前世の夢
暫く歩いた先に着いたのは、めちゃくちゃ都会な街だった。高層ビルが乱立して、看板がぶら下がってる。学園があったのは中世ヨーロッパだったのに……異世界ってわかんないもんやな。
「影星、何したい?前世……の曲が入ってるカラオケとか映画館とか、カフェもあるし……」
アスファルトの道の端に退いて私に聞く。
とはいえ私が遊ぶ時はほぼ黒乃の家でゲームだからどっかに誰かと出かけるのは稀なんよな。まるでどこに行けばいいか見当つかねーんよ、こういう時。
んーならみのりにおまかせでいいか。
「お前の行きたいとこに連れてってくれ」
「え」
素直にそう言えば、みのりはその場でピシッと停止した。それからあわあわと両手を顔の前で振る。何そんなに焦ってるん?どーした?
「い、いいの?ほんとにいいの?」
「いいぜ、何確認してるん?」
「だって、だってこれって……!!」
みのりはぎゅっと私に抱き着く。若干受け止め損ねて蹌踉めいた。
……なんか、ちょっとこいつ熱くね?さっきの川で風邪引いたんか?にしては早すぎるよな……
耳元でみのりがなんかボソボソ言ってる。何事??ちょっと怖いからやめて欲しいんやけど。
「……ごめんね、急に。映画館、行ってもいいかな?」
「いいぜ、でも聞き取れない事言うのやめてくれね?ちょい怖かったわ」
「え、あー、嘘、ごめん!つい本音が……」
私から離れると、みのりは服の袖で目元を擦った。どこに泣く要素あったんだ今の。こいつの情緒わかんなさすぎて不安だわ……
みのりについて行くこと20分位か?
結構デカくて長方形の箱に『THEATER』って看板がぶら下がってる。異世界なのに元の世界の言葉が……いや、これもしかして。
「この世界にこういう言葉入れたのもしかしてお前か?」
そう聞くと、みのりは少し驚いた様な表情を浮かべてから頷いた。
「うん、そうだよ。私以外にも、他の転移者に手伝ってもらったりしてやったんだ。……もっと、沢山人来るのかなって思ってたから」
でもゲートが閉じられたってことか。もう人来ないと思ってたのに最後に来たのが私?
でもそれなら会った時にヘヴィーに連れてかれるはずじゃ……
「そいつらとは友達じゃなかったんか?」
「えっ、うん、なんで?」
「私が聞きてーんよそれは」
訊いたら訊き返された。質問に質問で返すな。
非難の意を込めた視線を送れば、みのりは少し唸ってから曖昧な笑みを浮かべる。
予想するなら、あいつらと戦わなかったってとこか。試験受けずにバックれたみたいなもんやし、そういう奴を紅葉が処分してても不思議じゃない。つーか多分ヘヴィーがあそこにいたのもたまたまやろし、そんな深い意味ない可能性の方が高い。
まあ、簡単に纏めるなら死んだ、ってとこか。
「そんな事は置いといてさ、早く見に行こ?」
「せやな」
みのりに急かされるように映画館内に入る。
そんなに人はいない。映画自体は前からあったんやろか?ゲート開いてたら色んな世界の文化とか文明が入ってくるんやろか……
それにしても、めちゃくちゃ映画館っぽいな。
だだっ広いロビーにポップコーンとジュース売り場……エスカレーターもあるし背が足りないやつが座る椅子?もあるし結構本格的なんじゃねーか?
