第49話 解放(1)
眠りから意識が覚醒しユーリアシェは自分の体を包む温かいモノが気持ちよくてぎゅっと抱きしめた。
「起きたのか。」
頭上から優しい声が聞こえ、驚いて目を開け上を見た。
間近にカーティスの顔があり温かなモノはカーティスの体で、抱きしめて眠っていた事に声にならない悲鳴をあげる。
「$”¥&#$@@$」
「落ち着け。何もしてないから。」
(何もしてないってっ!ナニを?!
それよりなんでティス兄様と寝てたの?
どういう状況?!)
ユーリアシェの混乱を他所にカーティスは起き上がりゆっくりと銀の髪を撫でる。
「昨日の事、何処まで覚えてる?」
「はえ?」
カーティスの緊張を孕んだ声にユーリアシェは惚けた返事しか出来なかった。
「昨日何があったか覚えてるか?」
もう一度聞かれ、ユーリアシェも体を起こして昨日の出来事を順に思い出していく。
「昨日は謁見の間に呼ばれて、王太女と婚約者交代を言われて王族を抜けれたでしょ。
その後、リーシェや王妃と国王にあって、それから侍従長が私に·····」
最後の、最後の何?
それ以上を思い出すのが怖くなり、体が震える。
あの最後に見た侍従長の顔。あの顔が·····
「ユリィ!」
カーティスに肩を掴まれ思考が途切れた。
ユーリアシェは自分の鼓動が早鐘を打っているのに少しだけ疑問を覚える。
「侍従長と少し話をしてその後いつの間にか寝たみたい。」
(何も不安なんかない。一気に色々決まったから落ち着かないだけだ。)
カーティスにじっと探るように見つめられ居心地が悪くなる。
「それよりなんでティス兄様と一緒に寝てたの?」
話を逸らしたくて一番気になっている現状を聞いた。
カーティスは体の力を抜いて悪戯っぽく笑う。
「ユリィが俺を寝台に誘ったんだよ。」
「えっ!」
全く身に覚えがない。
「俺の手を引いて布団に誘ったんだ。
俺もスードに戻る前に仮眠を取りたかったしな。」
ユーリアシェの頭にポンと一度手を置いてベッドを出て扉に向かう。
カーテンを引いているが外がまだ暗闇に包まれているのを感じ、どれくらい眠っていたのかとユーリアシェは焦ってカーティスを引き止めた。
「私どれくらい寝てたの?出発は何時?」
自分のせいで出発が遅れてしまったならと申し訳なくなり布団を握りしめる。
「此方も段取りがあったから今から出発しても大丈夫だ。
スードまで馬で行くから乗馬服に着替えてくれ。
隣の部屋で待ってる。」
カーティスは微笑んで扉を閉めた。
ユーリアシェはホッとしたが、ああ言ってくれたのは自分に負担をかけない為だとわかっていた。
これ以上待たせる訳にはいかない。
クローゼットから乗馬服を取り出し、急いで着替えをする。
「どう思う?」
カーティスは部屋の中で呟く。
「·····記憶をもう一度封印してしまったかと。」
誰も居ない筈の部屋から落ち着いた男性の声が答える。
「そんな事ができるのか?」
「人の心は弱いものです。己を守るためなら無理矢理にでも辻褄をあわせるでしょう。」
ユーリアシェを弱いと思っていなかったが、認識を改めなければならないだろう。
「ユーリアシェの準備が出来次第出発する。
最優先はユーリアシェの安全だ。
万全にしておけ。」
「若·····」
声の主が案じるように呼んだ。
この男は昨日の経緯を全て知っている。
「お前の心配はわかるがユリィの婚約が白紙になれば俺のものにすると言っただろう。
どうなろうと手離す気はない。」
目を背け続けた想いに素直に従う。
カーティスの譲らない断固とした声音に一つ溜息をついて了承する。
「では最後の打ち合わせをしてまいります。」
そう言って気配が消える。
「兄として見守るのは終わりだ。」
カーティスはユーリアシェのいる部屋を見据えながら独りごちた。




