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第10話

アサヒの目の前で奇妙な展開がくりひろげられていた。突然、とてつもない力を持つ何者かが現れるや、彼の敵は、朝日のことを忘れてしまったようだ。すぐ近くでハイレベルな戦いが行われている。自分には決定的に経験が足りないことを思い知らされる。


傷の手当を行いつつ、戦いに目をやる。新参者はその場から一歩足りとも動いていない。


手をかざすだけで、夏の日の太陽のような強烈な閃光を浴びせ、切れ味するどい鋼の糸を一瞬にしてとかす。まともに見ていてはこちらの目も焼かれてしまう。現にこちらより近くで攻撃をしかけた彼の敵は、その熱でその身をこがしている。風にのりくすぶった焼ける匂いがこちらに届く。


光を操る人はこちらに背を向けていた。彼の人は白いシーツを身にまとったようないでたちをしている。その長い衣装の裾がささやかな風にふかれてなびく風情は緊迫した状況から非常に逸脱していて、優雅ですらある。凛とした背筋は気品と威厳に満ちていた。




ああ。


僕はバカだ。どうしてすぐにリサだと気付かなかったのだろう。違う意識にとらわれているけれど、リサの意識があそこに眠っている!




だけど、僕に出る幕はなかった。両者はするどい攻防を繰り広げていたが、どちらも本気ではないのだ。まるで互いの気持ちを確かめるようなやりとりにみえる。楽しんでいるのが分かる。二人の親密なやりとりに、僕は嫉妬を覚えた。


突如、光を操る人の後方から鋭く太いナイフのような糸が高速でその首筋を貫こうした。後ろに目でもついているのか、彼女は一歩移動してその攻撃をよけた。軽やかな動きだ。糸は地面につきささる。


その時初めて彼女の向きがかわりその姿をみることができた。リサとは別人の容貌。年老いて眼光のするどい人が薄く笑っている。




「ヤヒコ、お遊びはこれまでじゃ。」




そういうと彼の人は左腕にかかえていた銅板を両手で高く持ち上げた。そこから洪水のように一気に光があふれ出る。僕のたくさんある目のいくつかが、その光でつぶれたのが分かった。


僕より近くに対峙していた敵はまともに光をあびて悶絶している。やがてその姿は人間の姿へと変わっていった。


「それが、今の姿か。」


「今のは反則だよ、姫巫女。」


両目を両手でおおいあおむけになった人間が、そうつぶやく。


「許せ。ヤヒコ。


どうやら時間切れだ。我は行く。


来世でもそなたに会えると知って、我はうれしいぞ。」


「待てっ!姫巫女!」


ヤヒコと呼ばれた少年は片手を伸ばし彼の人の白い裾をつかむ。彼女の微笑みが目をつぶした彼に届いたのかは分からない。


彼の人の支配から放たれたリサがぐったり倒れるのをヤヒコはそっとその腕につつんだ。


「二千年待って、たったこれだけなのか。」


ヤヒコのつぶれた目から一筋の赤い血が流れた。


気を取り直すようにひとつ息をはくとヤヒコはするどく夜の闇に向かって叫んだ。


「出てこい。」


それは自分に向けられた言葉。リサがとらわれていては言うことを聞くしかない。


僕は、身を隠していた森から姿を現した。


「そう、殺気だつな。分かっているだろ?どちらが強いのか。


そして、おまえの泣き所はここにある。」


そういって、敵はリサに視線を移す。


「おまえのことはよく分かった。異端ではあるが、見込みはある。生きる意思があるのなら、俺とともに来い。おまえを我が同胞として迎え入れよう。」


「嫌だと言ったら。」


「殺すまでだ。」


・・・。


「彼女を守りたいなら、言うことを聞くことだ。」


「僕はただ彼女のそばにいたいんだ。」


「今のままじゃ、だめだ。己の姿をよくみてみろ。」


小馬鹿にしてヤヒコは笑う。そして真剣なおももちで言葉を重ねる。


「俺とともに来い。我が同胞の忘れ形身だ。おまえの身は俺が責任を持って守る。」


僕は彼女の寝顔をじっと見つめる。心に刻みつけるために。


「分かった。」





リサ。元気で。

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