第20話 運命の別れ道~謁見の間~(2)
朝食を早めにしてもらい、食後に湯浴みをしてドレスに着替える。
さすがに正式な格好をするには1人では出来ないので、侍女に手伝ってもらう。
飛鳥ユーリアシェになってから泣き寝入りなどしなかったので、侍女達の無礼な振舞いは徐々に減っていった。
以前なら無駄口を叩いたり、遅刻しても謝らなかったり、適当にお茶を入れるから苦かったりと、他の王族にすれば鞭打ち所か首が飛ぶ(物理的)ような態度だった。
優秀な貴族令嬢しかなれない王城の侍女職に就けているのだから、馬鹿ではないのでハルシュ地方に付いていった侍女がどうなったかを知り態度を変えてきたのだ。
着替えが終わると、侍女が溜息をついてユーリアシェを見る。
ロイヤルブルーに銀の小花の刺繍が流れるように彩られたソフトマーメイドドレスは細身で手足が長いユーリアシェだから着こなせるドレスだ。夜会ではないためデコルテを隠しているが、小振りのダイヤモンドをあしらったシルバーのネックレスが首もとの美しさを際立たせている。
髪もハーフアップにし、ドレスと色違いの青の花で作られた髪飾りをつけ、サファイアの耳飾りで自身の髪と目の色を纏っている。
侍女に礼を言って退室するように促すと一瞬驚いた顔をしたが、何も言わず礼をして下がる。
(やって貰ったんだからお礼ぐらい言うよ!そっちがちゃんと仕事してくれれば、私だって何も言わないし。注意したり怒ったりって疲れんだから·····)
この城では身も心も休まる時がないと嘆息する。
呼ばれるまでお茶でも飲もうとカップを持ったところでノックがあり、入室を促すとハルシュ地方で護衛騎士をしたユラーが入ってきた。
「失礼致します、王太女殿下。陛下がお呼びでございます。」
カップを置き、大きく息を吐き出し立ち上がる。
ユラーに先導され廊下を歩いていると、真っ赤な顔で前を見たまま、ユラーがしどろもどろに賛辞を口にする。
「あの、とてもお美しいです。いえ、いつもお美しいですが、今日は一段とお綺麗です」
慣れない言葉で一生懸命に伝えようとしてくれた純朴な騎士に微笑んで聞く。
「ありがとう。ハルシュの時は世話になったわね。あの後しっかり休暇は取れた?」
「はい。殿下のお口添えで皆しっかり休暇を頂くことが出来ました。殿下は戻ってからもお忙しかったと聞きました。
どうかご自愛下さい。」
この城の中でこんな優しい言葉をかけられたのは久しぶりでくすぐったくなった。
「ふふっ」
「あの、何か失礼な事を‥‥」
「いいえ、心配してくれてありがとう。」
最後の日に呼びに来てくれたのが、彼で良かった。
謁見の間の扉の前に立ち、ここから先は敵陣だと表情を引き締めた。




