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過去と裏切り

27話目です。なんとかヒュドラから逃れた2人。早く戻らねば!

「うぅ、だるぅい…。」


目が覚めてゆっくり起き上がる。

ヒュドラの紫炎に対抗しようなど、我ながら無謀なことをした。体がとても重い。

今いるのはどこ?ちょっとした空間で入り口らしき部分は裂け目っぽい形だ。どこかの岩壁にあったものだろう。中には光るキノコで照らされている。


短髪男がいない。もしかして気を失っている間に何かあったんじゃ?と焦って立ちあがろうとしたら、ちょうど入ってきた。無事でよかった。

私が起きたのに気づいて、ジロジロ見てくる。なんだ?と引き気味に思っていたら、ドカッと座るとボソリと何かいった。


「え、何ですか?」

「ぅ〜〜!体は大丈夫かって聞いてんだ!」


聞き直されて気まずいのか、キレ気味に言われた。何だかおかしくてブハッと笑ってしまう。すかさずギロリと睨まれた。


「あぁすみません。体は重く感じますが、もう少し休めば動けます。」

「そうかよ。」


返事を聞いてプイッとそっぽを向く短髪男。とりあえず回復に専念しようと横になる。

しばらくお互い何も喋らずにいたが、短髪男が口を開いた。


「あそこまでして、何で俺をかばったんだ?下手したらお前死んでんぞ。」

「何でって、アレが一か八かだけど可能性のある方法だと思ったし、死なせたくなかったからですよ。」


「今までの嫌な仕打ちでもそう考えるのかよ。」

「まぁ、それはそれ、これはこれってことですよ。それにあそこで死んじゃったら誰が危険を知らせられるんですか。だったらどちらか片方でも生かさなきゃって思うでしょ?」

「…それはそうだが…。」


納得いかないようだが、本心で事実だ。あんなやばいやつをこのままにしては絶対にいけない。何とか上に戻って騎士の人達や町に知らせなきゃ。最悪町ごと封鎖しなくては。


「…お前、ほんとに魔物だよな?」

「見ての通りのメスゴブリンです。」


「魔物なんて、特にゴブリンなんてただ破壊したり蹂躙するしか考えない、行動しないやつしかいないんだって。」

「否定はしませんよ。でも私はそういうのはしたくないし、ちょおっと違うますからね、普通のやつとは。」

「いくら特殊でも人族と同じ考え方、接し方をする、良いやつがいる訳が…。ああ、もう!」


ガシガシと頭を掻く。普通なら敵側であるやつが味方のようにフォローしたりして気持ちが混乱しているんだろう。

認めたくないのと、見たものを感じたことを否定できないことが。

落ち着かない様子を横目で見ながら、一歩踏み込んで聞いてみる。


「そこまで複雑に考えるほど、魔物を嫌う理由は何ですか?何をされたんですか?」


ピタッと動きが止まる。キッとこちらを見てくるので、真剣に見返す。

こんな時にしか聞けない気がした、というより聞かないとこれから進めない。彼の魔物に対する憎悪が足枷になる。


ただの興味本位で聞いているわけではないとわかったのか、視線を手元におき俯きながら話し始めた。


「…俺はこの町に来る前までは地元の田舎村で、親と妹と暮らしていたんだ。平和でのどかすぎ。ほんとに家が数件と集会所があるくらいであとは畑ばっかり。畑も芋とか大根とかだし、子供だって妹以外では5人くらいしかいないし、娯楽って言ったらたまにくる吟遊詩人の歌を聞くくらいしかなかった。

でも村人全員が家族みたいで、助け合っていたんだ。作物の分け合いも魔物狩りも、みんなで。」


「あの日だって、食糧調達のためにボア狩りに出かけてた。一緒に行く奴らが怪我とか家族の病気の看病とかでいけなくなったんだが、俺は強いから1人で行けるっていったんだ。

狩りを終わらせて帰っている途中で、村の方向が赤く光っているのが見えた。嫌な予感がして急いで帰ったらみんな燃えていた。村も畑も人も家族も。」


「その中でゴブリン達が笑ってたんだ。村の人の体を踏みつけながら、妹の頭を掴みながら!親の体切り刻みながら!!

