やってやりましょう!
15話目です。模擬試合をすることになった主人公たちだがその前に休息を。
「わりぃ、変に巻き込んじまって。」
顔に湿布をはったアレンさんが申し訳なさそうに言う。治そうとしたらリューガさんに『喧嘩の傷は癒す必要はない!』と止められた。今はみんなで街を歩いている。
「喧嘩の経緯はききました。怒ってくださったことはうれしいですが、手を出すならせめてわからないようにしないと。」
(いや、エミリーさん。さらっと怖いこと言ってますが!実はめちゃ怒ってますね?!)
気持ちはわかるので口には出さない。
「なんだか私のせいでもありますわよね。ギルドの皆さんが良くしてくれているのに甘えて、周りからの印象に気を配っていませんでしたわ。」
「絶対にお嬢様のせいではない。下卑た考えで絡んできたあいつらが完全に悪い。だから気にする必要などない。」
「ロッドさんの言うとおりです!私だってその場にいたら岩の塊をぶつけてるか、一生忘れられない恥ずかしい格好にしてやりますよ!」
「ロッドさん、イネス。ありがとうございますわ。」
「でもイネスは大丈夫ですか?いきなり大勢の前で模擬試合だなんて。」
「まぁ驚きましたけど、私もあいつらに一発食らわさないと気が済みませんし、是非参加しますよ。」
「ごめん、よろしくね。いつもみたいで大丈夫だから。あんまりやりすぎると目をつけられるだろうし。」
「大丈夫ですよ、ちょっと考えているやり方もありますし。」
「何だ、それは?」
「内緒です。当日をお楽しみに。」
とりあえず当初の目的の街の散策と買い物に行く。
オズカルの街は円形になっていて、中央に近いほど共同商業施設が多く、四方の通行門近くにはそれぞれ馬屋・馬車乗り合い場があり、四方で種族別に住宅街が並んでいる。
北側はエルフ族や妖精族、西側は人族やドワーフ、東側は魔族、南側は獣人族と住みやすいように分けられている。
分けられているが必ず自分と同じ種族の場所に住む必要はなく、むしろ異種族の中で暮らそうとする者が最近増えているらしい。
中央付近には生活に必要なものや冒険者・旅人必須のお店が多く、宿屋も点在している。
まずはステラさんとエミリーさんの出立準備を手伝うことにする。
「よろしいのですか?そちらの準備の方が大事なのでは?」
エミリーさんが数日分の食糧や備品を見繕いながらアレンさんに聞く。私は隣で買ったものを紙にまとめている。
「こっちの方が量も多いし、俺たちが一緒にいない分準備はしっかりしてあげたいんだよ。それに運ぶのも人数ある方がいいでしょ?」
「まぁ、お嬢様ばかりに持たせるわけには行きませんしね。」
ちらりと、食料などをつめた箱を2個持つロッドさんと【剛腕】スキルで片手で三個ずつ持つステラさんを見る。ロッドさんの背中が心なしかしょんぼりしている。【剛腕】すげえ!
自分達もそれぞれ必要なものを買い、買った荷物を運び屋に頼んで、次に洋服やお土産などを見ることに。
「ここならイネスに合いそうな服があると思いますわ!」
この街で必ず来ると言う、大きいオレンジ一色の建物の服飾店にきた。外から中をのぞくと可愛らしい服が多く並んでいる。
「服は動きやすいものがいいですし、そもそも私に合わないと思うんですが?」
「合うかどうかは関係ないのです!一着でも持っていた方がいいですし、私が見立てたいんですわ!」
可愛い子にキラキラした目で言われたら断れないじゃん!あまりのキラキラの眩しさに手で直視しないように覆う。
アレンさんとエミリーさんは微笑ましく見ているし、ロッドさんはそっぽ向いている。
ステラさんとエミリーさんに連れられ店内へ。お店の人をびっくりさせないように即試着室に入って待機。あとは交互に持って来られる服を着ては見せて脱いでの繰り返しを何度もすることに。2人が満足する頃には私はぐったりしていた。服選びってこんなに重労働だったっけ?!
ステラさんとエミリーさんの服も一緒に見立ててそれぞれ数着ずつ購入。お店をやっと出てきたら、いつの間にか別行動していたアレンさんとロッドさんと合流。
「お疲れ様。店に入っている間にイネスが着れそうな防具とか服を買っといたよ。」
「ありがとうございます!お金はお返しします。」
「いいよ、俺からのお礼とお詫びってことで。ただ男物だから大きく感じるかもだけど。」
「わかりました。ありがたく頂戴しますね。でもいずれお金は必要ですし、持っているものは換金しときたいんですが、どこでお金に替えれますか?」
「それならあそこだな。ギルド裏の…」
「あぁ、ぬい婆の!でも今日いるかな?」
「『ぬい婆』?」
「婆って言っているけど、声がおばあちゃんぽいだけでわかんないんだよね。いつも着ぐるみ着てるから。」
「着ぐるみから『ぬい』?」
「それは見たらわかる。」
準備があらかた終わったステラさんとエミリーさんとは別れることに。3人でぬい婆さんの換金所に行く。
「この店だよ。」
お店の軒下や窓にもいろんなぬいぐるみがある。動物もの、人物っぽいもの、大小様々な着ぐるみがおいてある。
中に入ると、壁一面にもぬいぐるみ。奥のカウンターの上や棚にもぬいぐるみ。
「無類のぬいぐるみ好きでね、取引内容によってはぬいぐるみを渡せば優遇してくれる時があるんだよ。」
(いや好きすぎるだろ!夜にここにきたらトラウマレベルだよ!)
