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【完結】犬死にした俺は、過去に戻ってやり直す  作者: Pのりお
第一章 小学生編 -夏-
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第九話 ラジオ体操

 目覚ましの音なしで、自然と目が覚める。子供のころはよく寝られたはずだが、大人の人格が入っているせいか長く寝られない。そもそも考えることが多すぎて、素直に夢の世界に浸ることができないせいかもしれない。


 五時五十五分。ラジオ体操は六時半だからちょうどいい時間だ。さっさと起きて、パジャマから着替えることにする。両親はまだ寝静まっているから、物音を立てないようにして準備をする。


 前日の段階で、リュックサックのなかに荷物を入れていた。護身用兼撃退用の武器。子供が入手できるものは限られている。学校で使用している彫刻刀と家のなかで見つけた塗料スプレーを用意しているが、これで足りているのか不安で仕方ない。


 すぐに中から取り出せるように裸の状態で入れている。部屋のなかで、何度か取り出す練習を行ったものの、咄嗟の状況でそれを再現できるかは神のみぞ知る。かといって、大荷物を抱えてしまうと機動性が弱まってしまう。これが限界だと判断した。


 リュックを背負い、ラジオ体操カードを首にぶら下げた俺は、足音を殺して家の外に出た。


 ラジオ体操に行くこと自体は咎められるようなことではないけれど、リュックを持つのは不自然である。また、俺のために尽くしてくれている両親を起こしたくはなかった。


 六時十分に、歌島の家の前で待つ。さすがに数十分以上前に起きてくることはないだろう。


「あら、明人くん」


 しばらくして、歌島が玄関から出てきた。両親に見送られているところだったようで、歌島の母親が俺に声をかけてきた。


「この子を待ってくれたの?」

「はい。一緒に行くって約束していたので。起きられたみたいでよかったです」

「無理やり起こしたのよ。まったく、同じ年でも全然違うわね」

「う~。子供扱いしないで」

「あんたはまだ子供でしょ。明人くん。この子、よろしくね」

「一緒に行くだけです。終わったらすぐに戻りますね」


 正直なところ、歌島を長時間外に連れ出したくない。多少ぐずったとしても、さっさと家に連れ帰ろうと思っていた。


 ラジオ体操を実施する公園では、この地域のPTAを取り仕切っている半川さんがいた。鍛えているらしく、ガタイがいい。大きなラジカセを鉄棒の前に置いている。


「スタンプはまだだからね! 終わってから!」


 すでに来ている子供たちにそう声をかけている。それから続々と近くの子供たちが集まってきて、公園のなかは数十人規模の人だかりになっていた。なかには大人もいる。健康のために自主的に参加しているようだ。


 ラジオ体操が始まった。歌島と俺は横に並んで体を動かす。ラジオ体操なんて、子供のときにやったとき以来だから、ほとんど覚えていない。他の人たちの動きを参考にしながら、なんとか最後まで終えることができた。


 スタンプを押してもらう行列に並び、一つ目の欄が埋まったのを確認したところで、歌島に言った。


「帰ろうか。ずいぶんと眠そうだし」

「うん……」


 歌島は目をこすっている。髪の毛も乱れているから、本当にぎりぎりまで寝ていたのだろう。俺は、歌島と歩きながら周囲に目を配していた。


 怪しい人間はいないだろうか……。


 ラジオ体操に、思ったよりも人が集まっている。それがわかった。どこかに犯人となる人物がいるのかもしれない。


 どうして、俺はもっとちゃんとこの事件のことを覚えていないのか。いくら他人のことを気にする余裕がなかったからって、こんな大事なことならもっと知っておくべきだった。


 歌島に対して、怪しい視線を向けている人はいないか? あるいは、他の子どもに対してでもいい。ストレスを感じていて、突発的に犯行をするような人物はいないか?


 かすかな記憶は、比較的若い男だったと告げている。ただ、そこまでしかわからない。


 ラジオ体操終了後は、みながさっさと公園を出ていく。特別こちらに注意を向けているような人物も、おかしな動きをしている人物も見当たらない。近くに低層マンションがあるのだけど、ほとんどの窓にカーテンが閉ざされているから、中をうかがうことができない。


「山村くん?」

「なんでもない、行こう」


 俺は、歌島を連れてさっさと家に戻った。


 特に何事もなく、一日目のラジオ体操が終了した。本当であれば、ラジオ体操に来させないほうがいいのだけど、そこまで他人の行動を左右することはできない。というか、歌島が北海道に行く関係上、早い段階からラジオ体操に参加しないとカードが埋まらないのだ。


「ラジオ体操行ってたの?」


 家に戻ったとき、起きてきた義母にそう言われた。俺は「うん」とうなずいた。

 背中に追われたリュックを見て、不思議そうにしていたが触れてはこなかった。まだ、気を使われているのかもしれない。とはいえ説明もできないので、それに甘えることにした。


「ふぅ……」


 ベッドに腰かけて、俺は息をついた。リュックについてはもう少し言い訳を用意しておいたほうがいいだろうな。中を見られたら終わりだ。


 リュックから彫刻刀と塗料スプレーを出して、部屋の隅に隠す。俺がいないときにこっそりリュックのなかをのぞかれたとき、言い訳ができなくなる。この時代に携帯電話が流通していて、俺や歌島が持っていれば楽に歌島の動向を確認できるのだろうけど、残念ながらまだそういう時代ではない。


 技術的な進歩までも一気に逆戻りしたことが非常に不便だ。この時代は、固定電話での交流がメインだろう。


 俺は、窓際の椅子に腰かけて外を見た。


 窓からは、ギリギリの角度で隣の歌島家の玄関前をうかがうことができる。少しわいてきた眠気をおさえながら、誰も外に出てきていないことを確認した。それだけでなく、周囲に変な人物がいないこともチェックする。


「……これをずっとやるのはしんどい」


 食事や風呂のときなど、すべての時間を見張れるわけじゃない。とはいえ、今できる限りのことをしないと後悔する気がしていた。いくら口で言い含めたところで、歌島が一人で外に出てこない保証などないわけだ。


 昼から、また一緒に宿題をする予定となっているので、それまでは我慢するしかない。

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