異世界に転移してスイーツ店を開いたら、騎士団長に愛されました
1700年代後半~1800年代の調理風景を再現した動画を見て思いついたネタ。
電気もない時代に、甕やら鉄器やらを駆使しつつお菓子を作る……それも一・二個程度ならともかく、スイーツ店を開くくらいともなると、筋肉凄くなりそうだなーと思ったことから浮かんだお話です。
異世界に転移した女子高生。
そこは電気も文明の利器もない、まるで大昔に戻ったかのような世界だった。
言語理解以外に特別なチートなど何一つなく、最初は苦労の連続でしかなかった異世界の生活だったが、JKが異世界で一番最初に出会った心優しいおばあさんの手を借りながら、なんとか暮らせるようになってきた。
とにかく日々の糧を得るために、仕事をしなくては。
けれどただのJKでしかない彼女は、仕事をした経験がなかった。
もしも職歴があったとしても、現代の経験が異世界でどれだけ通用するかなんてわからない。
唯一人より秀でていることは、趣味のお菓子作りのみ。
この世界の菓子は材料を混ぜて焼くだけの素朴なものが多いから、フルーツなどをふんだんに使った、手の込んだ菓子なら売れるだろうと考えたJKは、スイーツのお店を開くことにしたのだった。
その後は店を繁盛させようと、必死の毎日。
たゆまぬ努力と現代ふうの味付けの甲斐あって、異世界のスイーツ事情に大革命を起こすこととなる。
店は予想以上の大繁盛で、連日お客さんが殺到。
目標を達成したJKだったが、一つだけ大きな悩みができてしまった。
それは、己の筋肉(特に上半身)が非常に逞しくなってしまったこと。
前述のとおり、JKが転移した世界に電気はない。
当然、ハンドミキサーもブレンダーもない。
つまり菓子作りにおける全ての工程を、手作業で行わなければならないのだ。
メレンゲやホイップクリーム作りは、材料を泡立て器でジャカジャカ掻き混ぜなければならない。実はこれ、地味に重労働だったりする。
攪拌機もないので、バターを使うときは、まず牛乳に塩少々を入れたものを小さな蓋つきの甕に入れ、ひたすら振り続けてバターそのものを作るところから始める必要があった。
少量であればそう大したことはないかもしれない。
けれど販売するために、大量に作らなければならないのだ。
そして調理器具は、鉄製か銅製。ボウルなどは大体陶器。
重い。重すぎる。
さらには小麦粉なども、一キロ単位なんてかわいいサイズで販売されていない。大体一袋二十五キロ。それを自分で運ぶ必要があった。
頼めば商店の人間が運んできてくれる。
ただし有料で。
最初の頃お金がなかったJKにはその手間賃を払う余裕がなかったし、同居しているおばあさんにも運べる力などない。
だから一人で運ばなければならなかったのだ。
もはや毎日が筋トレ状態。
お菓子作りを頑張れば頑張るほど、筋肉が発達していく。
異世界転移から三年ちょっと経過した現在では二十五キロの小麦粉の袋を何十も乗せたリアカーを楽々運べるようになったのだが、おかげでブラウスは二の腕がパッツパツ。かなりの肉体美を誇るようになってしまった。
ちなみに転移した世界では、女性は華奢であるほど美しいとされていたため、彼女は全くモテない。
お菓子は美味いけどあの子はちょっとなー、恋人とか嫁とか考えられないwwwと言われ続け、女性としての自信をどんどんなくしていく。
しかし神は彼女を見捨てなかった!
それは王都から、彼女の住む僻地の町まで遠征に来た、騎士団の団長 (ムキムキマッチョメン)だった。
彼は抱けば壊れそうな細腰や、握っただけで骨が砕けそうな腕をした華奢な女性には、全く興味が持てず、健康美溢れる肉体の女性を求め続けていたのだ。
元JKの逞しい筋肉に一目惚れした騎士団長は、速攻プロポーズ。
そして彼女もまた、だいぶ厳ついけれど男臭い魅力に溢れた騎士団長に一目で心奪われ、さらには
「俺と毎日一緒に筋肉体操ができる女性は君しかいない。君は俺にとって最初で最後、唯一の伴侶だ」
という熱烈な告白に感激し、求婚を受けたのだった。
騎士団長の妻となった元JKは、おばあさんも連れて王都にお引っ越し。そこでもスイーツ店を開いた。その美味しさは、王都の人々をも魅了して店は大繁盛。
優しくムキムキマッチョな旦那さまに愛されながら、幸せに暮らしたのでしたとさ。
<こぼれ話1>
菓子店の朝は早い(仕込みが相当かかるため)。
結婚後も日が昇る前に起き出すのは当たり前の話だった。
女の子が起きると騎士団長も目を覚ます。
「起こしちゃってごめんなさい。まだ早いから寝ててちょうだい」
「いや、一人で寝ているのは申し訳ない。この時間なら朝食までのトレーニングにもってこいだ」
毎朝早起きして筋肉トレーニングを行う騎士団長。結婚後はさらに筋肉に磨きがかかった。
そんな夫に惚れ直す妻。
「筋肉、最高……(うっとり)」
<こぼれ話2>
ある日妻から頼まれて、小麦粉を五十袋を買いに行くことになった騎士団長。
妻が利用している粉屋は、王都の外れにある。その距離おおよそ二十キロ。
筋肉を誇る騎士団長でも、さすがに一人では大変だということで、近所に住む弟分(騎士団の新入り・この日は非番)を連れて、リヤカーを引いて買いに行った。
到着後は団長が三十袋、弟分が二十袋をリヤカーに乗せて、元来た道を戻ることに。
重すぎる&家まで遠い! と、あっという間にへばる弟分。
「なんだ、情けないな」
「普通はこんなの無理ですから!」
「うちの妻はいつも二十袋を軽々運んでいるぞ?」
「え」
異世界に来て、筋肉だけでなく体力面も格段にUPしていた妻だったのでした。