ぬいぐるみを見ていると、奥から人の気配が。
「どなたですかぁの?」
「すみません、換金したいんですがいいですか。」
「はいはい、今行きますぅの。」
独特の口調でのっそりと現れたのは、青色のうさぎの着ぐるみ。左右に揺れながらぽてぽてと歩いている。私より少し高いくらいかな?でもどこから見ているんだ?
「換金ですぅの?ここのぉカウンターにぃ置いてくださいぃの。」
【収納】からボアの毛皮と血入りの骨瓶数個、アルミラージの毛皮と血入り骨瓶数個、あと薬草を少々をテーブルに出す。
ぬい婆さんが手で一品づつ状態を確認する。たまに頷いたり首を傾げたりする。
終わったらしく、カウンター下にもぐる。のっそり起き上がると四角いトレイにお金が置いてある。
「これだとぉ1ボールガと3,800ビルガですぅの。」
この世界のお金の単位は共通で、1ビルガ=1円の銅貨、1,000ビルガ=千円の小銀貨、1ボールガ=1万円の銀貨、1ダルガ=1千万円の金貨の振り分けで考えられる。あと時価で『クレセント』と呼ばれる大金貨があるらしい。あまり見かけられないとのこと。
「割といい値段だけど、何で?」
「骨瓶、あまり作れないぃの。骨はすぐ壊れるからぁの。もうないぃの?ぬいぐるみはぁの?見たことないのないぃの?」
「えぇ?」
ぬいぐるみを欲する圧の強いぬい婆さんにアレンさんも引き気味だ。ぬいぐるみかぁ。
「ぬいぐるみあげたら、何かありますか?」
「君、声聞きづらいぃの。だからこれ、あげるぅの。買うなら、3,000ビルガなぁの。」
テーブルに白の青い葉っぱの模様のあるチョーカーが置かれる。
「これは?変声器?」
「そうなぁの。つけるだけでいいぃの。」
声かぁ。確かにフードかぶって顔を隠しても、声で怪しまれて買い物もろくにできないし、会話もたまに止めちゃうから申し訳なかったんだよね。よし。
「ちょっと待ってくださいね。」
少し離れて【収納】からさっき買った布数種類、糸、綿をだして【クリエイト】で作成。できたのは黒猫が飛行機にまたがっているぬいぐるみ。
「それなあにぃの!ほしいぃの!!」
カウンターに乗り上げて、勢いで落ちてしまいそうなほどの食いつきに一瞬怯む。この人絶対高齢じゃねぇ!
夜になったのでギルド近くのアレンさんたちが常連としてくる酒場で夕食を取る。もちろん先ほどもらった変声チョーカーはつけている。普通の女性声でよかった。注文したものをつつきながらアレンさんが切り出す。
「さて明日の模擬試合についてだけど、対戦相手は試合直前に向こうから指名で決められるんだ。一応相手側に対するハンデだね。あと互いにどんな装備か、とかは分からないようになっているよ。試合中に見極める技術を身につけさせるためにね。」
「しちゃいけない攻撃とかあるんですか?範囲が広いやつとか。」
「基本的にないよ。訓練用闘技場は外壁と闘技場内では観客席前までに防壁術が施されているから、ギャラリーにあたる心配はしなくていいよ。選手は試合前に生命監視具をつけて戦うんだ。」
「『生命監視具』?」
「選手が死なないようにするためのやつだよ。戦闘不能なくらいに傷を負うか、戦意喪失したら終了。あと審判が何らかの理由で終わらせることもあるよ。」
「武器が使えなくなった場合は?」
「そこは肉弾戦になるね。武器がないから戦わなくていいなんて、実戦でもありえないから。なくても戦えるように鍛えられるからね。」
「だからあんなに相手をボコれたんですね。」
「まぁ、あの時は怒りでついって感じだったからね。でもやりすぎだった。」
「仲間を愚弄された気持ちはわかるが、場所が悪かったな。」
アレンさんが反省したように言うと、フォローするようにロッドさんが言う。私はふと思ったことを口にする。
「でも、ロッドさんってステラさんのこと、女性として好きなんですよね?」
ロッドさんが飲んでいた酒を思いっきり吹き出した。アレンさんがニヤニヤしだす。
「な、なんで、そん、なこと」
「だってステラさんを見る目っていうか表情がもうそういう顔してますし、ステラさんの前だとよくしゃべりますもの。」
「だよねー、わかりやすいよねー。でも本人気づいてないんだよねー。」
「あぁ、鈍感系ヒロイン位置か。そりゃ難儀ですね。ロッドさん、ガンバ!」
「何を言っているんだ?!そんなんじゃないぞ!」
否定しようとしているが、顔をこれでもかと真っ赤にしているので、説得力がまるでない。
「ちなみにないとは思いますが、アレンさんはエミリーさんのことを?」
「わかっていて聞くんだ?もちろん仲間として大事だよ。女性としてっていうのはピンと来ないな。今までそう言う人もいなかったし。」
「え、初恋まだ系で自覚して強くなっていくヒーロー的なやつ?」
「ちょっとよくわかんないなそれ。」
「ま、ともかく明日はあいつらを思いっきり懲らしめてやろう。俺たちを怒らせたらどうなるか、教えてやるのも教育ってやつだね。」
「そうだな。今日抑えていた分、叩き込んでやる。」
「女性としても絶対許せない。やってやりましょう!」
読んでいただきありがとうございます。いよいよ次回から嫌な奴らをボコっていきましょう!
誤字脱字などありましたらぜひご指摘お願いします。