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12.(コロシアム1)

 むせかえるような熱気と狂気に溢れながら、天を割るほどの歓声が、青一点の空へと反響する。

 世界第四都市群にも指定される、アドリア王国。

 そこでは毎年、血と狂気の錯綜するコロシアムが開かれていた。

 出場者たちは皆、名誉と賞金を手にするため、熱い戦いを繰り広げ、滾る戦火に身を投じる。

 そして、そのコロシアムの頂点に立つのが、アドリア王国第三皇女である天才魔法剣士、アルフ・クロレア・アドリアーナ。

 コロシアムの優勝者は毎回彼女と戦う権限を授けられるという、エキシビジョンマッチを行うのだが、未だ彼女に勝てたものは1人も存在しない。

 いっそ反則と謳われるほどの、突出した魔法の才能に加え、限界まで練磨された剣術。それら含めて、彼女は王国最強として頂きに君臨していた。

 王は言った。

 もし大会で優勝したならば、一代はおろか二代ですら余りある財を授けると。

 王は言った。

 もし彼女に勝てたなら、国の最高騎士証を叙勲すると。

 王は言った。

 そこに、身分や器量など存在しないと。

 ただ、力さえあれば良いのだと。

 それは力ばかりが有りあまり、今まで影に生きていくしかなかった人々への、一筋の光でもあった。例えば、勇者のように。

 ーーーー第十三回アドリア王国コロシアムが、今、緩やかに幕を開けた。


 受付を終えた勇者兼大罪人のアヤトは、様々な種族がひしめく待合室で支度を済ませていた。

 しかし、身長が天井スレスレまである、男や巨人族で溢れかえる中、アヤトの小ささと貧相な身なりはあまりにも目立っていた。一応人間族の中では鍛えられた体つきと180cm程の身長なのだが、やはり巨人族らと比べるとあまりに見劣りする。

 周りの尖るような視線を気にも留めず、アヤトは用意された武器の中から、ふんふんと鼻歌を歌いつつ、ただのしょぼい棍棒を手に取った。特に意味はない。

 どうせ最後はどんな武器も、自身の力に耐えきれず灰となるのだから、全て同じようなものだ。勇者の剣か魔剣以上のものしか、アヤトの力には耐えられない。この場の全ての武器が、アヤトの拳よりもずっと弱い。

 また大会のルールとして魔法は一切魔具に頼らず、自身の出力のみに頼るなら使用しても良いとのお達しに、化け物レベルの魔力量を持つアヤトは、少しばかり物足りなさを感じた。


「魔力を使えるとなると、これは案外楽しめなさそうだな…どうせなら肉弾戦!拳のみ!魔法禁止!とかの方が面白いのにな〜」

「おい、お前!」

「ん?」


 不意に轟いた怒声に、アヤトはふっと顔をあげた。

 アヤトの数倍も胴回りが広い、頑健で筋骨隆々の巨漢が近づいてきた。


「ここはお子様が来るような場所じゃないぞ、舐めてんのかぁ!?」


 近距離からフロアの端まで届くほどの怒声を張り上げられて、アヤトはぱちくりと眼を瞬かせる。

「あ、なんだ。俺か」

 だが周囲に視線を巡らせ、その怒号が自分にかけられたものだと察すると、笑いながら頬をかいた。


「いえ、自分も出場するために参加した闘士ですよ」

「これはままごとじゃねえぞ、喧嘩売ってるのかあ!?」


 見るからに強者とわかる男に絡まれたアヤトに、嘲笑と冷めた視線が場を満たす。


「いえいえ、決してお遊びなんかじゃありませんし、まあ仲良くやりましょうよ。ここで争っても何の利益も生みませんし。俺が、貴方のいう通りお子様程度の実力者だったなら、どっちにしろふるいにかけられて落とされますし」


 困惑を隠すように苦笑いを浮かべ、頭を左手で乱しながら男を諭すアヤト。だが誰の目から見ても、それは戯けた道化の仕草に映った。悠々と手を振るアヤトに、ビキリ、と男は額に青筋を浮かべる。


「なんだとこのガキィ!!馬鹿にしやがって、どっちが上かってことを思い知らせてやる!!」

「ええっ…?ったく…ここの人って皆こんなのなのかな。やれやれ……」


 長い溜息。そこに焦燥や闘志の色は無い。

 ただ、その瞳には、絶対的な強者が保持し得る静のみが、海のごとく静かに讃えられていた。

 アヤトは顔色一つ変えず、突進してくる男に向かって腕を一閃させた。

 衝撃。腕を振るう、その動作だけで、人々は立つ地を見失うほどの激震に見舞われる。

 いつの間に視界から消滅した男と共に走った地響きに、床に膝をついた男達は、凝然と瞠目した。

 パラパラと上から降ってくる白い破片。

 恐る恐る上方を見上げれば、先ほどアヤトに喧嘩を売った大男が天井に突き刺さっていた。

 男にとうに意識は無く、宙に浮いた両足が痙攣している。


「な…」


 自身の数回りも大きい男をやすやすと投げ上げた、その想像を絶する膂力と形容し難い現実に、誰もが目を見張る。

 会場がざわり、と質の違うざわめきへと変化した。

 アヤトに対する憐れみと侮蔑を帯びた喧騒から、驚きと動揺を伴うさざめきへと。

 そして渦中の本人は、のほほんと腕を回しながら、


「ん?また俺なんかやっちゃいました?」


 なぜ見られているのかわからないといった風に、きょとんと首を傾げた。


 ーーー誰もが、唖然の表情を浮かべた。


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