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PHASE5 初戦闘

 僕は有村から身体を離し、構えを取る。

 なんでもやっておくものだ。

 爺ちゃんが僕に絵画のこと以外で教えてくれたことが今、役に立とうとしている。


「えー……強そうなんですけど……」


 クロスボウを構える青髪の女。

 あまり扱いは上手くなさそうだが距離が距離だ。

 射撃武器は近距離じゃ役に立たないなんてことはない。

 むしろ命中率や威力は格段に上がる。

 ここは!!


「走れ有村!!」


 叫ぶと同時に僕は通路の脇にあったダンボール箱を奴に向かって投げつけた。


「わっ!?」


 慌てたのか奴はダンボールに向かって矢を放ってしまった。

 中に詰まっていたのは空気で膨らますタイプの梱包材。

 そこに矢が刺さろうものなら当然、


 パンッ! パパンッ!


「わあっ!?」


 風船の破裂音は拳銃の発砲音に似ている。

 青髪の女は身を竦ませ、構えを解いた。

 その隙を逃がさない。


 身体を前に倒す。

 顔が床に叩きつけられそうになる直前、爪先で身体を押し出した。

 地面に張り付くような低空歩行。

 蛇が地を這うようにして奴の間合いに飛び込み、その手首を掴んだ。


「ヤバ!?」


 もう遅い。

 奴が振り解こうと力を入れた瞬間、その力を利用して一本背負いの要領で背中から壁に叩きつけた。


「うあっ!!」


 と女は声を上げた。

 普通の女の子なら失神するだろう一撃。

 だが意識は途切れず抵抗する力も衰えない。

 それなら!


「え!? なにするつも……ぎゃあああああッ!!」


 掴んでいた腕を両脚で挟み込むようにして思い切り伸ばした。

 腕ひしぎ十字固めという奴だ。

 腕一本を四肢の力でねじ伏せるそれはシンプルながらも最強の関節技のひとつ。


 女を地面に押さえつけている間に有村は廊下の奥の角を曲がって見えなくなった。

 これで一安心。

 有村にあんまり残酷なシーンは見せたくないもんな。


「は、はなしてえええええっ!!」


 さて、僕が総合格闘家か何かだったら降参をさせるためにこの技を使うのだろうけれど、生憎そんなスポーツマンじゃない。

 相手が女だろうが、腕が折れようが構わず全力で技をかけるだけだ。


 ゴキン、と骨が外れる音がした。


「イタタタッ!

【ショックアブソーバーのレベル9】でこの痛み!?」

「随分と余裕があるじゃないか」

「え!?」


 痛がり慄く女に囁き、伸ばした腕を今度は捻る。

 砕けた関節箇所をさらに破壊し、腱を引き千切りにかかる。


「イタタタタタタタ!!

 こ、このおっ!?」


 女は空いている方の手で殴りつけてくるが————非力。


 普通の女子と変わらない。

 いや今まで人を殴ったことがないのではないかと思うほどぎこちない動きをしている。


「あ……ヤバイッ! 壊れちゃうわね!」


 女が漏らした声に構わず、腕をねじ曲げていくと、


「イッ!?」


 女の腕が警告を発するような赤い光に包まれて————パリイイイイン! と音を立てて砕け散った。


 予想外の現象に思わず女を突き飛ばして退いた。

 二の腕から下がきれいになくなっているが出血はなく、切り口も骨や肉は見えず真っ黒な平面となっている。


「お前……人間じゃないのか?」


 僕の問いに女は口元を歪めて怒鳴り返す。


「人間よ! 人間の皮を被ったあなた達【インベーダー】よりよっぽどね!」


 インベーダー?

 あのゲームのアレか……たしか、意味は「侵略者」とかそんなのだった気が————って!


「ふざけるな! お前らの方がよっぽど侵略者だろうが!

 罪もない人間が暮らす平和な街に武器持って乗り込んで来やがって!」

「さっきからなんなのよぉ!!

 精神攻撃してくる敵なんて反則じゃない!?

 こんなクソゲーもうやめたい!!」


 熱くなっている僕だが思考の冷静な部分では連中の正体に対する推察が固まりつつある。

 だが、そこにカロリーを割り振るよりも目の前の脅威の排除が先だと判断する。

 女は残った左手にナイフを持ち構えた。


「もうアンタを倒すことに躊躇しない。

 こっちも精神攻撃くらっているんだから正当防衛よ」


 文句の付け所だらけのセリフだが、まともに相手するのもばかばかしい。

 奴の戦闘力は見たところ普通の女と変わらない。

 ナイフをはたき落して顔面に一撃くれてやる。

 そして有村を追おう。


「くらえええっ!」


 甲高い声を上げて女がナイフを突きつけながら向かってくる。


 遅い、拙い。


 交差する瞬間にクロスカウンターを放り込んで決着だ。


 一歩踏み出し、拳を放とうとした瞬間だった。


 女の動きが見えない糸か何かで引っ張られているかの如く、急速に正しい攻撃姿勢に矯正され、下手な突進が鋭い刺突に変わる。


「なっ!?」


 咄嗟のことに面くらいながらもかろうじて踏みとどまり回避する。

 だが見違えるように洗練された動きで女はナイフを振り回して僕を攻め立てる。


 手加減されていた?

 いや、これはそういうのじゃない。

 これはおそらく————って! 原因を考えている場合か!


 間隙を縫ってローキックで内股を蹴りつける。

 女はバランスを崩し、前のめりに倒れるかに見えた。

 だが、倒れかけた状態から物理法則を無視したような動きで僕の間合いに滑り込み、脇腹目掛けてナイフを突き立ててきた!


「ぐあっ!!」


 僕の呻き声に女は戸惑うように笑って、


「や……やった!?」


 なんてほざいてる。

 やれてねーよ。


 すんでのところでナイフの柄を握り込んだ。

 だが無傷とはいかず切れた掌から血が滴りナイフの刃を伝って落ちる。


「わっ!? 血が!」


 女は僕の血を見て慄く。

 その様子で確信した。

 この女は人を殺したことはない。

 それどころか血を流すレベルのケンカも経験していない。

 だが片腕だけで繰り出したナイフ捌きは軍人さながらで、今も脇腹に目掛けてナイフがじわじわと迫っている。

 言動がチグハグでアンバランスな目の前の女に苛立ちにも似た怒りが込み上げてくる。


「お前、本当に僕を殺す気あるのかよ?」

「う……そ、そりゃあできればこんなことしたくないけど、やらなきゃみんなに何されるか……」


 意志の弱そうなたどたどしい喋り方。

 きっと喋ることにいっぱいいっぱいで周りが一切見えていないことだろう。


「覚悟がないなら…………人に武器を向けるんじゃない!!」

「ひっ……!」


 僕は()()に向けてこの言葉を吐いた。


 目の前の女はビビった。

 そして、その女の背後に立っていた()()は————思いっきり、モップを女の後頭部に目掛けて打ち下ろした。


「ぎゃあっ!」


 悲鳴を上げて女が顔から床に倒れ込んだ。

 直接ぶつかったのはゴーグルだが、衝撃はキチンと伝わっていたらしくかなり派手に倒れ込んだ。

 気絶しているかもしれない。


 だけど、そんなことより!


「有村!? 何戻ってきてんの!」

「心配だったから戻ってきてあげたんだし!

 これでも中学の頃ラクロス部だったもんね!」

「道理で長物使い慣れてる……いやいやおかしいでしょう」


 正直、有村が殴り掛からなかったら僕が歯を折るくらいの一撃をお見舞いしていたから結果は変わらないんだけど、でも助けられたことが嬉しかった。

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