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第59話 歪んだ愛〜ランセルド〜(後)

あまり乗り気ではなかったがリーシェの護衛騎士になった。


リーシェは天真爛漫と言えば聞こえはいいが、ただ好き勝手に過ごしているだけだった。


公務をほとんどしない第二王女に専属護衛騎士を5人もつけ、公務で国中を駆け回っている第一王女に1人もつけない、その理由が銀の髪を持っているからだと毎日登城していれば嫌でも理解したが、馬鹿馬鹿しいとしか思えなかった。


話に聞く先代王妃は享楽的で惰性なすぐに泣く女だが、ユーリアシェは勤勉で努力家、涙など見せない誇り高い淑女だ。


どちらかといえばリーシェの方が先代王妃の性質を受け継いでいる。


リーシェはユーリアシェがどんなに忙しそうにしていても平気でお茶会に誘って下らない話でユーリアシェの貴重な時間を潰しているが、それに怒ることも無く笑顔で相槌を打っていた。


そんなユーリアシェの表情が崩れるのがリーシェの後ろでランセルドが護衛をしている時だった。


一瞬悲しそうな表情をするがすぐに笑顔の仮面を被る。


その一瞬の表情をランセルドは見逃さなかった。


自分の存在がユーリアシェの感情を揺さぶると気づき、言い様のない恍惚感がランセルドを支配した。


(もっと姫の感情を引き出したい。あの美しい涙をもう一度見たい!)


どうすればユーリアシェの感情を動かせるのかできることを試していった。


お茶会の時に侍従の真似事をしユーリアシェにお茶を渡す時にうっかり(・・・・)指に触れれば小さく手を震わせ耳を赤くする。

そしてリーシェの世話をすれば辛そうな悲しそうな表情が浮かんだ。


その度にゾクゾクとした快感が身体中を満たすがその喜びを決して態度や表情に出さなかった。


だがいつの間にかユーリアシェは表情を崩さなくなり、ランセルドと会ってもその他大勢にするような態度になった。


ランセルドが焦りだした時にユーリアシェの婚約者、イルヴァンがリグスタ王国に戻ってきた。


初顔合わせでユーリアシェは王女らしく挨拶をしたがリーシェはイルヴァンに見惚れていた。


その隠さない態度にユーリアシェは気づいたが苦笑するだけだった。


ランセルドはユーリアシェがイルヴァンに対して感情を動かさない事に安堵した。


それからもユーリアシェは公務で忙しくなかなか婚約者との交流が持てない様子で、代わりにリーシェがイルヴァンとの距離を縮め始めた。


姉の婚約者に擦り寄るリーシェに嫌悪感を感じたが、これが明るみに出ればユーリアシェとイルヴァンの婚約は解消されるのではないかと期待し、ランセルドは虫けらのような2人を静観した。


暫くすると国王から呼び出され執務室に行くと国王夫妻とリーシェ、イルヴァンが居る。


やはりリーシェとイルヴァンが恋仲になり国王はそれを許し愚かにも王太女をリーシェにすると言った。


(婚約者交代だけなら皆納得するかもしれないが頭の中身が空っぽなリーシェに王太女の責務は担えない!)


次期女王として期待されているユーリアシェが降ろされ、王族としても不足なリーシェに王位を継がせればアラミスが王家を乗っ取るのは目に見えている。


何より瑕疵の無いユーリアシェに王太女を降ろされる屈辱を味わわせるなどランセルドには許容できなかった。


「陛下、その様なーー」

「そなたにはユーリアシェの婚約者となってもらいたい。」


諌言しようとしたランセルドは国王の発言で止められた。


(俺が姫の婚約者に?!)


「長らくリーシェの婚約者候補としてそなたを縛り付け、リーシェへの献身は知っておるがな、リーシェやイルヴァンの気持ちを汲んでやってくれんか。」


(俺と婚約させ姫を王族に縛り付けたまま利用したいのか)


リーシェ達の気持ちなどどうでもいい。


ランセルドは決して届かないと思っていた気高い花を目の前に差し出され、ユーリアシェの誇りよりも己の欲望を取った。


(父上の言う通りだ。姫を蔑ろにするこんな国などどうなってもいい。

危うくなれば亡命すればいいだけだ。)


「父アイシェバール公爵に相談せねばなりませぬゆえ、返答はお待ち頂けますでしょうか?」


おそらく父は好きにしろと言うだろうがーー

「仕方あるまい。だがこれは王命だ。」


「承知致しました。御前失礼致します。」


執務室の扉を閉めるまで気が抜けなかった。


アイシェバールがこの茶番劇に手を貸すと思わせてはいけない。

王命だから受けたと思わせなければーーー


この顛末を手紙に記しアイシェバール領へ早馬をだした。


案の定父からは好きにしろと返信があった。

見限ったこの国が何をしようと興味もないのだろう。



国王に了承の返事をしたが肝心のユーリアシェが忙しく全く会えなかった。

国王に頼み凛星宮へ入る許可を貰い、ようやく会えたがユーリアシェから激しい拒絶を受けた。


己の手を拒むなどランセルドは想像すらしていなかったのだ。


『姫』と呼ぶ事さえ許さないと怒りに燃える瞳で声を荒らげるユーリアシェにランセルドは何も言えなかった。



放心状態で邸に戻り少し落ち着くと、ユーリアシェとの会話に違和感を覚えた。



今まであのような高圧的な喋り方など一度もした事がない。

ましてや己に嫌味や叱責をするなど·····

しかも交代劇を知っているかのような言い方だった。

知っていて止めようとしない、いや、止められないから対策を取っているようだった。


(姫であって姫でないような···

まるで(しがらみ)から解き放たれたような感じだ)


手が届きそうな高貴な花が幻になりそうで嫌な予感がした。



その予感はあたり、ユーリアシェは王族を抜けると宣言した。




(全てを知っていたんだ。

東伯の息子に助力を頼んでいたから俺の手を取らなかった!)


怒りが身体を駆け巡った。


今までの己の愚行を顧みれば愛を告げても拒まれて当然だと解っている。

それでも感情を制御できなかった。


ランセルドを選ばないと言ったユーリアシェの舌を噛みちぎり己の元から離れる足を潰してしまえばよかった。


そうすれば真夜中に城を出ていくユーリアシェとカーティスを憎悪に満ちた瞳で見送る事もなかったのにーーー


お読み下さりありがとうございました

m(_ _)m


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[一言] だめだ ぱっと最初見るとき 歪んだ愛 ランドセルにしか見えないw
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