王都観光へ!
82話目です。ゆっくり王都を見てまわりたいイネスたち。王都にはどんな楽しい場所があるのかな?
翌日エントランスに集合した私たち。今日はイベントの会場下見を兼ねての街観光だ。
先にはやはりルーグさんがいた。
「おう、おはようイネス、ユイラン。よく眠れたか?」
「おはようございます。寝心地は最高でしたよ、ぐっすり過ぎて目覚めた時に一瞬何処か忘れていました。」
「おはようございます!」
「あれ?何を飲まれているんですか?」
「ん?これはジュラ。酸味のある煎り茶だよ。飲んでみるか?」
「ではお言葉に甘えて…こっちのコップに入れさせてもらいますね。」
【収納】から小さめのコップを出す。流石に同じコップで直接飲むのはいけないよね。
「ちぇ、間接キス狙ってたのに。」
「そんなこと言ったらせっかくのお茶が台無しですよ!まったく…ではいただきます。」
移したお茶を一口ごくり飲む。
さっぱりとしたレモンのような酸味がほのかに感じ、後味が烏龍茶みたいだ。でも色は緑茶のような綺麗な緑色。
和菓子みたいなお菓子が合いそうだ。
「美味しい。でもあまり見かけない飲み物ですね。」
「俺の故郷の飲み物だよ。こっちでは多くは流通していないからな。まだ茶葉の余裕あるから分けようか?」
「いいんですか、ぜひに!」
「じゃあ、キス一回分もーらい!」
「何言ってんですか!?もう!」
そんなことを言っているとアレンがやってきた。
「おはよう、朝から元気だな。」
「おはようアレン。…そっちは大丈夫?具合悪い?」
「いや、ただの二日酔い。案内は大丈夫だから。」
「おはよう。これ飲んでみろよ、少しはマシになるぞ。」
「ありがとうございます。いただきます。」
ジュラを飲むアレンを横目に今日行くところを確認する。
「まず最初は中央商店街だな。一番店数も多いし今は出店の準備もされているから、どんなものがあるかチェックしておこう。」
「武具・防具、飲食、服飾、雑貨なんでもござれ!的な感じで、いろんな種類の店が勢揃い。エミリーから薦められている服屋もあるからそこで買おう。」
「ああ、お祭り用の衣装ね。可愛いの選ぼうね、ユイランちゃん。」
「うん!楽しみ!」
「そのあと上層の“貴族街”に行って、王城広場に闘技場でここに帰るで1日終了!だな。」
「えっと、“貴族街”って言って大丈夫なんですか?貴族の方の住んでいるところではないんですか?」
「違う違う。それは通称でな、中央商店街より高価なんだが専門的に扱う店や娼館があるんだよ。中央商店街にないものはそこで買うのがここでの買い方だな。」
「ルーグさんてほんとよく知っているよね。俺より詳しいんじゃないか?」
「そんなんじゃないよ。気になったら調べないと落ち着かないタチだからな。」
「それにしても今年は賑やかさがすごいな。噂も相まって祭りが始まったら警備も大変だろうな。」
「気にするのはそこなのが、冒険者っていうかアレンっぽいね。」
「ねえ、ママ?まだお話する?早く行きたい。」
「う〜ん、ルーグさんの言ったルートで私たちはいいですけど、どうします?」
「ははは!じゃ、早速行こうか。朝飯は中央商店街で買って食べ歩きで。」
『さんせ〜い!』
『黎明の雫』から出発してしばらくして一際にぎわっている通りに入る。
外門近くより多くの金槌の音や人の笑い声、そして…。
「ふわ〜、いい匂いがする〜。」
「うう、お腹なりそう。」
「ユイランちゃんもイネスももう少し我慢してね。ここが王都で1番賑わう中央商店街だよ。」
中央商店街は放射線状に八方に通路がありその通り沿いに商業施設が並んでいて、今通っている通りは商店街の一部らしい。ざっとみてこの通りには飲食店や雑貨店が多く並んでいそうだが、各通りにも色んなお店が並んでいる。
通りの先、集合地点には統括する市役所や冒険者ギルドの他は観光案内所があり、そこでガイドを雇うことができるらしい。
「あそこの店がちょうど良さそうだな。ちょっとまっててくれ、朝飯買ってくる。」
