迷子の森
みのりは、肩にかけたバッグやら服やらをチラチラ見ながら歩く。体が女だから服も女物らしい。
「なあ……じゃなくてねえ、影星、似合う?」
ロング丈のワンピースをヒラヒラさせながら聞いてくる。
なんで言い直した、って聞こうとしてそういや外やし人目が気になるんやろな、の結論。
だからそれは聞かずに、素直な感想だけ言うことにした。
「似合ってるぜ、代わり映えしない私と違って」
洗ってもらったとは言え服変わってねーしな。
それなのに、みのりは私の顔を見て、めちゃくちゃ首を振った。
「影星はそのままで十分可愛いから!」
「こんな戦闘狂のどこが?」
「服も似合ってるし顔も可愛いし!腕も足も細いしスタイルいいし!ぁー……うん、とにかく可愛いよ!」
私は思った事を言っただけなのに、高速で否定するみのり。最後の方はもごもご何か言ってた。聞き取れなかったけど。
でも、そっか。
今までは、あいつらを護らなきゃって意識が強くて強さしか気にしてなかった。
見た目も性別もマジでなんでもいいと思ってたわ。
けど言われて悪い気はしない。
「あ、そういやさ」
この話が一段落したとして、私は紅葉から鍵を貰った話を切り出した。みのりはまだなんか言いたそうにしてたけど。
「どうしたの?」
「この鍵なんやけど、紅葉に貰った──」
言いながら鍵を取り出したその時。
「って……!」
「大丈夫か!?」
誰かに思いっきりぶつかられて、そのまま走り去って行った。謝罪すらなしとかなんだあいつ。殺すぞ。
追いかけてまで謝罪の強要はしねーけど。
気を取り直して鍵を見せようとして、手元に何も無い事に気付く。
これはつまり……
「チッ……盗られた」
「え」
思わず舌打ちが零れる。正直沸点は高くない。けど低くもない。
売られた喧嘩は基本買う。それが格上でも格下でも不利でも。
それはそれとして、私には許せない事がある。
恩人や仲間を傷付ける奴と、恩人や仲間を貶す奴。
その中に私の事は必要ねーから含まない。
でも、これはキレるやろ。
貰ったもんやぞ?しかも私がこの先生きる為の道具。
私は、みのりが追いつける位の速さで疾走する。周りの景色が凄い変わるな……すげー速いけど制御出来ない訳じゃない。
そのせいか、相手との距離も少しずつしか縮まらない。私の方が圧倒的に速いはずじゃねーのか?あっという間に捕まえられると思ってたんやけどな……
道を3回くらい曲がって、直線して、また曲がる……みたいに走り回ってたら、いつの間にか森の中に来た。早速道が二手に分かれてる。見失ったし。
「みんな速ぁ……」
少し遅れてみのり。息は上がってない。仮にもヘヴィーのボディガードとして戦ってきただけの事はあるな。
「これどっちが正解やと思う?」
「うーん…《迷子の森》って危険だからなあ……」
どうやらここは迷子の森と言うらしい。名前的に失踪者何人も居そうやけど大丈夫なんかこの森。
それとも、ここに迷い込んだ奴から金品強奪してるとか?ありそー……あいつって単独犯?それとも仲間いる感じか?どっちなんやろ……一応敵の数は多く予想するに越したことはないけど、撤退は得じゃねーからなあ……
ならちょっと、事前情報兼ねて聞いてみるか。
「なあみのり、能力ある奴の方が珍しいんか?」
「うーんとね」
みのりは、何かを思い出すように視線を彷徨わせ、顎に手を当て、頭を抱える。
その一連の動作を5回程繰り返して、みのりは動きを止めた。
「統計的には持ってる人8割、無い人2割、とかだったはず」
「って事はあいつは能力を持ってる可能性の方が高いか……」
「まあ……そうなるね。能力を2つ以上持ってる人は5割、3つ以上の人は2割、固有能力は1割もいない、みたいな結果だったはず」
2つ以上かは五分、3つの可能性は……低い。固有能力の可能性はほぼ無い。って感じで考えとくか。
そもそも相手の能力一切分かってねーしな。それにまだあると決まったわけじゃねーし。
「所で、二手に別れる?どうする?」
ある程度覚悟を決めた所で、左右別れるか一緒に行くか選ぶ事になった。
私的にはどっちでもいい。つか一緒に行くとワンチャンみのり庇いながらの戦闘になりそうやから出来れば別れたい。
けど迷ったらめんどくせーよなあ……
とかちょっと失礼なことを考えてた時。
「あ、ねえ見て影星。あの地面、ちょっと擦れてる」
「ん?」
みのりの指す方を見ると、確かにもう1つの方と違って草が生えてねーし、ちょっと土の感じも違いそうに見える。使われてんな、って感じの道。
「じゃあ右か?」
「たー……ぶん、そう、かな?」
みのりも自信は無いっぽい。けどこれ以外手掛かりねーしこっち行くしかない。
「ま、とりあえず行こうぜ。多分何とかなる。何かあったら魔力砲ぶっぱなせばいいし、ここ森だからよく燃えるぜ?」
「完全に燃やす前提なんだね??」
「何かあったらだわ。そんな放火好きじゃねーし」
「あ、そう……?」
疑わしそうなみのりを引っ張って右の道に行く。
しばらく歩くと、今度は真っ直ぐ、左、右の3方向に道が伸びていた。
一番使われてそーなのは…左か?
「左行こうぜ」
「私もそれでいいと思う」
みのりもいいらしいから左の道へ。
景色あんま変わんねーな、とか思いながら歩いてたら急に視界が開けた。
アジトかと思ったけど違う。ここが広場で、その先に道はもう無い。
「どーするよ、みのり」
「どうするって言われてもな……」
やっぱ焼くか?焼くしかねーのか?ぶっ飛ばす方が早いもんな。
そう思ってバズーカを構える。
教えて貰った通りに魔力フル装填(それ以上入らなかったから多分そう)にした時。
「あ、待って、あれ転移魔法陣」
引き金に指をかける1歩手前でみのりが制止してくれた。
「んじゃあの奥にあるってことか?」
「……だね。でも私ここで待ってるよ」
「……何で?」
意地でも付いてくるのかと思った。みのりの方が半年とはいえ先にこの世界に来てたわけやし、私が知らない事も知ってるからとか、心配だからとか色んな言い訳来ると思ってたんやけどな。
「影星の邪魔したくないからさ」
「…………」
私が一人で戦う方が自由に動けて気楽だって分かっててか?ここまで一緒に来たのは、迷っても大丈夫な様に?
……なんかあると、思うけどな。
まあ自分から引いてくれるなら都合いいか。
自分一人の方が立ち回りやすいし。
「あ、私ここで待ってるから!頑張って!」
私に手を振って、近くの切り株に腰掛けるみのり。
そこからは梃子でも動かなさそーに某彫刻の考える人みたいなポーズになった。
まあ、それならそれで安心か。
「んじゃ、行ってくるわ」
右手にライフル、左手にバズーカ、足には新しいブーツ、そして能力。
装備は申し分ない。
転移魔法陣に乗る。
図書館の時と同じ浮遊感。
数秒後、目の前にあったのは、石造りの三階建ての建物だった。
─────
みのりは、影星がいなくなったことを確認して、思い切り溜め息を吐いた。
彫刻と類似したポーズをとっていたわけではない。
彼女、或いは彼は、本当に考えていた。
自身が、魔力を少しも持っていない事。
そして、特殊な力を持っている事を、
影星に、話すかどうかを。




