だったね」
「まあ……期待してなかったから期待以上だったわ」
「だよね!」
お前も期待してなかったんか。でも悪くなかったのは事実やし、少なくとも他のラインナップの中ではマシだったと思う。
明るくなってから席を立つ。空のポップコーンと紙カップを持って廊下のゴミ箱に投げ入れた。
「次どこ行きたい?時間的には昼だけどー…さっきポップコーン食べたからお腹すいてないよね」
「せやな、後は何があるん?」
映画館を出て次の場所を決める為に話し合い。
「あとはカラオケとかー……カフェはちょっと厳しいか。ブティックとか、本屋さんとか……」
と、みのりが場所を羅列する声に被せるように、背後で何かが破裂するような音がした。
「なんだ?」
「ちょっと行ってみよーぜみのり」
「え、でも」
「平気平気私がいるんやし」
強引にみのりの手を引いて音のした方へ向かう。一応バズーカも構えて先に進むと、そこには何かが破裂した黒い液体と、青髪の奴、それと白髪の奴。どっちも髪が長いから多分女だ。
「あ、美麗さんと天萊さんだ」
みのりが声をかけると、それに気付いた2人が振り返る。
1人は紺碧色の髪に臙脂色の瞳に薄緑色のワンピース。もう1人は白髪に柘榴色の目に、ノースリーブのワンピース……に、黒色の腕カバー。
「みのり?どうしたの?っていうか隣の子は?」
「ご友人……でしょうか?」
2人に視線を投げられる。ここで隠してもどーせみのりが言うだろーし、素直に私は話す事にした。
「私は影星、つい昨日この世界に転移してきた人間のダンサーだ」
「影星?」
「君が?そうなんだ」
「え、知ってるの?知り合いだったの……?」
2人の反応、私の事めちゃくちゃ知ってる時にしかしねーだろ。羅刹にも「特徴が出回ってる」って言われたし。指名手配犯か何かかよ私。
そしてそんな2人を見て1人だけ蚊帳の外のみのり。お前はなんも悪くない、安心しろ。
「私は美麗、不死鳥大魔王の1人だよ。君の事は毒舌暴言無自覚トリハピサイコパス屑悪魔から聞いてるよ!」
「誰だよ」
「私は天萊と申します。同じく不死鳥大魔王で、美麗と同じくあれとあれの連れから聞いております」
「だから誰だよ」
青の方が美麗、白い方が天萊って言うらしい。
ところでそのめちゃめちゃ言われてるのは誰なん?
「そのお前らが嫌いな?奴って……」
「ごめんね、名前はちょっと出したくなくて……」
「あ、OK…」
申し訳なさそうに断られた。流石にこれ以上聞くのは空気読めないにも程があるから大人しく引き下がった。
それを聞いてたみのりが、こっそりと耳元で言う。
「屑悪魔呼ばわりされてるのが雨飾さん、連れって言われてるのは夜鴉さんだよ」
「え、あいつら?」
思い出すのは、この世界に来て一番最初にバチったあいつら。なん……なんで?シンプルになんで?別にそんな感じはしなかったわ、雨飾の方はちょっとキマってたけど。
「それより、お2人は何故ここに?」
「あ、えーっと……遊びに来たんだけど、音がしたから何かなって……」
強引に話の流れを捻じ曲げられて、天萊に聞かれる。それにみのりは受け答えしながら、私にちょこちょこ目線で訴えかけてくる。
「戻りたい!」って。
そんなものに天萊は気付かず、人当たりのいい笑顔を浮かべて私らに迫ってきた。
「でしたら、私達は今からこの先に行くのですが、ご同行お願い出来ますか?大丈夫です、すぐそこですので!」
「あっ!?ええと私達今ちょっと」
「いいんじゃんおもろそうやし行く行く」
「まあ!ありがとうございます!」
「なんで!?ねえなんで!?」
すげなく断りそうなみのりと天萊の話に強引に割って入った。隣でみのりがキャンキャン泣いてるけど気にしない。だって行きたいし。それに自力帰還の方法もワンチャン見つかるかもやしな。
事件解決の為には命賭けるのもやむなし、って事。
「影星の噂はよく聞いてるよ、期待してるからね!」
「私達が戦いますので、お2人は探索をメインに動いていただければ」
「OK、じゃ行こーぜ」
「うぁぁぁぁ…………」
今にも逃げ出しそうなみのりの腕を掴んで2人に着いてく。途中で抵抗を諦めたのか自分の足で歩き始めた。
─────
先を歩く2人に着いてくと、研究施設ってよりバカデカシェルターみたいな建物の前に着いた。
