第17話 地雷が向こうから···
イルヴァンがユーリアシェと婚約解消しようがリーシェと婚約しようがどうでもいいが、リーシェの尻拭いなど絶対にしない。
飛鳥ユーリアシェは自分が不幸になるとわかっていてそこに飛び込むようなお人好しではない。
(ランセルドとの婚約はなんとしても回避しないと)
取り敢えずここさえ乗りきれば、後はかなり小説からずれてしまうので、予測は何通りか考えているが、実際はどうなるかわからない。
3日後の謁見の間でのランセルドとの婚約だけは何としてでも回避しないと破滅が待っている。
今のユーリアシェにランセルドに対する情は一切ない。
城の者達と変わらない無礼な態度にはうんざりしていた。だが、少しだけ可哀想だという感情もある。
あれだけ尽くしていたリーシェに捨てられるのだから。
ユーリアシェの中の以前の想いがそれだけになったのは、彼女の自我がほとんど残らなかったからだろう。
幼い頃にただ一度だけ優しくしてくれた男の子。ユーリアシェは冷たい城の中で、初めて心が温かくなった。それを抱き続けたから諦念を覚えるまで夢を見ることができたのだ。
あれこれと考えていたら扉の外にいた近衛騎士から声をかけられる。
勝手に温室に入ってきたのに眉を顰めると慌てて謝罪し言い訳を始める。
「申し訳ありませんっ。取次の侍女がおらず入室の許可を得られませんでした。」
「わたくしが出るまで待機していてと言ったはずよ。王族の言葉に逆らうからには余程の事情があったのでしょうね。」
そんな事情などあるはずないとわかっているが、軽んじられることを是とすることは出来ない。
近衛騎士は答えを持たず只管頭を下げ続ける。
「下がりなさい。わたくしが出るまで待機を。まだ逆らうのなら、騎士団長に言って王族の言葉を聞く必要の無い所で働けるようにしてあげるわ。」
そこが何処になるかわからないが、二度と王都に戻ってはこられないだろう。
「お、お許し下さい!決して逆らうつもりなどーー」
「黙れ!口を開かずここから出ていきなさい!!」
退室もせずに言い訳ばかり並べる男に我慢できずに怒鳴ると、騎士の後ろからもう一人の男が近づいてきた。
その男を認めて、何故この騎士がなかなか退室せず、必死になっていたか合点がいき、ユーリアシェは嘆息する。
「もう良いわ。この者が入室しようとしたなら、そなたでは止められないでしょうね。」
後ろの男ーランセルドを見ながら冷笑を浮かべる。




