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人形の野心〜侍従長〜(前)

更新が遅くなりました<(_ _)>〈 ゴン!〕

侍従長編は前中後編になります。

番外編はこれで終了予定、第二章に移ります。

スードを襲撃したウィグノー伯爵を断罪した国王陛下は自身の執務室に戻ると深く息を吐きだした。


私は陛下にお茶を入れいつものよう部屋の隅に控える。


湯気のたったカップを見つめ陛下は独り言のように零した。


スードの倅(カーティス)に、婚約解消まで持っていければアラミスに致命的な打撃を与えられると言われたが⋯」


ええ、貴方には無理でしょうね。


策略や奸計を巡らす知恵も無ければ根回しや水面下で交渉する考えも無い。


王都や王城がアラミスに侵食されているのさえ気づかない愚鈍さ。

高位貴族やユーリアシェ殿下が牽制してバランスを取っていたのに、それすら壊してしまったのですから。


「あれが精一杯だったのだ。

あれ以上アラミスを追い詰めれば手負いの獣となる。」


自分を正当化する独り言が続いているが、既に手負いの獣ですよ。

牙も爪も残すなら厄介になるだけでしょうに。


自分の娘(ユーリアシェ殿下)とスードの暗殺未遂として徹底的に追い込み、罪人の塔(落葉の塔)に幽閉すらできぬとはーーー


呆れながら陛下の前に果物を出す。


「これは?」


お茶に合わないと思ったのか訝しげに聞いてきた。


「南からの献上品でレーブという柑橘系の果物です。

少々酸味が強いのですが疲れを癒すのに良いと献上した使者が言っておりましたので。」


そうかと頷き1口大に切り分けたレーブを1つ摘んで食べ、口に合ったのか残りも完食する。


「美味いな。この茶にもよく合う。

⋯南ならばアイシェバールの物か?」


「左様にございます。

定例会の欠席のお詫びにとラグセム様が領地から届けに来られました。」


「アイシェバールの二番目の息子か⋯」


定例会は王都に在住する貴族は強制参加だが、45年前の件がありアイシェバール家のみ欠席を許されている。


当主は自領から出てこず一番目の息子が王都にいても王城に寄り付かない。


三番目の息子(ランセルド)も本人の意思で今まで王城に登城していたがこれからはどうなるか───


「これ程の美味には礼を返さねばな。

何か良い物はないか?」


姫様に去られアラミスが役に立たなくなれば次はアイシェバールか。


流石は他人に寄生して国を治めてきただけあり、切り替えが早い。


「アイシェバール家当主はお酒を好むと以前聞いたことが御座います。」


「では最高級のワインを2~3本選んで届けよ。」


「かしこまりました。」


わたしは一礼して退室し侍従にワインを選ばせた。




半月後侍従を3人連れて陛下からの贈物を届けに王都のアイシェバール公爵邸を訪れた。


先触れを出したので本来なら王都邸にいる公爵一族全員で出迎えるのが礼儀だが、領地から王都に出てきている次男のラグセムだけ出てきた。


「折角の国王陛下からのお心遣いですが生憎兄と義母は病に伏せっており挨拶もままなりません。

お許しください。」


弟のランセルドと違い柔和な笑顔で慇懃な態度だが、紫水晶の瞳は友好的ではない。


まあそうだろう。

未だに王家に対しての敵対心を隠していないのだから。


「お気になさらずに。

アイシェバール家から献上されたレーブを陛下が大層お気に召し、お礼の品を届けに来ただけにございます。

貴家の事情も知らずこちらこそ失礼致しました。」


仮病とわかっていても南部を掌握するアイシェバールを一介の使者が咎める事はできない。


ラグセルに案内され邸の応接間で侍従に持たせたワインを渡す。


「ほう、これ程良いワインを3本も頂けるとは。

陛下の温情に感謝致します。」


「1本はご子息に、2本はアイシェバール当主にとの陛下のお言葉に御座います。」


ラグセルはワインを箱から取り出し丹念にラベルを見ている。


「ふむ、折角持ってきてくれた侍従長を労いご一緒に如何かな?」


ラグセルは己の侍従にワインを冷やすよう指示した。


さすがに陛下からの下賜品を使者が賜るのは礼儀に反する。


「その様な畏れ多いーー」


「陛下とてそのくらいの度量はあるでしょう。」


断れば陛下が狭量だと言っているようなものだ。


付いてきた侍従の顔色が悪くなったのを目の端に見やり、二度目の辞退は諦めた。


「では恐縮ですが1杯だけ同席させて頂きます。」


ラグセルの笑みが深くなりワインを開けてグラスに直接注ぎ渡してきた。


国王からの下賜品に毒見をつける訳にはいかないので、わたしが先に飲まなければならない。


「お先に頂戴しても宜しゅうございますか?」


「どうぞ。ワインは風味が命ですからね。」


あくまで毒見ではなくワインが劣化していないかを気にしている体で進める。


色と香りを確かめて1口飲み込んだ。


「渋みが強いのでスワリングされた方がーーっ、グフッ」


体中が痺れ気道がふさがったように息がしづらい。


「どうされた?!」


ラグセルが倒れたわたしを抱き起こした。


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