第41話 愚か者~ランセルド~
ユーリアシェの言葉に二人は何も言えなくなり、泣くリーシェの肩を抱き、出ていった。
ランセルドが残ったことに、そういえばこの件を真面に話していなかったと思い出す。
「ハルク伯爵。貴方も何か言いたいことがあるのかしら。」
「ええ。ユーリアシェ殿下が、何時からご存じだったかお聞きしたいのです。」
「·····では座って下さい。」
面倒だとは思ったが、このままではスード辺境領まで来かねない。
「失礼致します。」
律儀に言葉をかけてから座る。
「何処からとはどういう意味?」
「先日お会いした際、今日何がおきるかご存知のような発言をなさいました。ドレスも今までの傾向と違いすぎ、プラチナの髪を強調させています。決定的なのは王族除籍届を用意していたことです。」
今までのユーリアシェは周りを気にして銀髪を目立たせないようにしていた。そして、前回の会話で失言している。
(頭にきてたから失敗したーー!あの時もっと遠回しに断るんだった!)
「一旦抜けた時に用意したのよ。」
「それにしては書類が完璧だったのですよ。」
淡々と言い返す。
言い逃れ出来ないと真実を少し混ぜて話す。
「3ヶ月ほど前に2人が抱き合ってるのを見たの。その時に話してる内容も聞いたわ。そこから推論をして準備したのよ。書類も万が一の為だったけど使う事になって残念だわ」
悲しげに少し下を向く。
「私との婚約も?」
「貴方は筆頭公爵家子息。リーシェの婚約者候補として長年王家が縛ってきた。リーシェがイルヴァン様と婚約すれば、アイシェバール公爵を宥めるのにわたくしを生贄にするのが自然よ。」
「生贄などと·····」
「他に言いようがないもの。」
「殿下、何か思い違いをされているようですが、私は貴女を愛しています。降嫁して下されば誰よりも大切にするとお約束致します。」
すました顔を崩し必死に言い募る。
ユーリアシェはそんな嘘を信じると思われているのか、と馬鹿にされたような気がした。
「貴方はリーシェの専属護衛としてリーシェに尽くしてきたのを知らないと思ってるの?わたくしとはほとんど話したこともないのに愛してるですって?」
話にならないと言外に告げると食いつくように否定する。
「全て父の命令でした。幼い貴女をお守りしたかったが、私には力がなく、専属護衛の件も、ユーリアシェ殿下の専属になりたかったのですが父の命令でリーシェ殿下になったのです。」
だから自分は悪くないと言いたいのか。ユーリアシェをいないものとして扱ったのも、ユーリアシェの好意を無視したのも。
ふざけた話だ。
「貴方がわたくしをどう思っているかはどうでもいいのです。わたくしは貴方を選ばないし、リーシェの後始末もしません。」
「殿下!」
「もう王族ではありません。お帰り下さい。」
ランセルドを見つめ毅然と言った。
アイシェバール公爵を敵に回してしまうが、それもリーシェ達が解決すべきものだ。




