21.(過去1)
今から数年前。
「よろしくね、あなたがリッドね。私はテセラよ」
「おお!よろしくな、お嬢ちゃん。」
私は今日新たに加入したリッドに、にっこりと微笑む。
アヤトを慕い愛し、何百人といる上にアヤト以外全員女性であるこのパーティで、まさかアヤトに命を助けられたから仲間になりたいと言い出す男がいるとは思わなかった。
その上、そこそこ戦えて家事もできると言う。
とある小さな村で農家をしていたが、その村が突如としてモンスターに襲われ、そこを私を含めたアヤト達勇者の一団に救われた。そこで勇者アヤトの戦いぶりに心を奪われたらしい。
ただでさえニートばかりで戦闘要員どころか、ろくに働きもしない女ばかりのこのパーティ、なんとしてでも働き手をニガスワケニハイカナイ…。
ナントシテデモツナギトメナケレバ……。
私は人の良い笑みを浮かべて、上辺だけは優しく迎え入れた。
ちなみにまだこの頃、ユリはパーティに未加入である。
そして現在、私たちは深い森を歩いていた。
「怖いわ、アヤト様」
森奥深くにいるボスモンスターを倒すという、また報酬面でもかなり破格の報酬のクエストだったとはいえ、
ネロ達含めてアヤトの隣にはなんと12人もの少女が居た!!
少なくとも私とリッドとアヤトを入れて、15人で受けるようなクエストでは無い。
その上、ネロを除く11人の女の子は非戦闘員と来た。なんだそりゃ???
クエストに着いてきた意味あった???
「さっきモンスターを倒したアヤト様の剣さばき、素晴らしゅうございましたわ」
「あら、もちろん私も見ておりました」
「本当にアヤトは格好良いよね……」
「た、確かに今のは悪くなかった……って!べ、別に惚れ惚れしたとかじゃないんだから!」
「そろそろ暗くなってきた。怖いわアヤト……何かあったら私を守ってね」
「キャー!何かそこにいた!ちょっと離れないでよアヤト!!」
「私戦えないから、アヤトしか頼れる人がいないの!アヤト、絶対にどこにも行かないで!!」
「ちょっと、それを言うなら私もなんだけど!」
しかもネロ含めた12人の彼女たちは、皆が悲鳴を上げてアヤトに張り付く。あと今は思いっきり昼なんですが。この世の終わりのような光景だ。
戦えもしないのに来るんじゃねえ!と言いたいが、アヤトが「俺が守るから来たい子は皆来て良いよ!」と言ったのが原因だ。つまりアヤトのせいだ。
アヤトは溜息をつきながら、暮れなずむ空を見上げた。
「もう夜も遅いし、野宿するしかないのか?……ここら一体はモンスターも強いし、野宿は危険なんだけどな」
お前さっきも指パッチンでボスモンスターを塵にしていたのに?何が危険なんだ?と思ったけれど、私はアヤトに何も言わないで置いた。
「近くに村か建物があったら良いんだけどな…どこか泊まれるところは無いのか…お、向こうにあかりが見えるぞ」
不意にアヤトは前方を指さす。じっと見つめるが、何も分からない……。
魔法で調べたら1キロ先に確かに豪邸が立っている。
(こんな森深くにあんなに大きな豪邸……?この辺りは一般人の立場からだと確かにモンスターもかなり強くて、ろくな鉱石も魚介も取れないから、住むにしてはあまりにも最悪の立地過ぎるのに)
私は顎に手を当てた。
(あそこまで大きな家が建てられるってことは、当然収入があるわけよね。よっぽど物好きな都市出身の金持ちがこんなところに、家を建てたってこと……?)
こんな住むには不適切過ぎる田舎に豪邸を立てるということは、不都合な何かを隠したいということ。
それにしてもこんなところに豪邸を建てる時点で、自己欲が滲み出ているが。大体の予想は着く。おそらく私のように…ではなく悪いこと、つまり麻薬を作っているか、ろくでもない事業に手を染めているのだろう。
……なぜここまで私が推理出来たのかというと、私ももしも資金があったらこういった人の寄り付かない山奥に豪邸を立て、そこで薬栽培を……なんでもない。
アヤトと14人は、光に向かって突き進む。
それにしても1パーティが15人はあまりにも多すぎるな…その上12人はお飾りだしと思いつつ、屋敷へとたどり着いた。
「うお、それにしても大きな屋敷だな……」
確かにアヤトの言う通り、建物は非常に大きく豪奢な作りをしていた。背丈の2倍近くある扉にも、金メッキらしきもので緻密に細工までしてある。また扉や窓の中からはあたたかい光が溢れていた。
アヤトは数回扉をノックした。
「すみませーん」
程なくして扉が開き、この屋敷に雇われている執事らしき男性が顔を出す。
「……」
「えっと、すみません……聞きたいことがあるんですけど」
男性は、アヤトにぶっきらぼうに答えた。
「申し訳ございませんが、お引き取りください」
「えええ……そんな、教えて頂くことは……」
「おやおや、どちら様ですかな」
しかしそこで、扉の奥から大きな声が聞こえてくる。
開いた扉から伺うと、恰幅の良い男が階段から降りてくるところだった。ちょび髭を生やしており、首や腕にはジャラジャラと貴金属が大量に巻きついている。羨ましい!!
「これはこれは、他所からの方ですかな?」
男は豊かな腹を揺らしてアヤトらを見やる。
「ご主人様!」
胡散臭い笑みを浮かべた男は、しかしアヤトにまとわりつく少女たちの姿を見ると顔色を変えた。
「ほう、ほう、ほう……これはこれは!冒険者一行ですかな」
「あ、そうですそうです!すみませんがこの近くに村はありませんか」
「村ですか?少し遠いですが……」
「なるほど。ありがとうございます」
アヤトは礼を言い、少女たちの方を振り返る。
「……皆、もう少し歩いたら村があるってさ!そこに宿が……」
しかしアヤトが最後まで言葉を言い終える前に、貴族の男は声を張り上げた。
「もしや、お困りでしょうか?宿にお困りならば、私の屋敷にご滞在いただくのはどうでしょう」
「えっ、それは悪いですし……」
「いえいえ!この辺りに来る人間は珍しいものでして。是非ともご客人として迎え入れさせてもらえませんか。大歓迎ですよ!」
男は食い気味にアヤトに迫る。私は直ぐに、この貴族の男が極悪人であることを見抜いた。別にこの男と私が同類だからすぐにわかったという訳では無い。断じて無いよ〜。
(ぜっったいこの後、貴族の男に捕まるパターンだこれ…この貴族の男、おそらく人身売買とかに手を出しているやつね。それで容貌だけは綺麗なこいつらに目をつけたってわけね)
その上近くに村があると言っていたし、その村を牛耳っているパターンね。
今よりずっと儲かるとか甘い事言って都市部の村民を、強いモンスターの巣窟であるこの森に移住させ、自力では己を守れずさらには逃げ出せなくなったところで、その身の安全を保証する代わりに村人たちを実質的に奴隷化したのだろう。
なんでこの一瞬でわかるって?私も考えたことa
…勘ですよ、勘。
(まあこの屋敷に泊まらずとも、証拠を押えて潰すことは出来るはずよね……まあ厄介なことになるからしないけど…)
少なくともこの穀潰しのパーティメンバー共を売りさばくならまだしも、無実の無辜の民を売って大金を得るなんて小賢しい。私も先にすれば良かった…。
さてどうしようか…
私はアヤトの方を振り返る。