「ルーグさんまった!昨日は全部奢ってくれたんですから、今日は私払いますよ!」
「俺も…少しなら。」
私の提案にアレンも財布を確認しながら賛同する。
その様子を見てルーグさんは笑った。
「おいおい、そんなに気を使うなよ。それにイネスには貢いでいるんだから受け取れって。」
「サラリと何言ってんですか。」
「え、俺って蚊帳の外扱い?シクシク。」
「乗らないでアレン!」
「お腹すいた〜。」
「ああ、ごめん!とにかくここでルーグさんまっててください!私が買ってきますので。」
「はいはい。お願いします。」
買ってきたのは、ナンのようなもちっとした生地に野菜とベーコンが挟まれている見た目ハンバーガーのようなパン。
片手で食べられてるし価格もお手軽。中身もいろんな種類があったけど一番人気のものを作ってもらった。
ガブリと噛みつき、もちっとしているほっぺをさらに膨らまして食べるユイランちゃん。うん、可愛い。
「ふぉいひい!」
「ゆっくり食べてね。…ん!ほんと美味しい。」
「あ〜胃に染みる〜。」
「それ大丈夫かよ?」
各々感想を述べながら進む。
もちもちの食感の中で野菜のシャキシャキ感やほどよい酸味のあるソース、ベーコンの肉の旨みが全体のいいところを引き立てていて美味しい。
あっという間に食べ終わり、中央の集合地点に辿り着く。
大きい建物が2軒と小さい建物が1軒並んで建っていて、大きい方が市役所と冒険者ギルドで小さい建物が観光案内所だという。
市役所は縦長で白い壁が特徴の建物で窓からでも慌ただしく動く人が見えている。
冒険者ギルドは正方形な建物でやたらと武器の形の装飾がされている。大きい扉の前には冒険者らしき人が数人行き来している。
観光案内所は小さいが最も人の行き来が激しい。入れ替わり立ち替わりでガイドっぽい帽子や服装の人が帰ってきてはまた出ていくのを繰り返しているようだ。
どの場所も建国祭で慌ただしく、でも嬉々として動いている。働くことが生き甲斐みたいな感じで羨ましいくらいだ。
冒険者ギルドを見ながらふと思ったことを聞いてみる。
「そういえば、アレン。使節団の護衛を依頼として受けていたんだよね?達成報告しなくていいの?」
「報告は終わっているんだ…ロッドがしていたみたいでエミリーから聞いた。だから俺は今はフリーなんだよね。」
「いつの間に聞いたんですか?ずっと一緒にいましたよね?」
「夕飯後みんなで『黎明の雫』に帰った後に俺1人で外に出たんだ。そん時に偶然あって聞いた。…他のことも。」
「他?」
「…ここでは言えない。あとでいうよ。」
最後の声のトーンが重苦しい感じがした。何かよくないことがあったのか、改めて聞いた方がいいようだ。
入ってきたところから反対側に移動し、ひよこの看板がある店の前で止まる。窓から見える服の多さから見て服屋さんのようだ。
「ここがエミリーオススメの服屋だよ。お店には言ってあるらしいから入ろうか。」
そういって扉を開けると、上についていた鈴がカランカランと鳴る。
お祭りの伝統衣装がずらりと並び、店内が緑一色でちょっと目がチカチカする。子供用・大人用・女性用・男性用と分けて置かれており、奥には試着室が3つ置いてある。
いくつか手に取りながらまずはユイランちゃんのを選んでいく。サイズやユイランちゃんの好みを確認しつつ試着してもらう。出てきた姿に感嘆の声が上がる。
「か〜わ〜い〜い〜!!」
「ものすごく声が出てるな、イネス。でも可愛いぞ。よく似合っている。」
「うんうん、良い感じ。裾の紫のラインもいいね、ユイランちゃんの髪と同じ色で。」
「…服じゃなくてユイランちゃんを褒めないと…。」
「そう言うとこだぞ、アレンさん。」
ふんわりとしたワンピースで、アレンの言う通り服の裾の部分には紫の2本のラインが入り、首元や胸の部分に花のレース、腰の後ろ側に白い大きめのリボンがついてていいアクセントになっている。靴は丸いパンプスで色は淡い紫。
