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ドラッグ・オン・フェアリーテイル【overdose】〜絶海の殺戮饗宴〜  作者: 山下愁
航海2日目後半:豪華客船の殺戮饗宴
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【第5話】

 薄暗い操縦室はどこか不気味だった。



「機械ばかりだね」


「AIで動いていれば当然ですね」



 ピカピカ、チカチカと機械の光が明滅する不気味極まる部屋を見渡して、ユーシアとリヴは豪華客船からの脱出手段を探す。


 自動で動く舵輪がまさに『幽霊船』という表現が正しいと思えてくるほどだ。船長まで人件費を割かなくてよくなったのはいいことなのだろうか。

 どうせ爆発して全てが終わるのであれば、船長や船員も【OD】を用意すればよかったのに。世界中で爆発的に流行している【DOF】だから、船舶関係でも誰かしら【OD】になっていそうなものである。


 ふとユーシアは操縦室の隅に目をやり、



「あ、見つけた」


「本当ですか」


「うん、あれ」



 ユーシアは操縦室の隅を指で示す。


 そこには布で覆われた山が築かれていた。試しに布を取り払ってみると、水上バイクが用意されていた。メーターなどを確認すると燃料も満タンの状態であり、あの連続強姦殺人鬼の為に脱出手段を用意しましたと言わんばかりに放置されていた。

 性格の悪そうな黒幕が考えることである、どうせ豪華客船から逃げ出したところで何かしらの不具合も一緒にご用意があるに違いない。孤立した海上で水上バイクに何らかの不具合が発生し、頭のイカれたゲーム会社の社員によって殺されるのだ。会長とやらが高笑いしている姿が目に浮かぶ。


 ユーシアとリヴは互いの顔を見合わせると、



「リヴ君、使う?」


「嫌ですけど。物凄く嫌な予感がしますもん」


「奇遇だね、俺も嫌な予感しかしないよ」


「ですよね」



 ご丁寧に用意されていた水上バイクに視線を落とした2人は、



「リヴ君、どこか適当な場所から【OD】を攫ってきて。紛らわしいからこれを処分しちゃおうか」


「どうせ不具合があるなら雑魚と抱き合わせる判断、最高ですね。痺れます」


「リヴ君もどうせ考えてることは一緒でしょ」


「そうですが」



 頭の中身を疑いたくなるような、ユーシアとリヴにとってはいつも通りすぎるやり取りを交わしていると、この操縦室まで連れてきてくれたシロが挙手をする。



「のる?」


「そこまで自己犠牲に満ちなくていいよ、シロちゃん」


「でもじゃまじゃない?」


「だからと言って自分を切り捨てるような考えはよそう、シロちゃん。どこの国でも幼い子供は祝福されるべきなんだよ」


「こどもじゃないよ」



 シロの発言に、ユーシアとリヴが固まる。


 まさかとは思うが、リヴが地雷とする『合法ロリ』というものではなかろうか。あれは見た目は幼女でも中身がババアなので、リヴの地雷に引っ掛かれば確実に殺される。

 経験上、合法ロリは背後から襲ってくるような連中が多い。【OD】だと良心すら働かないので余裕でユーシアとリヴの背中を刺してくるだろう。この場でシロを殺さなければならないという結論まで出そうだ。


 つるぺたな胸を張ったシロは、



「あたし、ぴーまんたべられるもん」


「…………」


「…………」


「それと、ぐりんぴーすもたべられるもん」


「…………ああ、うん」


「…………そう、ですか」



 この「大人だもん」発言はどうやら、ネアと同じような「立派なレディーだもん」発言とよく似ている様子である。



「凄いねぇ、立派なレディーじゃないの」


「ピーマンとグリンピースが食べられれば大人ですね間違いない」


「そうでしょ」



 全然威張るような内容ではないのだが、この部分を主張するあたり子供と判断してよさそうである。彼女は立派なレディー、もとい幼女である。

 ネアでの扱いに慣れているので、ユーシアとリヴはどこか安堵していた。もし本当に「年齢は20歳です」などと言われようものならユーシアは懐の自動拳銃を抜いていたし、リヴはユーシアが狙うより先にシロを殺害していたかもしれない。