俺は無我夢中でゴブリンたちと戦った。みんなの仇をこの手で討つために。

でもしばらくして限界がきて倒れちまった。足も腕も動かせなくって膝をついて睨むしかできなくなった。

もうダメだと思った時、助けがきたんだ。それがミュアン先輩だった。一太刀でゴブリンたちを倒す姿は本当に凄かった!他の騎士たちも火消しや戦闘したりで助けてくれた。

たまたま地方巡回警備に来ていてこの騒動に気づいて駆けつけてくれたんだ。」


「全部が終わったとき、俺はもうボロボロになった家族の前で、妹の亡骸を抱えて泣いた。

そして誓ったんだ。俺みたいなやつを、こんな悲劇をもう二度と出さないって。害悪な魔物は全部倒すんだって。

そのまま先輩に騎士団に入れるよう直訴して、領主様に御目通り叶って騎士になったんだ。」


一旦ふぅ〜と息を吐き、気持ちを落ち着かせる。


「俺はゴブリンが一番憎い。だから、お前のような人の良いゴブリンがいるのが信じられなかった。今までの考えが覆されてるみたいで。お前みたいな奴があの時いたら、あんなことにはならなかったのにって。

だから今までのは八つ当たりだった。こき使って苦しませて、今までの考えで正しいんだと思いたかった、何も考えずに楽になりたかった。」


「でもお前はずっと、優先するのは町の人や俺たちだった。手伝いも警備も一生懸命で、さっきも俺を守ろうとして死にかけて。俺の知っている奴らとはかけ離れていて戸惑っている。」


「お前が他の奴らとは違う、信用しても良いかもしれないとは思う。

でもそうするとこれから先剣を振るうのに躊躇ってしまうのではないかと、恐れてもいるんだ。」


話し終えて黙り込む短髪男。

やはりゴブリンに酷いことされたんだ。同族だけど擁護するつもりはない、けど何か引っかかった。


「ゴブリンたちはその村に以前から出現してましたか?」

「え、いや全くなかった。出るとしてもボアやアルミラージとか草食系だった、畑の作物目当てで。」


その答えに嫌な考えが浮かぶ。

本来ゴブリンはあまり積極的に遠方に狩りとか移居はしない。安全に生活するところを見つけたら、住み着きその周辺で狩りをする。だからゴブリンを見かけたら周辺を徹底的に探すと必ずゴブリンの棲み家が見つかる。

稀に新たな棲み家を探すためにうろつくゴブリンがいるが少数で行動する。

しかもゴブリンは炎は苦手だ。おそらく遺伝でそうなのだろう、怯みやすいので火炎系攻撃がよく効く。だから狩りに炎は使わないし使うとしても照明としてだ。


滅多に出なかった村に突然現れた大量のゴブリン。炎に包まれた村。偶然巡回警備で現れた騎士団。

もしこれらが仕組まれているなら?炎の元は…。


これは思ったより厄介かもしれない。勘違いかもしれないが嫌な予感が拭えない。早く戻って確かめないと。

だからまずは。


「なら今は信用してくれませんか?期間限定ってやつです。」

「は?期間限定?」

「はい、これからまたヒュドラと戦うんですよ。背中を預けられるやつとなら心配なく戦えるなら、ヒュドラを倒すまで信用してください。それ以降はまた疑ってもいい。」


「今までのことを、急に改めるなんてなかなかできません、辛かったことなら特に。でも今は急を要する。

だから少しでも良いと思うなら、どうでしょう?」

「…。」


しばし無言で考える短髪男。警戒心が少し解けただけでもこちらは上場だ。

本当は完全な和解がいいが無理だろう。信頼は時間かけて、対話や気持ちのやりとりを重ねて積み上げるものだ。


「…ヴァイス。」

「え?」

「俺だって騎士だ。町や人々を守る気持ちは誰にも負けない。そのためになら少しは信用してやる。

今だけ名前は許してやる。いいな…イネス。」

「!わかりました。ヴァイス。よろしく!」

「あんまり調子に乗るなよ…。」


渋い顔をするヴァイス。それでもいい方に進歩できて嬉しい!


