第50話 解放(2)
乗馬服に着替えカーティスの待っている部屋に行くと手に紺のマントを持って待っていた。
ユーリアシェにマントを羽織らせしっかり顔が隠れるように深く被せる。
「スードまではあまり休憩を取ることはできないがしんどくなったら言えよ。」
「大丈夫よ。徹夜なら慣れてるから。」
ユーリアシェは強気に笑って答える。
カーティスはフードの上から頭をポンポンと叩いて笑い返した。
凛星宮を周囲を警戒しながら足早に歩いて行くが、誰の気配もない。
(おかしい。いくら真夜中とはいえ深夜番の騎士が誰も居ないなんて)
王族から抜けても王家の血を持っているのだ。
罠かもしれないと警戒を強めると横にいるカーティスが疑問に答えた。
「凛星宮の外をスードが固めてるから王城の奴等は誰もいねえよ。」
武闘集団のスードが建物を囲んでいれば、誰も入りたいとは思わないだろう。
スードがいるならもう王族ではないユーリアシェの安全を、王城の騎士が守る必要もない。
建物の外に出るとフードを被った100人近くの兵たちがこちらを向き膝を折る。
「スードに帰還する。何があっても優先順位を忘れるな。
行くぞ。」
カーティスとユーリアシェが馬に乗るとスードの兵も後に続く。
動く時に金属の擦れる音が響き中に鎧を着ているのに気付いた。
本来なら王城の敷地内は他貴族の兵が入るのは禁止されている。にも関わらず鎧兵がいるのは王が許可したからだ。
(今の国王にティス兄様を御せる力はない)
スードだけではないだろう。昨日で王都の貴族の権力争いが一気に激化し、王家は格好の餌食になる。
それを王家だけで止める手立てがない。
ユーリアシェが残っても失墜した威信は取り戻せない。
だが自分だけ逃げ出す事に理屈では処理できない罪悪感が湧き上がってくる。
(私を捨てたのは王家や王都の貴族達だ)
どれ程己に言い聞かせても消えずに心に留まり続ける。
そんなユーリアシェの気持ちを察したのか、馬を並走させながらカーティスはユーリアシェを諌める。
「仮令お前が残ろうとどうにもならないのは分かってるだろ。選択したのは陛下達だ。
自分が何とかしなければなんて烏滸がましい事を考えるな。
そんな力はお前にはない。」
厳しい言葉だが、正鵠を射ていた。
王太女としての実績はあるが、それでも簡単にすげ替えられる程度のものだ。
「ごめんなさい。傲慢になりすぎてた。」
カーティスはユーリアシェに苦笑で返した。
「まあ、そんな風に感傷に浸ってられるのも今だけだ。」
この言葉に疑問を持ったが、王都の検問を抜けて半日たった夜に意味がわかった。
「お約束だな。」
「スードに入る前に殺らなきゃ難しくなっからな。」
「でもこっちを舐めてません?」
「這いつくばらせてやろう。」
カーティスとスードの兵が好き勝手に発言する先にはーー
往来の少ない街道を近衛騎士団が塞いでいた。
(なんで近衛騎士団が?!)
こちらの3倍の数の兵が先回りして待ち伏せていた。
「我々は近衛騎士団である。
貴様らはユーリアシェ殿下を唆し謀反を企てた。
国家反逆罪で捕縛する!」
責任者らしい男が大声で罪状を告げる。
「ぷっ、かなり無理があるんじゃねぇ?」
「いや、王族誘拐罪か反逆罪か不敬罪しか思いつかんのだろ。」
「何人か鎧があってない奴いるじゃん。」
「先回りするから色々と綻びがすげーなぁ。」
スード側は緊張感の欠片もなく言いたい放題だ。
ユーリアシェは呆気にとられ、近衛騎士団側は怒りで真っ赤になっている。
「全員殺しても構わん!やれ!!」
剣を抜き此方に向かって来る。
「おいおい、全員殺してもいいんだってよ。」
「仕事が雑だね~」
「雑じゃないから全員殺るんだろ」
「じゃこっちも殺りますか。」
最後の言葉で一斉に剣を抜き戦闘態勢に入る。
ユーリアシェを真ん中におきカーティスが先陣をきった。




