第12話 エピローグ
桜の花が咲いた。三月。花吹雪の中一人みんなの輪を離れ校庭を眺める。
あれから時を経て、今日私は高校卒業の日を迎えた。
死よりも怖いものができた。
それは存在そのものがなくなるということ。
あの一連の出来事のあと日常生活に戻ると、先輩やミキ、森田君のことを知る人は誰一人もいなかった。みんなの記憶から彼らに関することがすっぽりぬけていた。
自問する。
私だけが見た幻だったのか?私はおかしいのか、と。
でも、胸にゆらぐ青い光が真実だと告げている。ミキのくれた青い塊。
人がそこにいること、存在すること。それら全てが当たり前だと思っていた。例え命がつきても何か痕跡が残るのが普通だと。
私以外、誰一人覚えていないのだ。誰一人。
足がすくむような感覚。だれとも分かちあえない喪失感。
けれど、私は生きている。生かされている。
満たされない想いをかかえつつもありふれた毎日を繰り返す。
ただ繰り返すということは積み重なると大きい。
いつのまにか柔軟に現実に適応し、それなりに楽しい高校生活を過ごすことができていた。
だけど、毎日の積み重ねが彼らを遠くしていく。彼らが遠くなっていく。
それは悲しいことだけど、生きていくってそういうことなんだ、きっと。
なのに、アサヒに対する渇望は日を増すごとにつのっていく。
アサヒ。
会いたい。
会いたいよ。
「りさ、私たち帰るけど、まだそこにいる?」
同じグループの子達が声をかけてくれた。
「うん。もうちょっと、ここにいたいからここにいるね。
ありがとう、またね。」
「またね。」
卒業生と在校生。式を終えてみなそれぞれに去っていく。桜に見送られて。
校庭を眺める。先輩も森田くんもミキもいた。
ここにいた!
自然と涙がこぼれる。誰もいなくなった校庭の片隅で私は静かに泣いた。泣くのはこれで最後にしようと誓いながら。
「さよなら。」
私はつぶやくと、校庭に背を向けた。と、同時に突風がふく。無数の花びらが吹き荒れる。ドラマチックに視界が花びらに閉ざされた。
なんて、ピンク色。
その時、私を待っている人がみえた。
ああ、どうして気がつかなかったのだろう。
彼はずっと私のそばにいてくれた。きっと呼べば振り返る。
そして、あの不思議な瞳で私をみつめるのだ。
「アサヒ!」
私の声に、今日はスーツ姿の後藤田先生が振り返った。
ああ、やっと会えた!
End