「ほんとに調子が狂う。さっきも同じセリフを言うし…」

「え?セリフ?」

「ヒュドラの攻撃を耐えていた時だ。俺に言ったろ?『あんたは騎士だろうが』って。

騎士見習いで初めて戦闘に出た時足がすくんで動けなかったんだ。先輩にその時に言われたんだ。

『お前はそこで守られるのか?違うだろ、人を守るための剣が、盾が騎士だ。敵の命も恐怖も自身の限界も乗り越えなければなれないんだぞ。見習いでも、あんたは騎士だろうが!しっかりしろ!』

って顔にアッパーくらいながら言われたんだ。」

「最後のインパクト!」


「まぁ、それに背中を押されて今は騎士になれたんだよ。あのひとは尊敬する恩人なんだ。」

「だったら、なおさら早く上に行って、先輩さんと合流しないと。」

「お前ごときが先輩さんって言うな。あの人はミュアンって立派な名前があんだよ。でも呼ぶのは許さん!」


いや、どう呼べと言うのだ?と心の中で意味不明な要求をツッコむ。


「あとお前が寝ている間に上に続く階段を見つけた。そこから上がるぞ、行けるか?」

「はい、行きましょう。」


階段は潜んでいたところから少し進んだところにあった。人が通れるくらいの大きさだ。状態から見るに日常的に使われてそうだ。と言うことはヒュドラの存在を知っている人物がいる?


階段を登ると茶色いドアがあり、中に入ると壁一面に大きめの地図、何かの資料やリストっぽい紙がたくさん貼ってある。床や一台しかない大きめのテーブルにもたくさん積まれている。

資料をよく見ると、どうやらヒュドラの観察報告や町やその周辺の近況報告、騎士の情報まである。


地図を見ながら立ち尽くしているヴァイス。私も近づいて地図を見る。

地図には印がいくつもついている。丸の部分は村か町の名前と日付らしい数字の横に(予)書かれたものと別の数字。丸の上に書かれたバツの部分はもう一つ日付が書かれている。


「この日付…村が襲われた日だ。名前と位置も合っている。こっちの数字は村人数だ。しかもこっちの日付は確か巡回警備本来の予定だった日付、先輩が予定がズレてきたんだって言ってたから、間違いない。それにこの字と報告っぽい紙の字はまさか…。」


バツのついた一箇所を見ながらヴァイスはいう。

ここの持ち主は騎士団の予定も把握している。その上でこの資料。もしかして…。


嫌な予感が確信になりつつある。早くここから出よう!でもこの先から出口が見当たらない。


手分けして部屋内を捜索する。すると壁の一箇所に他とは似ているけど違う壁紙が貼ってある場所を見つけた。

押してみるとすぐ横の本棚が横に動き、入口が現れた。


「よくわかったな!」

「こういう隠し部屋系はこのギミックがあるって相場が決まっているんです!」

「どんな相場だよ?それ。」


隠し部屋から出ると、随分と立派な部屋に出た。絵画や高価そうな家具、高級感あふれるテーブルや椅子が置いてある。


「ここって領主様の執務室?!何回か先輩と一緒にきたことがある。」

「領主様?」

「お前も会ったことあるだろ?デミラ様だ。」


あのむかつくデブ男か!領主なんかい!もうこれで確定したも同然だ。

コンコンとドアがノックされ、誰か入ってきた。警戒して身構えると姿を表したのは…。


「先輩!ちょうどよかった、大変なんです!ヒュドラが町の下に。」


静かに入ってきたのは、女騎士ことミュアンさん。表情がなんだか冷たい。


「ヒュドラ?」

「はい。信じられないかもしれませんが、町の下に大きい空間があってそこにいます!しかもおそらく領主様はこのことを知ってて黙っています。このままでは町の人に危害が!」


「そうか、見てしまったか。馬小屋から下に落ちたと聞いた時は死んだかと思って放っておいたのに、生きていてしかも目撃しているとは。目測を見誤ったな。」

「先輩?何言って…?」


そう言ってミュアンさんは剣を抜き、私たちに切っ先を向けた。


「知っているさ。私がヒュドラを管理しているのだから。」

読んでいただきありがとうございます。ヴァイスとの歩寄りができたのに、先輩の突然の行動にどうするイネス?!

更新スピードが遅くならないように、この後の展開を頑張ります!

誤字脱字などありましたらぜひご指摘おねがいします。

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