第54話 国王の失態
ユーリアシェ以外の登場人物が出てきます。
国王➛王妃➛イルヴァン2話➛ランセルド2話➛侍従長(予定)です。
かなり暗い話が続きますがお付き合い頂けると嬉しいです。
よろしくお願いしますm(_ _)m
国王マドルクの記憶の中の母親は後ろ姿か男性を見上げて微笑んでいるかのどちらかだった。
先代国王は当時王太子だった頃に子爵令嬢だった母を見初め、婚約者を捨て母を娶った。
先代は政務はできるが女の趣味は最悪で、母の媚に気づいていたがそれも魅力だと思っていたらしい。
母は愛らしい容貌とこの国には殆どいない銀の髪が自慢で、癖のある銀髪を結わずに装飾品のように伸ばしていた。
息子が生まれても乳母や教育係に任せ切りで、1年に数回しかあった事がなかった。
それも後ろ姿や男性に媚を売るのを見かけただけ。
先代も結婚して10年もしたら母に飽きて愛妾を隠れて囲っていた。
母はそれを気にする様子もなく傍にいる男達と戯れるのに夢中で、彼女の中に息子の存在など一欠片もなかったのだろう。
12で立太子し公爵家の娘を婚約者にしたが、いくら国王になるとはいえ阿婆擦れの息子に嫁ぐのは嫌だと言っていたのを聞いた。
周りも阿婆擦れの子爵の娘から生まれたと蔑んでいたのを知っていた。
一時は別の男の種では、と噂があったが先代が否定して皆口を噤んだ。
先代は力をつけ見返せと言うが、何故あんな女を王妃にしたのかと言い返したかった。
愛らしいだけの役にも立たない女を娶った先代を軽蔑していた。
婚約者は王城に妃教育に来る度に母に絡まれていた。
王太子妃となる義娘に今の立場を追われると思ったのか、難癖をつけ婚約者が言い返すと大袈裟に泣いて男たちの同情を誘っていた。
可哀想だと思ったが、阿婆擦れの息子と言われたのを聞いていたので、手助けをする気にはなれなかった。
その日は珍しく先代と母、婚約者と一緒の夕食だった。母は浮かれて食事中ずっと一人で喋っていた。
誰一人母の話を聞いていないのに。
最後のデザートを食べ終わった時、急に母が苦しみ出した。驚いて立ち上がろうとしたが先代に座っていろと命じられ苦しむ母を見ているしかなかった。
「どれだけ男と遊ぼうが構わなかったが、それで孕んでは放っておくことはできん。」
その言葉に苦しむ母を可哀想だとは思えなくなり、うつ伏せになってテーブルに広がった銀の髪が美しいと、見当はずれな感想を抱いていた。
母が動かなくなり先代も出ていき、婚約者と二人になった。
婚約者は母に近寄り近くにいた近衛騎士の剣を奪い、銀の髪を無惨に切った。
「たかが子爵家の娘が公爵令嬢のわたくしを見下し貶めるからこうなるのよ!」
そう言って笑いながら出ていった。
切り落とされた銀の髪を拾い部屋に戻った。
初めて触れる母の髪。
思い出すのは銀の髪が揺れる後ろ姿と、男に媚びるように銀の髪を手に巻いて微笑む姿。
母の葬儀は王妃とは思えぬひっそりとしたものだった。誰も悲しんではいなかった。
半年後に婚約者と結婚し、すぐに懐妊した。
先代は子が生まれる前に病で死んだ。毒殺されたのかとも思ったが、どちらでも良かった。
これで安心できると思ったのに王妃の産んだ子は銀の髪だった。
あの銀の髪の揺れる母の後姿。
男に媚を売るしかできない、手に銀の髪を絡ませる阿婆擦れ。
見に行く気にはなれなかった。
時々侍従に見に行かせたが、それも凛星宮に移る時に騒ぎがあり、それ以降の接触を禁止した。
すぐ後に五才のお披露目をした時に初めて娘を見た。
エスコートしている公爵子息に頬を染め、銀の髪に触れている姿が母にそっくりでゾッとした。
母のようにはならぬよう専属護衛騎士を付けず、後継者教育を厳しくさせ公務を詰め込んだ。
従順で賢く育ったが銀の髪が視界に入る度に不安が広がる。
上の娘の婚約者が帰国したが、公務で殆ど会えていないと報告を受けた。
そして下の娘と上の娘の婚約者が密会しているとの報告も間を置かずに報告された。
下の娘は金髪に翠の瞳で安心して可愛がれた。
少し甘やかしたせいで王女としての責任感が薄いが、上がしっかりしているので大目に見ていた。
上の娘の婚約者を愛していると言ったので婚約者を下の娘に替え、王太女をすげ替えても、上の娘が王族のままでいれば助けるだろうと思っていた。
賢く従順な娘が王族を抜けると言い出すなど、思ってもいなかった。
ユーリアシェが出ていった後、地方貴族達が騒ぎ始めた。
「これでは45年前と同じではないですか!」
45年前、先代が母を選び婚約者を捨てた。
リーシェを見て驚愕した。
そうだ。
男に媚を売り、泣いて我を通し、王族の役目を果たさない。
あの阿婆擦れに似ているのはユーリアシェでは無い。
リーシェだ!
このままでは王家が破滅する。才を持つユーリアシェを王族に戻さねばアラミスの思うがままだ。
だがユーリアシェの傍にいる東伯の息子が邪魔をした。
東伯の息子はユーリアシェを諦めれば、王家を存続させる協力をすると言った。
それに縋るしかもう道はなかった⋯
読んで下さりありがとうございました。
もう1話王妃編もupします。