「映画館行ったことねーけどホラゲーで見た映画館と同じやな」
「何で映画館感じてるの?」
「人と出かけたことねーからさ」
「だからってホラゲーで知る事あるかな???」
みのりは解せぬ顔。前世で友達がいたお前なら映画館行ったことあるんやろな。私なんていつも友達と遊ぶ時は黒乃の家でゲームしかねーよ。それが友達と遊ぶ最高のゲームだと思ってるからではあるけどな。
「まあ……いっか。何見たい?」
近くに貼り出されていた上映中ポスターを眺める。世界外生命体に世界侵略される映画とか、タイムスリップする映画とか、顔のあるクッキーが主人公のお菓子の街を歩くアニメ映画(?)とか、普通の恋愛映画とか色々あった。正直どれが1番まともなのかよくわかんねーな。
「1番マシなのどれだと思う?」
「うーん……あっ、じゃあこの映画とかどうかな」
みのりが指差したポスターはアイドルもののアニメ映画。
ポスターの下に刺さってるパンフレットを読んでみると、大体の概要は掴めた。
学園に転校してきた主人公は、圧倒的な美貌からアイドルクラブに勧誘される。最初はその勧誘を断り続けていた主人公だったが、ある拍子にアイドルクラブに自分の幼馴染が所属している事を知る。学園で幼馴染に会えた事が嬉しく、主人公はアイドルクラブに入る事を決めたが、幼馴染はレッスン中に倒れてしまい、活動中止に。幼馴染の夢がアイドルだと知った主人公は、幼馴染の代わりにトップアイドルを目指す──
いやなんだこの映画。マシかこれ?てかおもろいんか?
学園からいきなりトップアイドルとか広げすぎやろ。学園の中に収めろ。やべー突っ込み所多そー……
「どう思う?いいと思う?」
「いや、まあ、うん……いんじゃね」
意見聞いといて切り捨てんのは申し訳ない。ただでさえ全部みのりに任せっきりなんやし提案は素直に受け入れるべきやな。おもろくなかったらそんときはそんとき。
「じゃあこれにしよっか。ポップコーンは何味がいい?」
「え、あー、キャラメル?」
「はーい。じゃあ私は塩にしようかな…と」
みのりは映画館のチケット売り場まで行く。私もその後を追いかけて、取り返した鍵をすっと取り出した。
違う、取り出そうとした。
「今日は私が払うから!」
両手で抑えられてニコッと笑いかけられる。
「でも奢ってもらうのは……」
「いいからいいから!」
押し切られて渋々鍵から手を離す。ポケットを少し揺らした鍵は……使う事、あるんやろか?
「すみません、この映画のチケットを2枚、隣の席で!」
「畏まりました。こちらのチケットを2枚ですね」
みのりと店員のやり取りをぼんやり聞き流す。
友達とはいえ、そんな簡単に奢ったりするもんか?私だったらそんな事しねーけど。良いんやろか、みのりはそれで。
集るのはOK、けどそれは常識の範囲内で、そして親密だから。
奢られるのはあんま好きじゃない。相手との距離を感じるから。
「おまたせ、ポップコーンとジュース買おっか!何飲みたい?」
ポップコーンとジュース売り場に移動しながらみのりは訊く。置いてかれないように隣を歩きながら、さっきのことについて考える。
みのりは、私にかっこつけたいんやろか。そんな事しなくていいのに。友達だから、そんなことする必要無いと思うのに。
……よく分かんねーな。
「影星?どうしたの?」
下から顔を覗き込まれる。
意識を引き戻して、何事もない表情を作った。
今こんなこと考えんのはやめだ。折角金も払ってもらってるんやし楽しまねーと。
「なんでもねーぜ、何飲みたいかよな?ちょっと待て」
上のメニュー表を見上げる。
ポップコーンの味は塩、キャラメル、ミックス。ジュースは色々ある、みたいやな。
この表が読めるのも、翻訳してくれた奴らの……みのりのおかげか。
「んじゃ私は烏龍茶」
「分かった。あのー……」
「はい。ご注文はお決まりですか?」
「あっ、えっとポップコーンのキャラメルと烏龍茶とー…ポップコーンの塩と、うーん……コーラをお願いします」
「畏まりました。ポップコーンが塩とキャラメルの1点ずつ、ドリンクが烏龍茶とコーラでお間違いないでしょうか」
「はい、大丈夫です」
