第26話 東の辺境の思い出
カーティスとユーリアシェは12年前、ユーリアシェが6才で東の辺境に使者として訪れたときに出会った。
使者と言っても6才の幼児に何が出来るわけでもなく、王家が辺境を重んじて王族を出した、というのが重要で王族ならば幼児でも死にかけの老人でもいいのだ。
建前は辺境の視察だが、裏では軍隊を持つ辺境の監察を兼ねている。
毎年視察団が辺境地を回り、領地から出られない領主と友好を交わすために、そして謀反の兆しがないかを探っていた。
辺境は国にとって重要な地なので視察に王族も同行するが、謀反を起こされた時は人質になりうるので人選に悩む部分でもある。
そんな場所へたったたった6才の第一王女が使者となった事は王都の噂を肯定するものだった。
初めて東の辺境に訪れた銀の髪の第一王女を見て、オルシス・フォン・スード辺境伯は、納得と憐れみを覚えた。
ユーリアシェは視察団と一緒に城砦や訓練場を見て周り、空いている時間に説明されてわからなかった箇所を調べたりしていた。
まだ6才のユーリアシェに配慮されることがない日程の中、過労で倒れるまで誰もユーリアシェが我慢している事に気付かなかった。
ユーリアシェが倒れた後も視察団はそのまま日程をこなしていき、まだ回復していないユーリアシェを連れて次の視察に同行させようとしていた。
それを見て辺境伯ーーーではなく辺境伯夫人がぶちギレた。
「まだ熱も下がっていない王女殿下を連れて行こうだなんて、何を考えているのですか!?」
「こちらにも都合があります。だいたい体調管理がちゃんと出来ていれば寝込む事などないのです。ご自身の立場を考えれば少し位の無理はしなければなりません。」
体調管理のできないのが悪いと言い切り、まだ熱のあるユーリアシェを連れて行こうとした視察団の主席事務官に、辺境伯夫人は剣を突き付け鼻で嘲笑う。
「まだ6才の女の子を休ませずに連れ回しておいて、よくそんなことが言えるわねぇ。
あんたみたいなのが主席事務官なんて王城の官吏の質もたかが知れるわ。」
「わ、私にこの様な真似をしてどうなるとっーーー」
「どうなるっていうのよ。そっちこそたった6才の女の子に虐待まがいなことしといて、只で済むと思ってんの?」
ニィッと目を細めて嘲笑う。
少しは自覚をしていたのか唇を震わせるだけで言葉が出てこない主席事務官にさらに目を細める。
「王女殿下はまだ動ける状態ではないわ。こちらで回復するまで預かります。貴女達もそれでいいわね。」
周りにいた視察団の面々も辺境伯夫人の気迫に畏れを抱き高速で頷く。
辺境伯夫人は真っ赤な顔で立っているのがやっとのユーリアシェの元に行きふわりと抱き上げた。
「王女殿下。お聞きの通りです。殿下にはまだ休養が必要ですのでお部屋に戻りましょう」
優しく頭を撫でられたユーリアシェは声を殺して泣いた。




