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開かずの扉

作者: さや

我が家には、開かずの扉がある。


「いいかい?3階の一番奥にある部屋

あの部屋は絶対開けちゃいけないよ」


そう言われ、それを律儀に守って私は10歳になった。それまで、親がだめといったものは当然のようにだめと思っていたし、寄り道も買い食いもしたことがなかった。だから、ほんとのほんとに

一回も開けなかった


でも、いつだって気になっていた

それは家族団らんでご飯をたべてるとき、風邪で寝込んで色々考えてしまう時


ふと意識してしまう

まだ見たことのないその先を。


扉には3、4枚御札がはってあって

私はある日両親の不在を確認してその扉の前まで来た。

いけないことだ、はやく引き返さなきゃ

具体的に何が起きるとか言われたわけではないけれど、禍々しい何かを感じる

それに、強く惹きつけられてきた。


自分の家から一歩もでてないのに、それは例えるならば大海原に船を出すような、未開発の土地に足を踏み入れるような、そんな冒険の感覚。


やっぱ、いましかないよね

ちょうど10歳になったこのタイミング

きっと、いまの度胸があればどんな難関が襲いかかってきても、ある程度なんとかなるはずだ。


懐中時計を片手、深い、深い息を吐いて

私は扉に手をかけた

ピリピリと御札がやぶけた。



ギィ……



「!!」


おもわずビビって顔をかばってしまうが

べつになにがきたというわけでもない。

小さな部屋には色々ダンボールがつまれていて、古そうな掃除機とか、粗大ごみぽそうなものがちらほらあった


物置のようだった。



「ついに開けてしまったのか……」


「!?お、お父さん!?」


びっくりして叫ぶ

いつのまに帰ってきたのか、完全に気配を消されてた。

開けるなと日々言われていたそれを開けてしまった。

そしてそれを見られた!

この一見物置にしかみえないこの部屋になにか見られちゃやばいものが隠れているんだろうか?

私はどうなる?

怖くて後ずさりすると、ダンボールにぶつかった。

ダンボールから中身が落ちる


分厚い本とか、割れた加湿器とか


「……」


てか埃くさっ

古いマットレスとか草刈り機とか

なんかこう、ふつうにゴミ

それも捨て方に困るゴミばかりだ。これは一体……?


「美香、お前についに真実を教えるときがきたようだ」


「な、なんなの?真実って」


「この扉の御札はね

ホームセンターで十枚セットで100円だった

ホームセンターはすごいぞ

なんでもある」


「急に何を言い出すの」


「それを貼って完成したのがこの『開かずの扉』さ

一見ただの物置部屋だろう

そして実際この部屋はただの物置部屋だ


でもねお父さんは小さい頃

なんで自分の家に、または近所に『開かずの扉』がないのか、悔しがりつづけた」


「どういう幼少期おくってんのよ」


「身近に『開かずの扉』があったら

絶対楽しい。ロマンがあるじゃないか

毎日家と学校の往復だけかあ。でも家には開かずの扉がある

ほら、もう楽しいだろう

自分に特別感があるだろう」


「成長過程で厨ニを卒業しなかったの……?え、じゃあなに?ほんとはただの物置部屋を

意味深に開かずの扉にしつづけたってこと?」


「まあそういうことになるよ

大変だったんだぞ美香に隠すの、美香がいない隙に開けていらないもの収納してったんだから」


通りでめちゃくちゃな収納のはずだ

ふつうに片付けたい。


私はとりあえず埃くさいので部屋からでて、廊下を歩く


しょーもな……

しょーもない


家に『開かずの扉』があるロマン?

そんなの……



そんなの









日々は過ぎ、そんな家からは出て私は28歳になった

マイホームを手に入れ、旦那と仲良く暮らし、幼い子供もいる。


だが、そんな昔を思い出していたのには理由がある。

物置部屋と化した一つの部屋

その扉を、そっとしめる


いけない、私は父じゃあるまいし

そんなことしちゃいけない



いけないけど……




あの頃のわくわくがよみがえる


あの先になにがある?そう思い続けた……その日々……



「ママー遊んでー」


「え、ええ良いわよ」



やたらとごつい南京錠をかけて

私は唾を飲む




「どうしたの?ママ」


「ああ、いえ、あの、そのね


いい?この部屋は絶対開けちゃいけないからね

ママとの約束よ」


ああ、恥ずかしい

いつかバレる日がくるとおもうと恥ずかしい



しょーもないこのロマンの遺伝には逆らえなかった。



だって、うん




自分ちに『開かずの扉』があるの

やっぱ格好いいもん。





end

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