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第48話 封じた記憶

「ねぇ、じい。あしちゃもきちぇくれりゅ?」


「姫様、申し訳ありません。明日は来れないのです。」


眉尻を下げ困ったような顔で男性は言う。


「どうちて?」


寂しくて瞳から涙が次々と流れる。


「姫様。私の可愛い姫様。泣かないで下さい。近い内にまた来ますから。」


じいが私を抱き上げて泣く私の背を優しく撫でてくれる。



ああ、コレは幼い頃の記憶だ。

あの頃じいだけが私に会いに来てくれた。

泣く私を抱き上げて撫でてくれた。

髪を梳いて字も教えてくれた。

部屋を出たら怒られるから、お人形遊びもしてくれた。


じいが来るのをいつも楽しみに待っていた幼い私。






字を覚えてからはよくじいとカード遊びをした。

その日も絵と同じ言葉を探す遊びをしていると急に扉が開き、この部屋を出て違うお家に行くように言われた。


じいと会う事はできなくなると言われ悲しくて大声で泣いていたら、金の髪の綺麗なドレスを着た〈女の人〉が私の頬を叩き、見苦しいとか醜いと言ってまた叩いた。

じいは私を抱きしめ、〈女の人〉に謝っていた。


それなのに〈女の人〉は長い棒を持ってじいを何度も叩いた。じいは謝りながらも私に当たらないように抱きしめ続けてくれた。


私は怖くて泣きながら謝ったけど〈女の人〉はじいを【しょけい】すると言う。

じいが耳を塞いでいたけど〈女の人〉の甲高い声は小さくなっただけで聞こえていた。


〈女の人〉は私が【悪い子】だからじいが私のせいで(・・・・・)死ぬと言った。


泣き叫ぶ私をじいが『私の姫様』と優しく呼ぶ。

じいは私を見て悲しげに笑う。


『姫様は何も悪くありません。これはじいの責なのです。』


私を目に焼き付けるように、最後の別れのように··········






「ユリィ」


私の髪を誰かがゆっくりと撫でている。

じいの様に優しい声で名前を呼ぶ。


「じい」


「じいじゃねーんだけどな。」


困ったような声も似ていたけどじいの声はこんなに低くない。

でも私の所に来るのも頭を撫でてくれるのもじいだけだから、風邪でも引いたのかも知れない。


「じい、声が変。お風邪引いたの?」


心配だから、顔が見たいのに眠たくて目が開かない。


「じいも、一緒に、寝よう。怖い夢、を見、たの。じい·····いなく····」


居なくならないよね。


ここにいると教えてくれるように髪を何度も優しく撫でてくれる。


私は安心して、穏やかな微睡みに沈んだ。







「だからじいじゃねーよ。」

カーティスはまた眠ってしまったユーリアシェに溜息混じりに小声で呟いた。


魘されていたユーリアシェを起こそうと名を呼んだが、まさか侍従長と間違われるとは思わなかった。


カーティスの脳裏に勝ち誇った老侍従が浮かびまた溜息が出た。

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