第45話 侍従長の想い
カーティスから先に凛星宮に戻るように言われ、護衛騎士を7人も付けられ侍従長と共に戻る。
王城では1人で行動するのが常だったので(王太女だったのに!)過剰に感じてしまう。
「窮屈でしょうが、今貴女様に何かあればスードだけでなく、地方貴族全てを敵に回してしまいます。お許し下さい。」
含みのある言い方に侍従長を見るが、無表情のまま進んで行く。
ユーリアシェも何事もなかったように凛星宮に向かった。
部屋に入る前に侍従長に笑顔を向けて問いかける。
「少し尋ねたい事があるの。お時間を頂けるかしら?」
諾と答えたので応接室で対面に座り、侍女が持ってきたお茶を侍従長自らいれてくれた。
「先程の発言、何が言いたかったのかしら?」
侍従長はすました顔のまま、否定する。
「そのままの意味でございます。
僭越ながら私めもお尋ねして宜しゅうございますか?」
「どうぞ」
身構えて返事をする。
「貴女様はリグスタ王国でどれ程の影響力をお持ちかご存知ですか?」
「?」
「王城では貴女様は何の力もお持ちでない。
ですが王都、いえ王城を出ればそうではありません。」
今まで視察で国中を回り王都では慰問もして、次期女王としてイルヴァンを抑えられる位の力はあると自負はあるが·····。
「貴女様はあのように仰せでしたが、本当の意味でおわかりでない。
恐らく、貴女様の予想を上回る事態となりましょう。
此度の一件で貴女様が王族を出れば、王家の求心力はなくなり、王都の貴族は傀儡の女王となりえるリーシェ殿下を奪い合い、地方貴族は王家から離れていきます。
両陛下やリーシェ殿下に防ぐ力などございません。
ハスターバルも静観はしない可能性が高いでしょう。」
「·····王族に戻れと?」
ユーリアシェは複雑な気持ちで聞くと、否定する。
「いいえ、戻らずともよいのです。
ただ、そうなった時に御自身を責めるのではなく、心の折り合いをつける努力をして頂きたいのです。
全ての責は、何の瑕疵もない貴女様を引きずり下ろした両陛下とリーシェ殿下にあるのですから。」
ユーリアシェは何も言えなかった。
「やはり一口もお茶を飲まれませんでしたね。」
「あ、ごめんなさい。」
混乱した王城で誰が触ったかわからない物は口に入れたくなかった。
「いいえ、そうしたのは私達です。
安全である筈の王城をもっとも警戒せねばならない場所にしてしまったのは、私共の責任なのです。」
侍従長は悔悟を滲ませすぐに跪いた。
「どうかスードでは貴女様が心安くおられますよう。
御前失礼致します。」
ユーリアシェが声をかける前に部屋を出ていった。




