第42話 愚か者〜王妃〜
「おい、次が来る前に出ていくぞ!」
カーティスは苛立たしげに言う。
ユーリアシェもこれ以上誰の相手もしたくない。
その願いは叶わず、いきなり扉が乱暴に開いた。
「そなたは何を考えているの?!」
金切り声をあげて入って来たのは王妃シルフィーラだった。
マナーも何もあったもんじゃないと嘆息する。
「何の御用ですか?手続きが済みましたので、もう話す事は無いはずです。」
ユーリアシェは面倒だという気持ちを全面にだした。
「母親に向かってよくもそんなことを!リーシェが可哀想だと思わないの?!そなたが出ていけばリーシェが矢面に立たされるのよ!!」
政も貴族間のバランスも考えず、リーシェの事しか見ていない。
こんな女が母親だとは·····
「全く可哀想だと思いません。リーシェが望んでわたくしからイルヴァン様を奪い、王太女になったのです。そのせいでおきる事は、リーシェが解決すべき事です。何でもわたくしに押し付ける癖はどうにかして下さい。」
反抗されシルフィーラは真っ赤になる。
「そなたの可愛げがないから、イルヴァンもリーシェに取られたのよ。そなたはあの女そっくりーーー」
激昂して怒鳴るシルフィーラの言葉を遮る。
「あの女とはお祖母様のことですか?」
まだ気づいていない哀れな母親をクスクスと嘲笑う。
「何がおかしいの?!」
嘲笑われたのが腹立たしいのだろう。ユーリアシェを叩こうと、立ち上がって振り上げた手は、カーティスに手首を取られ阻止される。
ユーリアシェは構わず母の耳元に顔を近づけた。
「ねえ、お母様。気づかないのですか?リーシェの丸い大きな眼も小さな口も、すぐに泣く所も人の男を奪るのも、全てお祖母様そっくりなのですよ。わたくしが似ているのは銀髪だけ。
髪色にしか目が向かないなんて憐れなお母様。」
その言葉に瞠目し、徐々に顔色が赤から青に変わる。
立っていられなくなったのか、床に座り込んだ。
衝撃が大きすぎたのか、いつまでも動かないシルフィーラを立たせようと手を差し出した時、開いた扉をノックしてそちらを見ると国王の侍従が立っていた。
「国王陛下がお呼びです。国王執務室にご案内致します。」
(やっぱり最後はラスボスとの対決になっちゃうのね)
心の中でガックリと肩を落とし、シルフィーラをそのままに侍従についていく。
「お母様を王妃宮にお連れして。」
シルフィーラの専属侍女にそう伝えてカーティスと国王執務室に向かった。