硬貨が重なる音。結構高い、んかな……金欠になってなきゃいいけど。
みのりの財布から鳴る音は間違っても金持ってるとは言い難い。無理してるんやとしたら本当に辞めて欲しい。
自分の命1つ大切に扱わねー私に、金かけないで欲しい。
勿体ないやろ。だって。
「よいしょ…影星ー、これ持ってくれる?」
「ん、了解」
渡されたキャラメルポップコーンと烏龍茶を両手に抱えて、シアターへ向かう。チケットによるとシアター3。エスカレーターで1個昇った先。
エスカレーターに乗り込む。階段状の移動機関が静かな音を立てて連れて行った1つ上の階は、疎らに人がいる。3、4、5がある階やから、まあ4か5が人気なんやろなと思いながらシアター3に入る。
意外と人いた。そして中暗かった。
取った席は中段の右寄りの真ん中2つ、まあまあモニターが見やすい。みのりが通路側に座り、私が内側に座る。ドリンクを隣に置き、ポップコーンは足の上に置いて安定させる。1つ食べれば、しつこくない甘さのキャラメルと、少し固めの食感が美味しい。
隣ではみのりが塩味のポップコーンを黙々と食べてる。
その中に、キャラメルを何個か放り込んで、代わりに塩の方を無断で摘み上げた。
「……ぁわ」
みのりの小さな声。気にせず口に入れると、ちょうどいい塩加減と少し萎びた感触を伝える。
「ん、結構美味しいやん」
「ううううううんそうだね、キャラメルも美味しいね」
ぎこちない動作でキャラメルを口に運ぶみのり。
なんも言わなかったのは悪かったんやろか……?
「そんなに取られたくなかったんか?」
念の為にみのりに確認してみると、けほっと咳き込んだ。どうした、ポップコーンって確かに喉渇くよな、塩やし特に。
「いや、違うんだ」
なんとかドリンクで流し込むみのり。噎せた後にコーラ飲むのは喉もっと痛めそうやけど。大丈夫か。
「その……俺はさ、大人になる前に死んだから」
みのり、もとい穂はドリンクを隣のホルダーに置く。カップの中で氷がぶつかる音がして、中の液体が揺れたのが分かった。
「こういうこと、した事無くて。友達とかと出かける機会はあったけど、いつも割り勘とか、で。付き合ってた奴もいないし、友達相手にカッコつけられる程の度胸も無いし、金欠だったし。……だから、今世では、こうやって……カッコつけたこと、1回はしてみたくて」
けど、と穂は続ける。
スクリーンには映画館での禁止事項が流れてるけど、正味そんなんどうでもいい。
穂も流れてるのは分かってるのか、止めようとする。
でも私にとっては映画なんかより、目の前の友達の話の方が大事やから。
「続きは?」
「……お前相手だと、上手くカッコつけれないんだ。ずっと考えてた受け答えも上手く出来なくて、だから……」
「……」
嬉しくはある。けど、私相手にそこまでカッコつける必要あるんか?もっと大切な人……例えばヘヴィーとか、ヴァリネッタとかの方がいいんじゃねーか?ただの友達の私より、仲間の方が。
それに寂しい。ずっと考えてた、って。予定通りにしか動かないみたいで。
「よく聞け穂。私はお前を友達やと思ってる。映画館に来るような相手はお前が最初だ。私相手にカッコつけてくれるのはいいけど、それでお前が無理するのは嬉しくねーよ。それに会話は事前に考えるもんじゃないやろ。自信が無いのか知らねーけど、お前は人間だ。自分で感じる事が出来てそれを言う事が出来る。やからお前は私と遊んでて感じたことだけ言えばいい」
スクリーンが一瞬暗くなり、直ぐに画面が明るくなる。オープニングと共に映像が流れ始める。
意外と綺麗な作画やな、なんて思ってたら、穂が私の手を掴む。
そして、
「……ありがとう」
小さく、しっかりと聞き取れる声で言われる。
でも礼なんて言われる理由ない。
だから
「それより映画見よーぜ、お前が選んだやつやろ?」
どういたしまして、なんて言う必要ない。
祝ほのぼの(?)回- ̗̀ ( ˶'ᵕ'˶) ̖́-
そして45,000文字ワァ───ヽ(*゜∀゜*)ノ───イ
…びっっみょーーーな文字数で草
宜しければ評価していただけると嬉しいです。