「入口ってどこかにありそうかな」
「無さそうなのでこのまま壊してしまいましょうか」
「らじゃ!」
美麗がすっと建物に近付く。
そして軽くトン、と触れた。
壁に人1人が通れる大きさの穴が出来た。
「……怪力かよ」
思わず呟く。破壊時の音で幸いにも誰にも聞かれてなかった。
「よし、行こ!」
「そうですね、何をしているのか調べなくては」
意気揚々と建物内に入る大魔王2人。もう私らいらねーだろ絶対……こいつらだけで何とかなりそうやし。
でもここで帰るのはおもろくねーよな。
「行こうぜみのり」
「やっぱ行くのね……」
少し遠くなった美麗達を追いかけて小走りで中に入る。
中は結構暗い。ちょこちょこ電気着いてる程度で視界不良だ。
ふと、天萊が足を止めた。
遅れて美麗も立ち止まる。
「……来ますね」
「一応2人は下がってて」
私とみのりを背後に庇いながら、じっと正面を見据える。2人の間から私も前を見つめた。
奥の闇から飛来した人+虫みたいな奴が2人。
──が、姿を見せた瞬間壁に叩きつけられた。
「やっぱりここで間違いなさそうだね」
何食わぬ顔で戻ってくる2人。
「一応確認なんやけど……あの一瞬で、あいつらに攻撃しに行ったんか?」
「そうだよ」
全然見えなかったわ、速すぎだろこいつら。さっきの壁破壊といい追えない速さの攻撃といい……
あいつらが手加減してたのも納得だ。あんな事されてたら今頃私死んでたな。まだまだ私は雑魚って訳か、おもしれーなこの世界。
「さて、奥に進みたいのですが1つ宜しいでしょうか?」
天萊が右手の小指を動かしながら私達に(主に美麗に)訊く。何やってるん?って気持ちとなんかあったんかな、の気持ち。とりあえず美麗との会話を黙って聞いとくことにする。
「何かあった?」
「部屋が1つしかないようなのですが、あれがいるようです。先に全て始末しておきましょうか?」
「任せるよ」
「では少しお待ちを」
何かを操るように指を動かし続ける。
その間に、私は気になる事を美麗に聞いてみることにした。
「なあ、あいつ何してるん?」
「あれはね、亡霊を操ってるんだよ。天萊はそういう事が得意なの」
「へー」
亡霊、亡霊ねえ……亡霊ってあの霊か。変わった能力持ってる奴もいるもんやな。霊を使役するなんてネクロマンサーじゃねーか。
「ところでこの調査ってお前の独断か?」
「まあ、そうとも言うかな。紅葉達は別件で忙しいみたいだから、私達でちゃっちゃと片付けようって思って」
「そんなちゃっちゃで片付くんか?」
大丈夫大丈夫、と笑顔を浮かべた美麗の後ろに音もなく天萊が戻ってくる。美麗は全く気付いてない。
「何とかなるよ、私達強いし」
「そうですね」
「ぎゃばぶでばばば!?」
「なんですか化け物でも見たような声を出して」
「驚かせるのが悪いんじゃん!?」
後ろから声をかけられて飛び上がった美麗は天井に頭を思いっきりぶつけた。重い音が廊下に反響する。だいぶダメージ入ったな今の。
頭を抑えながら美麗は一足先に進み始めた。後ろから不意打ちされたのが怖かったらしい。でもそれ、また後ろから脅かされんじゃねーか?まあ言わないけど。
「この部屋ですね」
空いた扉……というか強引に焼き切った跡がある。多分天萊がやった。
中にはさっきの奴の死骸がゴロゴロ転がってる。結構広い部屋やけど、ここで研究でもしてたんか?
「何かある?」
美麗に聞かれて、私は死体を蹴り飛ばしながら地面や壁、棚を探る。
みのりも出来るだけ死体を見ないようにしながら部屋の中を探ってるっぽい。
「ん……」
適当に死体を蹴り飛ばした所、引き出し付きの棚を見つけた。
引いてみると簡単に開く。中からは紙が1枚出てきた。
……読めない。
これがこの世界の言語か?図書室の時は読めたのにな……
「美麗、なんか紙あったけど読めねーから書き起こしてくれ」
「うん、いいよー」
紙を渡すと、美麗はその紙を元に別の紙とペンを取り出し、私達の知る言葉に書き直してくれる。
……然し、表情は少しずつ曇っていく。横から覗き見している天萊も段々と険しくなっていく。
「……書けたよ」
浮かない顔のまま紙を渡される。それをみのりと一緒に覗き込んで──
「っ……」
絶句した。
『人間の魔物化によって齎される利益』