帽子もセットで、こちらも紫のラインとワンポイントにレースの花がついている。さながらリゾート地にいるお嬢様のようだ。
「これがいい!…いいよね?」
「いいよ。じゃユイランちゃんは決定ね。次はルーグさんで。」
「え?俺?イネスが先でいいぞ。」
「だって先に決めておかないとバックレそうで。それに私は目星つけてますので。ささ、あっちの見に行きましょ!」
「はいはい。わかりました。」
男性用はそこまで緑色の面積は多くない。ジャケットやズボンで彩りを添えている服ばかりだ。
でも獣人用の服もあるためか、すんなり決まり試着してもらう。
こちらは白シャツの上に袖のない薄緑色のベストで左胸の部分に太陽のようなブローチがついている。ズボンは茶色に黄緑をうっすら混ぜたような色合いで、全体的な服の爽やかさとルーグさんの顔面のワイルドさのギャップがいい意味でやばい。靴も黒のブーツで男らしさが増す。
「おお。さっきと違って爽やか。」
「かっこいいよ!」
「ありがとう、ユイラン。ほらイネスも言っていいんだぞ?」
「催促しないでください。…まあでも、似合っているしカッコイイですよ。」
「はは、ありがとう。」
さて私はアレにしますか。
目をつけていたものを手に取り試着室へ。ささっと着替えて、どんな反応をされるかドキドキしながら出る。
「へぇ!イイね。見たことない、清楚な感じ。」
「うん!ママ可愛い!」
「うふふ、ありがと。」
私が選んだのは白シャツに薄緑色のカーディガンで花の刺繍がされていて、シャツの手首部分には花の蔦の模様がある。下は裾が大きく広がっている青いズボンで、ぱっと見だとロングスカートに見える。…スカートはまた今度で。靴も合わせようと茶色のショートブーツにした。
「お祭りに溶け込みやすいかなって思ったんだけど、その反応だと思った以上に良さそうだね。…ルーグさん?どしたの?」
さっきから黙っているルーグさんが気になり声をかける。
顔を手で覆って横を向いているのでよく表情が見えないが、尻尾が左右にパタパタと揺れている。これは…いい反応なのか?犬とか飼ったことないから分からない。
覗き込もうとすると体ごと避けられる、別の角度から入り込んでは避けられる。何度か周りをぐるぐるしていると、観念したのかルーグさんが両手を上げた。
「わかった、わかった!もうしない、俺の負けだ!」
「いや、何してんのかなーって思ってたんですけど。」
「う〜〜っ。可愛すぎるのが悪いんだ!」
「そりゃ、自慢の娘ですから!」
「ユイランじゃなくて、イネスがだよ!ああもう、当日はそれ着んな!他のやつに見せるな!」
「いや、着るために買うんですから無茶言わないでくださいよ。」
ルーグさんの文句にツッコミを入れたけど、私に見惚れていたことと、見るであろう男に対しての嫉妬だとわかると照れ臭くなって顔が熱くなる。着替えるためを口実に試着室に逃げる。
(普段はどんと構えているくせに、なんであんな反応するのよ!もう!)
早まる鼓動を抑えようと深呼吸しながら着替える。出てきた時にはいつものルーグさんだったのでホッとする。
「それじゃ、会計を済ませてくるんで店の外で待っててください。」
「それなら俺は先に3つ隣の防具屋に行ってきていいかな?店先に良さそうなのが見えたからさ。」
「それは俺も興味あるから一緒に行くぞ。ユイランはどうする?」
「ママと一緒がいいから、お店の前で待ってる。」
「そうか…まあ待つだけなら一人でも大丈夫か。絶対怪しいやつとか連れて行こうとするやつには気をつけろよ。」
「すぐ済ませるから、ルーグさんの言う通り気をつけてまっててね。」
「うん!」
ユイランちゃんたちがお店を出る音を聞きつつ、服を持って会計のテーブルへと向かった。
読んでいただきありがとうございます。腹ごしらえして次は…?
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