 リヴは水上バイクに触れ、



「では適当な【OD】を見つけて処分をしてしまいましょうか」


「出来れば戦闘用じゃない奴がいいな、誰かいないかな」


「はい」


「シロちゃん、気をつけ。大人しくしてなさい」



 再び自分を売り込んできたシロに気をつけを命じたユーシアは、



「どうせなら『3匹の子豚』あたりがいいな。あの【OD】の作るお菓子は不味いから」


「アメリカで死ぬほど食いましたね。いやー、あの不味さは目玉が溶け落ちるかと思うぐらいに不味かったです。着色料をバリバリ使ったジャリジャリな舌触りのケーキの方がマシですね」


「タイヤのゴムと道端のガムを掛け合わせたような味のお菓子とアメリカ伝統のケーキを比べないの」



 適当な会話を交わしつつ、リヴが【OD】としての異能力を発動する。

 右手で触れていた水上バイクが、親指姫の異能力によって見る間に縮んでいく。ちゃんと人間が乗れる大きさの水上バイクがあっという間にミニチュアサイズの水上バイクと化し、このままドールハウスにでも飾れそうなチャチな見た目となる。


 ミニチュア化してしまった水上バイクをレインコートの袖から内側に収納したリヴは、



「ではどこの【OD】が適任か、探しに行きますか」


「リヴ君さ、聞きたいんだけどレインコートの内側ってどうなってるの? 引っ越しする時も旅行鞄とか必要なかったよね」


「親指姫の異能力は便利なもので、縮めた荷物の重さも親指サイズ並みに軽いんですよね。おかげでこの下には夢の国が広がっておりますよ」


「リヴ君なら本当にテーマパークでもありそう」



 レインコートの下から色々なものを引っ張り出すリヴに、ユーシアは改めて彼の異能力が便利だと気付かされるのだった。



 ☆



「ほ、本当か? 嘘じゃないんだな?」


「ええ、嘘じゃないです」


「そうだよ、下手をすればあと数日で爆発さ」



 適当な【OD】の中年男性を引っかけ、ユーシアとリヴはあえて事実を提示する。直前に【DOF】でも摂取していたのか、その【OD】の中年男性は正気の状態を保っていた。

 中年男性を甲板まで連れて行き、リヴが脱出手段として用意されていた水上バイクをレインコートの下から取り出す。まるで魔法のように出現した水上バイクに中年男性は酷く驚いていた様子だが、水上バイクの登場にいよいよ豪華客船に設置された爆弾が現実味を帯びてきているようだった。


 中年男性は水上バイクに跨ると、



「こ、ここから飛び降りればいいんだな?」


「ええ、それで逃げてください」


「気をつけてね」



 努めてユーシアとリヴは中年男性を笑顔で送り出す。

 確かめてはいないが、犯罪者の為に用意されていた脱出手段なんて碌なことが起きない。残念ながら中年男性には犠牲になってもらおう、何の異能力を持った【OD】なのか不明だが。


 感動のあまり小さな瞳に涙を浮かべる中年男性は、



「ありがとう、ありがとう。この船の地下で開かない部屋があったから躍起になっていたら、まさかあれは爆弾の部屋だったかもしれないな。知らせてくれたことにも感謝しているよ」


「地下?」


「開かない部屋?」



 中年男性が最後に爆弾を投下して、水上バイクのエンジンをかける。

 問題なくエンジンがかかった水上バイクは、落下防止の為に巡らされた鉄製の柵を吹っ飛ばして夕方の海に飛び込んでいった。そのまま水上バイクで飛び出せば無事では済まない。


 それに加えて、



 ――ッッッッッッッッッッッッッドン!!!!



 盛大な水柱が上がった。


 すぐ近くで水柱が上がったということは、やはりあの水上バイクに細工が施されていたようだ。確実に使用者を殺す勢いがあった。

 エンジンをかけてから数十秒で爆発をするとは、少しだけ夢を見させてあとは地獄に叩き込むという性格の悪さが窺える。使わなくてよかったかもしれない。


 いいや、それよりも。



「地下か」


「それに開かない部屋ですって」



 ユーシアとリヴは互いの顔を見合わせ、



「まずはご飯だね、下手すればリリィちゃんが用意しちゃう」


「そうですね。深夜には脱出したいところです」



 偽物の脱出手段を他人に押しつけて消費したユーシアとリヴは、次なる脱出手段を探すことにした。


 だが、まずは食事の調達である。

 このままでは邪悪な食事しか作れない銀髪のメイドがまた幼女にトラウマを植え付けてしまうので、それだけは何としてでも阻止しなければならないのだ。

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