第1話 プロローグ
目を開ける感覚に似ている。光を感じるような感覚に。
そんなふうに、ある時私の意識は始まった。
誕生の瞬間。
持って生まれた己の姿をよく見る間もなく私はその装置に入れられた。
装置の外から声をかけられる。
「おまえはナンバー千十二だ。」
これが私につけられた名。
なぜなのか、なんのためなのか、ちゃんと理解していた。
私が生まれた意味。与えられた使命。
私は無感動に答える。
「始めて。」
嫌な機械音が頭の中で炸裂する。この衝撃で、生後間もない私の体は消滅するだろう。
「よい旅を。」
耳障りな音がいっきに炸裂する。
痛い!痛い!痛い!
ギュッと両目をつぶりひたすら耐える。痛みになのか、衝撃になのか、理解する間なんてない。ただ、やり過ごすだけ。
そうして、耐えた時間は恐ろしく長く感じられたけれど、もしかするとほんのわずかな時間だったのかもしれない。
肉体を離れた私の意識は異空間へ放り出された。
感覚だけの世界。
姿、形がなくとも、「私」は「私」だと分かる。思考を続けることができるから。肉体を通さずとも外の様子を感じることができるから。
私たちが獲得した生き残る為の新しい生の形。
肉体から解き放たれた生命体。
静かな空間に突如、耳障りな騒音が走る。肉体を持つ者特有の割れた声 が響いた。
「おお、頭ビンゴだぜ。今日が放流日のピークだ。あっはっは。
いけね。笑いがとまらねぇ。さっさとつかまえないと。」
ああ、なんてこと。まちぶせされていた。私たちの天敵が罠をはりめぐらせている。
放流された稚魚。私の他にもここまでやってきた無数の命の存在を身近に感じることができる。私と同じく肉体を捨てたものたちの存在を。
時を同じくして生まれた私の姉妹。同じ宿命を背負う同胞。
ああ、すでにその多くが敵に狩られて一つ、また一つと、命の輝きが失われてゆく。
目の前にいた姉妹が突然消滅した。
ああっ。逃げなくては。こんなところで、終わるなんて嫌だ。
冷静な頭で状況を分析する。
恐らくこの空間に転送されてきた稚魚達はここで半数近くが命を落とすことになるだろう。
目的を達するための確率におののく。
なんて果てしない旅路。
だけど、私は必ず生き抜いてみせる。
そして、残すのだ。
私の血を。
それこそが私の存在意義!
次の世代を残すための熾烈な競争は今まさに始まったばかりだった。