弟子ができました。
41話目です。王子よ、最初のキャラはどこいった?
「師匠!こちらから街の近くにある茶屋に行けるのでよりましょう。」
「師匠!お下がりください。ボアは俺がやります。」
「師匠!さすがです!上位特化スキルを二つもお持ちなんて!」
「師匠!」
「いや、王子がゴブリンを師匠呼びはやっぱおかしい!!」
昨夜。突然クルス王子から弟子にしてくれと頭を下げられた。
唐突すぎて混乱する私。だって私がやったのはイラッとして鳩尾一発よ?むしろ怒られる方よ?
「え〜と、周りにいなかったタイプだからって、そこまで親しくしようとしなくていいのでは?」
「いいえ!俺にはわかります。師匠は他を抜きん出るほどの偉人だということを!
他人が素知らぬふりをするくらいどうしようもない俺に、真っ向からぶつかり正しき道を諭し、己の足りない力を武力で示してくださったあの勇姿!今でも瞼に焼き付いています!
ですので是非あなたに心身を鍛えてもらいたいのです!お願いします!」
「そんなに力説されても…。」
困った。まさかの安直タイプか、強いものに巻かれたいタイプかこの人?
いくらエルニーラ王国に行くまでとはいえ、王子が…って。
「さっき戦争を望む者がいるって言ってましたよね?この状況も利用されるのでは?
王子が他国のスパイの魔物にたぶらかされて〜だの、王子が保護登録の魔物を故意に傷つけようとして〜だので。」
「それは大丈夫です。書き置きしてきましたから!『保護登録された魔物の方に弟子入りします』って。」
「文面もおかしいけど、手紙自体もみ消されちゃうよね?それ!」
「それは…この先の街で手紙をたのみましょう!師匠は無実で俺は弟子入りできたって!」
「え、弟子入り認めてないよ?」
「そ、そんなぁ?!」
焚き火がパチパチと音を立てて燃えている。その光で照らされつつ雲が少し出ている夜空の下でクルス王子の嘆願は続く。
「お願いします!雑用も戦闘もできますので!師匠に教わりたいのです!」
「そもそも私に教えることなんて王族の英才教育以上はないですよ?そつなくこなしてきたってことは大抵わかっていらっしゃいますよね?」
「そんなことないです!知識はあっても実行できる体と精神がまだまだです。師匠と比べれば一目瞭然で俺が未熟者だってわかります。」
「いや私だってそこまで言われるやつじゃないですよ?体裁的にも帝国の王子が下等生物と言われている奴に媚びへつらってと罵倒されるとまずいのでは?」
「そんなこと言わせておけばいいですよ。俺は気にしません。」
「えぇ〜。ちょっと前までそっち(罵倒する)側だったでしょ?君。」
「うぐ。その節は本当にすみませんでした…。」
しおしおと縮こまっていくクルス王子。演技ではなさそうだけど余計に厄介だ。
すぐ返した方がいいんだけど、この熱気ではすぐ追いかけてきそうだな。ああ、もう!!
「わかった。同行は認めます、でも弟子かは別…」
「ありがとうございます!弟子として師匠のお役に立つように精進します!よろしくお願いします!」
「いや、弟子じゃなくてあくまで同行者としてですね…」
「それと先ほどから敬語で話されてますが、弟子となった俺にそれは不要です!砕いた口調でお話しください!師匠なんですから!」
「君、王子ですよ?それはむず…」
「お・ね・が・い・し・ま・す!」
先ほどから話を遮られている上に、最後は威圧たっぷりに念を押される。
はぁっとため息を吐く。
「わかり…わかった。弟子でいいし、タメ口で話すよ。」
「よっしゃ!!勝ち取った!」
「心の声漏れてるよ。でもあくまでエルニーラ王国までで、もしその途中で抜けたくなっても構わないからね。その時は教え終わったってことで師弟関係も解消で。あとそっちも敬語じゃなくていいし師匠呼びもしないでいいから。」
「了解!でも師匠呼びは譲れないので!」
「あっ、そう。」
一夜明け、結局クルス王子…いやクルスと師弟関係となった。師匠呼びと敬語は継続されたけど。
どうしてこうなったの?帰りたいだけなのに〜!
「見えてきました!あの街で休息にしましょう!」
途中で寄った茶屋の焼き菓子を食べながら嬉しそうに先を指差す姿に、この先の波乱な予感に不安を隠せないのであった。
〜〜オズカル近くの林〜〜
「この穴から落ちたかな?…これ以外で姿消せないよな。あの混戦でよく考えたな。」
死神男が空けられた大穴を見下ろしながらつぶやく。
デーモンウルフを焚き付けてあのおばさんを殺して魂を回収するつもりだったのに、魂が出てこなかった。つまりまだ生きている。
でも痕跡がない、オズカルの街から外に行く前までに途切れている。しばらく周辺も含めて探したが見つからなかった。もうここしかないだろう。
何か痕跡を消す細工された?それとも遠い場所にいるか、その両方か。
「下から微量な魔力を感じる。感じからして何かの術式かな?降りればわかるか。」
そういうと足から大穴に飛び降りる。しばらくの落下して瓦礫に埋もれた地面が見え始めると、ぼぉっと体が怪しく光り落ちる速度がゆっくりになる。スッと着地する。
一度周りを見渡して手をかざす。すると瓦礫が塵となって消えた。下にある魔法陣を見つけ触れてみる。
「うん、転移型だな。この先にいるな、魔力も少し入れれば…」
手のひらから魔力を送ると、魔法陣全体が光りだす。きちんと起動したようだ。
躊躇なく魔法陣の上に乗る。周りが一層光り、一瞬の浮遊感。光が消え、広い空間に出る。
広い空間は洞窟の奥のようで、外を目指して歩く。程なく出口から木々に囲まれた外に出た。
「さてこっからどの方向…うん?」
近くの茂みがガサガサ動く。1匹の赤いスライムが出てきた。
「あぁ。雑魚かぁ…てあれれぇ?」
同じ茂みからどんどん出てくる色とりどりのスライムたち。別の茂みからも出始め、視界いっぱいにスライムが。
一歩後退りするとがさっと音が。
「何だ?張り紙?
『繁殖行動活発期により、スライム大量発生・凶暴化しています。単独行動は控え、遭遇した場合即逃げてください。もしも怪我をした場合は近くの村ヒヌまで頑張ってきてください!』
ははぁ、だからこの数ね。でもこのぐらいなら一発で…あれ?」
手にひらに魔力をこめてみるが、光らないし魔力の感じがしない。
まさか魔力切れ?この状況で?!
「に、逃げるっきゃない。バイバ〜イ!みのがして〜!!」
追いかけてくるスライム群に追いかけられながら、森の中を全力疾走。
「もう!おばさんのせいだ!!早く見つけて回収してやる〜〜!!」
読んでいただきありがとうございます。師匠となったイネス。弟子クルスをうまく扱えるのか?頑張れ師匠!
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